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1回目のプロポーズ「勇者、混沌に立つ‼︎」(決)

※19年8月21日に大幅な変更をしました。

 ーー幸運。

 僕のその言葉を聞いて、『自らがまさに該当に足る人物』だという方は悪いが今すぐここを出て行って欲しい。自らを幸運と呼べる人物にはこれから僕が紡ぐ物語は何の意味も示せない。何の効力も発揮出来ない。ただ虚しいだけだ。

 では猶予として3秒間だけ待つことにする。

 一、

 二、

 三、


 幸運を名乗る人物諸君はもう出て行ってくれただろうか?

 宜しい。話を進める。


 まず僕が伝えたいのは、僕の出会った『幸運』についてだ。申し訳ない。僕は本物の『幸運者』なのだ。

 幸運とは思い掛けない場所を好む習性を持つ。所謂お金は寂しがり屋みたいなものだ。

 その時、確か半年ぶりくらいに両親の畑仕事を手伝った。定職に就かずふらふらと、妄想ばかりを膨らませている生粋の怠け者である僕は、両親の開いたと思えば愚痴ばかり聞かされ続けた挙句に、口論となり、二度と畑仕事はやるまいと心に固く誓って、仕事を放り出した。


 そんな帰路、一人の少女に、出会い頭に命令された。



「帰る家を忘れた。一緒に住まわせろ」



 これが少女ゼウスとの出会いだった。


 僕は30代半ばになって、両親の仕送りでバイカル王国の片隅で生活している。バイカル王国は海や山、ダンジョンなど観光資源が豊富にあり、多種多様な人種が往来する活気溢れた王国だ。

 ここ最近の定番であるバナナ飴を少女ゼウスに買い与え、城下町の裏路地で暇を持て余していると少女ゼウスが唐突に質問した。



「ケイは欲しいものとかある?」



 自宅の小さな浴室で少女ゼウスの髪を僕が洗っていると、ふと頭に浮かんだ。



「嫁さんかな…」



 柄にもない願望を口にして、いささか気恥ずかしい気分になっていた時、少女ゼウスは濡れた髪をタオルで拭きながら、僕が想像したこともないものをこちらに向かって無造作に放り投げた。

 薄っぺらく、なのに重量感のある()()なものだった。少女ゼウス曰く「奇怪(スマートフォン)」とかいう代物らしい。



()()()の連中は皆それに夢中だぞ、馬鹿みたいに。それ、起動してみろ」



 奇怪(スマートフォン)()()中央のボタンを力強く押していると、怪しい光が僕の顔面を照らした。白地に黒のリンゴ?のような絵が現れ、バイカル王国楽団の演奏かと勘違いするような見事な音楽が一瞬流れた。

 思わず肩を竦めた僕の両手から、奇怪(スマートフォン)が零れ落ちる。間一髪、床の石畳と衝突しそうになった寸でのところ僕は掴み直した。危なかった。奇怪(スマートフォン)をこんな石畳に落っことすのはバリバリに嫌な気がしていたからだ。



「こうやる。これを、スクロールという」



 簡易的な奇怪(スマートフォン)教室を少女ゼウスに開いてもらい、僕はなんとなくの使い方を学ぶ。



「これが唯一のインストールアプリ、ずばり婚活アプリだ。異世界のお姫様たちが自らの紹介状をここで披露している」



 自身そのものを鏡のように投射出来るとは素晴らしい。そしてどの姫君も美しい顔形、ドキッとするような体躯をしていた。この中から将来の妻を選べるとは、ワクワクが止まらないぜ。僕は荒い鼻息で数多の姫君を品定めした。



「こらこら。ケイが選ぶのと同じように異世界の向こうの姫もケイを選ぶのだ。『いいね』を押されなければ、どんなに可愛い姫とも会話は出来ん」



 な、なんと。こちらもしっかりとした男であることをお姫様に示す必要があるのか。しかし…。



「嘘もいかん。嘘を吐いて出会えたとしても、死ぬまで嘘を吐き続けられる訳がない」



 思っていたのと違った。

 この世界で国一番の怠け者の僕が、異世界のお姫様の心を射止るなど出来る訳がなかろう。

 この世界で恋人いない歴イコール年齢の僕が、異世界に行ったらモテモテでしたなんて絶対に有り得ない。

 目前に並ぶ、職業、趣味、収入、座右の銘など数々の入力必須項目の空欄を眺めて僕は目眩がした。


 絶望に打ちひしがれる僕に向かって少女ゼウスは声を掛ける。



「心配するな。ワシと一緒に魅力的なプロフィールをこれから作っていけば良いだけの話ではないか?今は嘘の紹介状でも、成し遂げればそれは決して嘘ではない。本物なのだ」



 僕にそれが出来るとは到底思わなかった。



「まあ、とりあえず今日のところは名前と、そうだな。職業くらいの初期登録は済ませておこうか」



 僕は自身の名前を切りの良さから一文字『K』と入力した。

 さて、職業だ。

 順当に勘案すれば、自営業か農家あたりか?本当のところそれは両親であり、僕ではない。嘘に当たるか。



「なあ、こんなのどうだろう?勇者」



「なぜだ?」



「小さい時憧れていた職業だからだ」



「…ふむ。案外ありかもな。そもそも婚活アプリで職業欄に勇者と明記するのは相当な阿呆だろう。だが逆に、そんな阿呆もするにはそれ相応の覚悟、()()もいる。ケイは『今から』勇者という嘘を、真実にすべき努力をしていくのだな?」



 僕は無言で頷いた。

 僕は婚活アプリがきっかけで、勇者としての道を歩み出したのだ。





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