シャラナ
シャラナの視点からの話になります。
わたしはシャラナ。
師匠は南の竜王様で、少し前に旅立って行かれた。
人の国のようなはっきりとした境界はないが、南の海を支配する竜王となるために、南の宮殿に入った。
それからずっと一人でここにいる。
この海の底で降り積もった魔素を吸い取りながら浄化している。長いヒレと長く伸びた鼻で、海底から悪いものを浄化しながら海を守っている。
人も昔はここにいたけど、新しくできた陸地へ行くと言って出て行ってしまった。
(私たちは新しい土地で幸せに暮らすんだ、一緒に行かないか?)
(だめだ!そんな所に行ったら死んでしまう、空気しかないんだぞ、水に戻れなくなったらどうするんだ)
(心配いらない、広い土地で水のように空気が満ちている、一緒に来ないのか?)
(待て!行くな、危険だ、水の生き物が水に戻れないなんて)
それなのに、笑いながら行ってしまった、あれはどうしているだろう。
「かわいそうなシャラナ、そんな暗い所にずっと一人でいるなんて」
最近魔王様がわたしのことをそんな風に言うけど、かわいそうなのはこの海から出て行った人の方ではないのか。
この世界はほとんどが海だし、陸の方が少なくて安定しない。
「あなたの所に友達が行くから、会ってね」
魔王様との約束を違える者がいるとは思わないが、友達はなかなか来ない。
底に沈んでしまったかと潜ってみたり、浅瀬にいるのかと思って浮き上がったりしている。
人がこんな所に来れるはずはない、と諦めてみるものの、やっぱり沈んでいないかと探している。
どうしたんだろう、どうして来ない?そんなことばかり考えるようになっていた。
ふふふ、おかしなものだ、あれはもう陸の生き物になって久しいというのに。友達とは不思議なものだ、わたしは何に惑わされているのか、ずっとこうしていたではないか。
ずっとどうしていたのか?よくわからなくなってきた。
(シャラナはずっとあの者を思っておるじゃろう?)
(まさか!師匠、このわたしが、そんなはずはない!)
(ははは、ではなんとも不思議な大声を出す)
ああ、師匠に笑われていた。
あれはわたしの印の鱗を持っているから大丈夫なはずなのに、今さらなんの心配を。こんな姿を見たらまた師匠に笑われてしまうな。
あれは大丈夫、わたしが浄化した水を陸地の空気の中に降らせてきたではないか。




