神殿への出張
「セルキアの神殿で何か動きがあるから、アレクと一緒に探ってきてくれないか」
とユーリさんに依頼されて、先に様子をみに行ったアレクと合流することになった。
二十年くらい前の内乱から完全に立ち直ったわけではないけど、セルキアの神殿はこの世界最大の宗教の中心地で、N国の神官の魔術師が派遣されて実権を握っている。
「フェリクス様は、最初から私たち下の者とは違って王子のような扱いを受けていましたよ」
とエマが不満げに、子供の頃通っていた当時のN国の神殿内の事を教えてくれた。当時エマは巫女候補になれると信じていて、自分の実力を評価してくれない神殿と、傲慢なフェリクスに腹を立てていたと。
アレクはフェリクスを訪ねているんだけど、大丈夫かな?
なんとなく不安なまま神殿に転移してきた。
「ちょっと待って、何してるの?そんなとこに上がっていいの?」
「あ、まだ動かさないで、スケッチが終わるまでさわらないで」
なぜか画家がスケッチしているのは、祭壇の上に凍ったまま寝かされているアレクで、フェリクスは満足そうにそれを眺めている。よくわからないけど、しばらく待たされた。
「出来ました」
「さあ、神殿の偉大な預言者は、妻の口づけで復活する」
このおかしな人がフェリクスかな、急いで!と促されるから、仕方なく凍死しそうなアレクを助けた。
「わー、ほんとにミサトが来てくれたー」
アレクが氷?のようなものをバリバリいわせながら立ち上がるのを、フェリクスが映像にしてどこかへ転送しているようだ。
遠くから多くの人の歓声がきこえてきて、花火がパンパンとはじける音がする。
「祭りをはじめよう!」
外に向かってフェリクスが宣言した、ここの様子は外へ映像で転送されていて、アレクはフェリクスの祭りに利用されている。
「アレクシス様ー、預言者様ー」
と外から叫ぶような声が聞こえてくるのに
「ミサトもきれいに描いてね、できたら教えて」
アレクは画家の絵の心配をしている、どうしてこうなった?
「協力してくれてありがとう、祭りを楽しんでくれ」
もう用事はないのだろう、フェリクスは神殿の奥へ帰った。
「ミサト、セルキアは祭りなんだってさ、後は見物して帰るだけだよ」
アレクがそう言うなら、ユーリさんが心配するほどのことはないのかな。
「大国①で誰かに負けたことはほとんどないんだ」
自信があるからと剣術大会に出て優勝したアレクと、その賞金でレストランのおいしい料理を食べていたことも。
「すごい!身内がこんなに活躍するなんて、剣術大会って楽しいものなのね」
「ミサトが応援してくれたからだよー」
なんて、二人でデレデレして浮かれていたことも、いけなかったのだろう。しまった!と感じたときにはもう終わっていた。
神殿の奥で誰かがどこかから召喚されてしまった。はっきりわかるほどの大きな力が放たれた後、神殿の奥に大きな力を持つ者たちが現れた。




