シャラナの上陸
龍脈の流れをみるときも、魔素をすいとるときも待っている。
壊れた船が降ってくるときも、魚の群れが通るときも、その中にまぎれてしまったかと探している。
もう来ないさ、こんな深い所がわかるわけない、と思っても、次の日には期待する、だって魔王様がいうから。
そしてある日、いつものように浮かんだり沈んだりしていると、明るい光が射して、上から丸い球がゆるゆると降りてきた。
中には二人の人間がいて、一人は師匠ほどの七色の魔力があって光るからよく見えないが、もう一人、人間の女は素直な心が透けてみえるほどかわいらしい。
(魔王様にいわれて来ました、友となるものですよー)
友だ、この素直な娘がわたしの友なのだ。姿を目にやきつけるようにみつめる、髪も鼻も指も、二つに分かれた足も。
(ケント師匠、やっぱりいませんよ、きこえないのかな)
いや、きこえている、くすぐったい気持ちがして声をかけられない。
七色の魔力が滞った人間の娘、かわいらしい姿を目にやきつけた。
(仕方ない、帰るか)
ああ、みているうちにゆるゆると上がって行ってしまった。
それから何日もずっと一人でいる。
毎日気になってどうしようもない。
わたしの友、あの素直そうな娘に逢うにはどうしたらいいだろう。
好奇心のまま動こうと考えると、結論が出るのは早かった、そうだ、ここで考えていたところで、100年たっても変わらない、今行こう。
ははは、簡単だな、なんてことだ、決して陸には上がらないといっていたのに、逢いに行く気になっている。
浮き上がりながら、素直そうな女の形に作りかえなくてはと考える。人が光を使って見える色にして、なにか布を巻いて、あとはどうすればいいかな。一つ一つ作るのは、はずかしいような、うれしいような、友人とはこんな気持ちなのだろうか。
ふふふ、陸に上がるのは初めてだ。
どんなに誘われても上がらなかったわたしが。会わずにいたら魔王様に悪いから?約束を違えるのはよくないことにしておこう。
あの娘のいる所へ、近くまで泳いで行く、特徴的な白と黒の塔が左右にある大きな城、その白い塔の中にいる。
海岸から陸へ上がる。
長い鼻を短くして、尾びれを二本の足に、胸びれを腕にして、先に手を作る。
指は5本ずつ、この指でつかんだり、細かい作業をするのだ、握ってまた伸ばす、まだ上手くは使えない、人とは不便なものだ。うろこを布に変えて体に巻きつける、長い髪は三つ編みにしていた。
あはは、上手くできた、ぺたぺたとひれで立ち上がることに慣れない、このわたしが、なんてことだ、ふらふらしておもしろい、もっと前に一度来ておくべきだったな、こんなにおもしろいなんて。
ごろんと横になってしまう、ひれで立たずにちょっと浮いた方がいいかな。
「きゃああ、誰か!助けて」
遠くで知らない女が叫ぶと、あっと言う間に白いローブの男たちに囲まれた。
この動かしづらい身体ではどうすることもできない。
「大丈夫ですか?」
そうそう、空気を震わせて音にするんだった。
「ふあー、あ、あ、大丈夫、こ、こ、転んでー」
「病気か?医者にみせた方がいいな」
「ああ、ろれつが回っていない、変だな」
なんだと、発音が違う?
魔法で男たちに運ばれたのは、白い塔の隣の建物だった、娘に近づいたけどちょっと違う。
これは困った。転移して逃げようか。




