ハヤトの役割
「あの子はどんどん成長していって、騎士団の精鋭になりそうなんだよ。困ったな、田舎からぽっと出てきた若者だったならどんなにいいだろう。性格も良くてみんなに懐いて、本当にいい子でね」
そんな悲しそうな顔でハヤトを褒められても、わたしにはどうすることもできない。レイナード副団長は残念だ、といって戻って行った。
「そろそろ帰りたくなったかなー?」
のん気なユーリさんの声がして、ハヤトが後ろにいた。
「はい、この世界で勇者が必要ないなら、帰った方がいいと思います。騎士団ではよくしてもらいましたけど、この世界の人間ではないですから、役に立てないようです」
「あー、役に立てないなんてことはないんだけど、帰りたいかい?」
「どういうことですか?もう必要ないと思ったんです」
「君のその特別な力は、君にとって必要ないものなの?元の世界で普通の生活をしたいなら引き止めないけど」
「この力は何だったんでしょうね、レイナード副団長と訓練するのは楽しかったな、自分じゃないみたいに上手く動けるんですよ」
「君の力は特別だよ、選ばれてここにいると思う。その力を使っていかないか?」
数日後、ハヤトは元の世界に帰って行った。
「ユーリさん、ハヤトは元気にしているそうです、兄と仲良くわたしの部屋に出勤してますって」
ハヤトと兄は、わたしの部屋の転移魔法陣を守る人になった。ユーリさんに雇われて、これからまたうっかり召喚される人がここを通らないように魔法で守る特別な役割をする。
重要な役目なんだけど、普段は暇なんだよね。
「こんにちは、また訓練にきました」
「いらっしゃい、レイナードさんが待ってるよ、また新しい技を考えたって?」
週に一度、騎士団の訓練に参加している。
「はい、今日試しに来ました」
ハヤトはこの仕事が気に入っているみたい、よかった。
「ミサト!この女を早くエルフの里に帰してしまって」
ああ、ここは静かな書斎だったのに、セレーシアのせいでひどいことになってしまった。
「あなたこそ!さっさと神殿に帰りなさいよ」
神殿はセレーシアなしで、かつてないほど権力と利益が増している。居づらいのはわかるけどね。
イーリはすべてを無視している。
「しばらく様子をみるしかないねー」
ユーリさんがそういうなら、わたしはかまわないんですけど、ハヤトもちょっと気になってるみたいですよ、険悪で。




