デルネヘル
「デルネヘル様が生まれる前から侍女をしております」
デルちゃんを連れて行く前に、近くにいた女性から事情をきかせてもらった。
皇帝と側室の結婚は、赤ん坊が魔の力に取り憑かれるまでは幸せなものだったそうだ。
でも呪術の国で魔術は一切認められていない。
「デルネヘル様が魔の力に取り憑かれてからは、この部屋は捨て置かれ、お命を狙われております。魔女様は魔法で子供をさらっていくのではないのですか?」
そんなことになってるの?どれだけ評判が悪いんだろう。
「母上は病気なんだ」
そうなんだ、かわいそうに。
「魔女様がさらっていってくださったら、そう願ってしまうのはまちがっているのでしょうか?」
ほとんど泣いているような声でいわれる。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ」
正式なN国の書類にサインしてもらわなくては、勝手に連れていけるわけがない。
「デルネヘル様の母上様にお会いできますか?N国の魔術師アレクシス・ファンジュールの妻です、家で大切に育てますから」
「あの!聖人のアレクシス様なんですか?」
あの!そうそれです、こんなところで役に立つのか。
侍女さんがご病気の母上様のところへ行っている間、デルちゃんとおはなしした。
「わたしはデルネヘル様をN国へ連れて行って、魔術師にしたいんです、もうなんの心配もいりません、母上様の元を離れてしまいますが、立派な魔術師になって戻って来ることもできますよ、一緒に来ますか?」
デルちゃんはうつろな目のまま、コクンとうなずいた、目に涙がたまっているけど表情がない。不安なんだろう、こんなに小さな子供が。
「お姉ちゃんの家へおいで!もう泣くひまもないくらい大切にしてあげるから」
小さい体を抱きしめていると、少し落ち着いた。
「魔女様、これを」
指輪と書類を持った侍女さんが戻って来た。
「これは皇家の紋が入った指輪でございます、まだこちらへいらっしゃることはできないのですが、どうかご無事でと。アレクシス様にデルネヘル様をお守りください、と願っておられました」
「わかりました、N国のファンジュール家で大切にお守りいたします、またいつでも安全に帰ってこられます、とお伝えください」
侍女さんと別れて、お待たせしていたネーデリアの英雄、リゲル様に抱っこされたまま、船の中でデルちゃんは少し眠った。ルパニアからネーデリアに船で戻って、すぐにN国へ転移して家に帰った。




