ファンジュール家
結婚式ではアレクに会いたがっていたヒューの都合がつかなくて、結局会えないまま帰った。ヒューはそれどころではなかった、ユーリさんのせいだけど。
「母が官舎に住むのを快く思っていなくてね」
N国の宿舎に戻ると、アレクがそんなことを言う。
「へえ、便利で都合いいのに」
「そのことで話をしたいらしい」
それで週末、お母様に会いに大国①のファンジュール家へ行くことになった。
執事のロバートに案内されて、お母様の部屋の扉を閉めるといきなり話が始まった。
「アレクシス、あなたたちは平民のような暮らしをしていたんですってね、ロバートからきいたわ、どういうことなの?N国に家の恥をさらすの?」
「母さん、N国では貴族文化はもう重要視されていなくてね」
お母様、わたしたちはもう家を捨てて異国へ行ったつもりだったんですよ、違うの?
「アレクシスはファンジュール家の長男として教育を受けてきたというのに、しっかりしなさい、あなたにはもう後がないのよ、いつまでも甘えたような態度だからきちんとできないんだわ、甘やかされて育ったから……」
お母様の話はどこまでも続く、アレクの生い立ちからまずいことになりそうだ。
アレクはファンジュール家を捨てた、と思っているのに、お母様はN国に分家をだしたと思っている。
そりゃ話が大きく違うね、お母様は家が完成したら、使用人から家具や調度品、備品の手配までするつもりで待っていたのに、連絡がこないから心配されていたのだそうだ。
一時間後に解放された。
「おつかれ、兄は昔から立ち回りが上手くなくて、頭はいいはずなのに問題ばかりだ」
と弟のアイクに言われてしまった、アレクは身内の評価が低いな。
「ミサト、ひどいめにあわせてごめんね」
お母様はひどいめらしい、お母様からみたら正論でしたけどね。
アイクはお母様に似ているが、アレクはお父様に似ている。ファンジュール伯によばれた。
「あれは生まれた時からアレクシスが可愛くて仕方ないんだよ、びっくりしたかい?アレクシスは特別なんだ、あれも愛情表現だからね」
「わかってますよ」
そうだ、甘えたような態度になるほど甘やかして育てたのはお母様なのだ。
「ミサトはアレクシスと一緒じゃ大変なこともあるだろうけど、見捨てないでやってくれ。アレクシスへの財産分与だが、管理しやすい辺境の土地を受け取ってもらおう、誰も住んでいない少し魔物臭い土地だが」
「ありがとうございます」
わあ、領地持ちの貴族になった?これはとりあえず家を買わなくてはいけないのかな?




