N国白の塔
「グレンダール殿下の所に行って、闇魔法を使ってきた。アレクシス様は魔力供給していないことになっている」
けろっとした顔でケントくんがいう。アレクがN国へ行ってからケントくんが迎えに来るまでの数日の間に、わたしたちの家が用意されたそうだ。荷物はもうとっくにできているから、挨拶をして出掛けると転移施設からあっという間に転移した。
「あれ、ここはどこ?」
美しい緑がまぶしい、広大な畑の中の一軒家の前に着いた。中に入ると家具もなにもない、木でできたがらんとした大きな家だった。現代的な都会生活は?
「アレクシス様は家にいるから」
ケントくんに案内されて畑の中の道を進んでいくともう一軒、木でできた大きな家があった。
「こんにちは」
「ああ、ミサト」
天井が高い大広間の真ん中で、小さな女の子を空中に浮かせたアレクと男の子を透明な玉に入れて浮かせたケントくんのお父さんがいた。
「いらっしゃい、びっくりするでしょう」
とユキさんが奥の部屋から出てきた。
「母さん、仕事だから」
ケントくんがそういうと、ユキさんが子供たちを奥の部屋へ連れて行ってくれた。
「はじめましてミサトさん、N国の宰相補佐をしているユーリです」
さっきまで普通のお父さんにみえていた人が、急に大きくて威厳のある人に変わる。ユーリ宰相補佐は、わざわざわたしたちの戸籍を登録するために来てくれたそうだ。
「N国人は名字を使わないことになっているから、魔術師として名前だけ登録するんだよ。アレクシスくんはファンジュールではなくなるし、ミサトさんはこの世界で自分の名前だけで生きていくことになる。いいかな?」
「はい」
署名をすると、わたしたちはただの魔術師になった。二人とも今までのすべてをなくしたようで、希望と不安で顔を見合わせた。その日はケントくんの家に泊まって、いよいよ明日から出勤する。
「白の塔へようこそ」
翌朝、転移してN国の王城に着くと、強面のごついおじさんに迎えられた。N国最強の魔術師集団といわれている白の塔へ行くそうだ、アレクが教えてくれた。
「塔主のジークだ、よろしく」
ジーク様が城の左側にある白い塔の中へ案内してくれた。最強の魔術師が仕事をしているけど、役所の中の事務員にみえる。真ん中の大きなジーク様の机の前に立った。
「とりあえず、お嬢ちゃんは王立学院で魔法のお勉強か、おいケント、学生じゃねーか」
「異世界人で、研修生ですよ」
「ああ、そうか、それでか。後で誰か王立学院出身の者に連れて行ってもらってね。ケントはたちが悪いから他の者に…」
「なんで!俺がいきますよ」
ケントくんはたちが悪いのか、笑える。アレクも笑ってる。
「それから、アレクシス・ファンジュール室長、おうわさはうかがってます。N国に来てくださって、うれしく思ってます、ほんとに、何年かかったか、とにかくよかった、ケントのおかげだな」
「どんなうわさかな、大国①での私は捨てて来ました。新人で部下ですから、よろしくお願いします」
「ま、そういうわけにはいかないけど、宰相が待ってますからとりあえず行きましょう。何年もあなたを待っていた男ですよ」
なんかちょっとアレクが引きつっている。トラウマ?
わたしも一緒に王城の中央棟の奥に案内された。宰相室の中も事務室みたいで、多くの人が仕事をしていて忙しそうだ。その奥にいる小柄な男性が宰相様だそうだ。




