魔法を使う
「俺はミサトの魔法の方が重要だと思う」
初めての夜会でケントくんが言った言葉が気になって、ずっとそればかり考えている。夫婦でN国へ来てくれたらいいのに、といわれたことも。
N国の誰か別の人が召還してくれたのなら、わたしは魔術師としてN国で由紀さんのように自由で幸せだったのかな。
うっかりわたしをよぶなんてアレクはまぬけだ。そこから全てまちがえている。何もかもなかったことになったらいいのに。
ケントくんにいわれたせいか、最近は書庫で熱心に魔術関連の本を読んでいる。なぜか手にとった本の内容を知りたいと思ったら、翻訳して読めるようになっていた。
ファンジュール家の本棚には魔術関連の本がかなりあって、書庫に案内してもらってからしばらくは、一人で基本を勉強しながら読んでいた。でも今日は、魔法陣をかいて魔法を使ってみたい。
薄暗い書庫の中で、小さな灯りを出す魔法陣を小さくかいて、魔法の力をその中に入れると仮定して手をかざしてみる。ケントくんはミサトの魔力がすごい、っていっていたんだから。
「光って、お願い」
しゅるっと小さく風がおこり、ふわっと光の玉が浮かび上がった。わぁ、出た!こんなふうに魔法が出てくるんだ。わりとしっかりしていて、ろうそくのように揺らいで消える感じではない。硬い光の玉になっているみたい。
それを空中の高い位置に置いて次の本を探すと、魔法の種類が書かれた本があった。闇魔法と光魔法が対になって書かれている。
闇魔法の項目に心や記憶に干渉する魔法があって、くわしい解説を読むと記憶を消すことができるそうだ。わたしの記憶、アレクの記憶、誰かの記憶?どうしたらうまくいくのかな、なんてしばらく考えてしまった。
N国の魔法は基本的な魔法からは考えられないことができるそうで、両親宛に手紙を書いたら異世界へ送れるといってきた。それでその夜に両親宛の手紙を書いた。
(異世界でお金持ちの貴族と結婚して、優雅に暮らしているから心配しないで。アレクシスは王子様みたいにすてきな人で、会ったら驚くよ。この世界は魔法があって、わたしにはすごい力があるんだ。魔法使いになれるかも)
この手紙は書けば書くほど嘘くさい話になっていく。この貴族街の住所と名前はミサト・ファンジュールで、両親の住所と郵便番号を書いて封をした。
(ケントくん、後で手紙を取りに来てね)
(わかった)
おお、なんとなく話かけたらケントくんの声がする。これも魔法だからわたしが使えているのかな、ケントくんの力かな。
もし記憶を消す魔法を使ったら、どうなるんだろう?わたしはケントくんに誘われて、N国の魔術師として就職して、それから?
アレクではない誰かと結婚して、誰と?幸せに暮らすのかな、アレクをここに置いて行って。アレクとグレン様のうわさをきいたら悲しい気持ちになるんだろうか。
アレクシス・ファンジュール様宛に、もし出て行くとしたらと考えて、手紙を書いてみた。
翻訳はできるけど手紙は日本語でしか書けないから、読んでしまってもわからないだろう。
(今までありがとう、あなたに忘れられるのは悲しいけど、魔術師として遠い異国でがんばってみるよ。お世話になりました。
うらんでいたけど、今は感謝している。とても幸せな時間だったよ、お元気で、さようなら)
署名をしてから封をして、ペンを元に戻して机の上に置いた、はず。
少し部屋から出て、戻ってくるとそれがない。あれ?両親宛のはあるから不思議だな。その日は忙しいようで、ケントくんは手紙を取りに来なかった。




