魔王様の話
「ナディーヤ、ごめん、私じゃわからないから別の方にきいてみよう」
会う前は緊張したけど、ケント師匠の父親で優しいユーリ宰相補佐にそう言われたら
「でもナナは連れていけないんだ」
ナナがいなくても大丈夫な気がした。
「わかりました、お願いします」
心配そうな顔をしたナナに大丈夫、と小さな声で言った。
わたしがナナにそんなこと言うなんて、初めてかもしれない。
その後すぐに、ユーリ宰相補佐と一緒に転移した。
着いた所は大きな石造りの謁見の間で、中央の豪華な椅子には美しい女性が座っていた。
「こんにちは、あなたがナディーヤなの?」
優しそうなその人が魔王様だとわかったのは、しばらくしてからだった。
「誰がこんないたずらをしたのか、きいてみるからちょっと待っていて」
わたしの左手を優しく握った人が、伝説の恐ろしい魔王のイメージとは違っていたせいもあって、なぜだかすんなり受け入れられた。
「ああ、やっぱりそうなのね。確かに竜王様に関係あるんだけどちょっと違って、その弟子、なのよ。友達になってくれないかしら?」
わたしが竜王様の弟子?とですか。
「あなたを選んだのはその弟子の方だから会いたいはずよ、シャラナに会って理由をきけばよくわかるわ」
「ナディーヤの休日にケントと一緒でいいかな?」
「ええ、いつでもいいわよ」
会いに行くことになった。
会いに行くといっても、海底に住んでいる竜王様の弟子には海に潜らないと会えない。
そこで、ケント師匠と一緒にN国の南にあるパルネリア国の海岸から広い海に出ようとしている。
パルネリアは貿易国で広い港にたくさんの船が並んでいる。
その一番海側の隅から海に潜りたいんだけど。
「結界で自分が入る丸い玉を作るんだ」
そんなこと言われても、作ったことない。
「じゃあ、この結界の中に入って」
ケント師匠が作った結界に入ろうとしても、弾かれる。
「なんで?ナディーヤにはその力があるのにどうして魔力を使わないの?そうしたいと念じればできるよ」
「こんな魔法使ったことないから無理ですって!」
「君たち、ここで何をしているんだ?」
ケント師匠とわたしは、パルネリア海兵隊の事務所に連れてこられた。
「N国の魔術師がなんでこんな所に居るんだ?魔術の実験だって?許可がないんじゃできないよ」
厳しく怒られている。ケント師匠は何も言わない。
数時間怒られて、港の使用許可証をやっと発行してもらった。ケント師匠が持っていたN国の魔術師の証明書が役に立ったけど、言っただけでは少しも信用してもらえなかった。
「魔法使えよ、できないんだろう?」
なんて言われたけど、ええ、できません、わたしが闇魔法以外の何かできるか、と期待してみていたケント師匠もがっかりしていた。
わたしの魔法じゃなくて、ケント師匠が港の使用許可証を発行してもらってなかったのが悪いよね?




