結婚
由紀さんと会った後、ケントくんに自宅の応接室まで送ってもらった。1,2時間で戻ったはずだけど。
「よかった、帰って来た」
青ざめた顔で、気落ちしたアレクが待っていた。
「大丈夫?何してたの?」
「N国の秘密は話せないわ」
「ミサトは私の妻だからN国人じゃないでしょう」
「なに言ってるの?」
「召喚した翌日の朝に結婚の説明をしたよね、書類を提出して、君を保護して守るって」
そうだったかな?いろいろあって混乱していたときだ。
「だからすぐに婚姻届を出したよ、書類上の手続きをすると説明したら、お願いしますといわれた」
「すぐに結婚したの?」
「私は責任を持って、君と一緒に暮らす覚悟があったから、それも言った。こちらではね、女の子を勝手に連れ出して自宅に何日も住まわせたら、責任をとるものだよ」
「そういうものなの?結婚って」
「初めから君は私の妻としてこの家にいるし、家の者も皆そのように接していたでしょう?」
そうか、それでこんなによくしてもらっていたのか。
「たまに同じベッドで寝ていたらおかしいと思うでしょう、君の世界では他人の男と一緒に寝ることがよくあるの?」
たしかにおかしい、なぐさめていただけにしても変だよね。それならこの世界では、好きになった相手じゃなくても結婚するのかな。
「そうなんだ、それじゃなんとなく結婚することもあるんだね」
「誰がなんとなく結婚した?」
おおっと、また怒ってる。
「わたしとアレクシス様が」
「バカなの?なんとなく結婚するわけない」
それってどういうこと?
本当に結婚していたことがわかってしばらくすると、夫婦で大国①の夜会に招待された。
アレクが熱心にダンスの練習をしようとさそってくるけど、どうも得意分野ではないみたい。
国王主催の夜会は昔よりも回数が減って、貴族の交流の場から外交員の交流の場へと変わっている。礼儀作法よりも多文化交流が重要になっているから、ダンスの練習をさぼっているのにとがめられないでいる。
そんなわけで、なんとなく普段よりキラキラしたものが多めに付けられているわたしは、夜会の会場でケントくんと話をしながら、おいしいごはんを食べている。
これって外交員の接待をする、有能な伯爵家の嫁の姿になっているのかな?姉弟のようにみえるかもしれない。
その弟が鋭い人物評をするから、目を丸くしてきいている。N国ってすごいしおもしろい。
ケントくんは若い女性の視線をちらちらと感じる人気ぶりだけど、わたしと話しているせいで誰も近づけないし、そんなことを本人は無視している。
「N国の外交は大丈夫なの?」
「俺は特別だから目立っちゃだめなんだよ」
「じゃあずっと同じ場所にいないで、ダンスでもしてみる?」
「できるの?」
いいえ、わたしは無理。
そんなケントくんが夫であるアレクの人気ぶりを解説してくれる。
「いろんな人が近くにいるよ、きれいな顔目当ての女の子と魔力狙いのN国の外交員」
それは君だ。
「大国とちょっとしたつながりがほしい小国の外交員、顔見知りの貴族令嬢。女性が多めに話しかけてるね。それとこの国の王太子、うわさかあるけど知ってた?」
うん、あれね。
「その話はどこまで本当なの?」
ちょうどグレン様とアレクが笑顔で話をしている。
「N国の外交員には言えないわ」
「うわあ」
ケントくんの顔が少し赤くなった、かわいい。すると突然アレクの鋭い目がわたしをにらんだ。なんで話の内容がわかったのかな、わー、こっちに来る、まずい。
ケントくんは一瞬でしれっとした顔に戻った。
「お久しぶりです、アレクシス様」
威厳まで急に出てくる、すごい技だね。
「妻がお世話になっております、ケント様。ミサト、N国のナンバー2のご子息だよ、そうでしょう?」
「さあ、公表していませんから」
わー、びっくり。
「グレンにミサトが喜んでるっていわれた」
悲しげ。アレクって遠くからみてると素敵なのに、近くにいるとなんで残念な感じなのかな?
「アレク、わたしはファンジュール家の代表として外交している姿が好きよ、がんばって」
無理してウインクまでしてみたら、すぐにグレン様のところへ戻って行った。
「N国が苦労しているアレクシス様が、ミサトの前ではまるで犬のようだ」
ひどい言い方されてる。
「N国は魔術師としてどうしてもアレクシス様がほしいんだよ。王太子の愛人じゃ無理だけど、ミサトがいれば来てくれそうだ。こんなことを簡単に言えないんだけど、夫婦でN国に来てくれたらいいのにな」
魔法大国へ夫婦で住むなんて考えたことなかったけど、あの現代的な世界へ行くってこと?
すごいけどアレクは奇跡でも起きないと無理じゃないかな。




