グレンダール殿下
王宮に案内してもらっているが、急いで会わなければならないのに遠い。隣町まで歩くようだ。
魔術棟から中庭を通り抜けたあとで、王宮の門で待たされて王宮の庭を通り、奥にあるいくつもの部屋を通過すると、最奥に入るチェックを受ける。
さらに奥へ進みかなり疲れたが、その部屋で待っていたのは王太子殿下グレン様だった。
「アレクシス、久しぶり」
この表情は、いくらアレクが否定しても愛情を感じる。
「お久しぶりです、殿下。こちらが異世界人のミサトです」
「異世界から召喚されて、不本意ながらアレクシス様に保護していただいている、ミサトと申します」
「そうなのか?アレク」
にらみ合うわたしたちをおもしろそうにみていたグレン様は、わたしの肩に手を置いてアレクをみた。
「じゃあ、この子もらってもいい?」
「いいわけないでしょう」
「わたし、王太子様の方がいい!」
「なっ!ばか、やめろ」
アレクはひきとめようとするが。
「じゃ、そういうことで、帰って」
とグレン様が笑った。
アレクが鋭い目つきでわたしをにらんで帰っていくと、グレン様と二人で顔を見合わせた。
アレクの外見が天使のようなら、この人は美しい悪魔だ。黒目黒髪の尖ったナイフのような美しさ。
「さあて、ミサト、どうしようかなー、アレクシスがあんなに気にかけるなんて、どういうことなんだろうね?」
「どういうことなんでしょうね?」
「あはは、アレクシスとちょっとこじれてる」
それで王太子殿下の客としてしばらく王宮に滞在することになった。護衛の付いた部屋から出ないようにと、何度もいわれている。
わたしの資料が整ったら王様に謁見するということで、一週間はかかるらしい。アレクが毎日来るはずだから心配しないで、とグレン様が言っていたけど、三日目になるが誰も来ない。
今日は初めて宰相様にお会いする。
与えられた部屋に豪華なティーセットが用意されて、落ち着いた感じのおじ様とにこやかにお茶会をしながら、確認される。人当たりのいい宰相様は、アレクと対極の性格をしているようだ。
資料を確認してもらって、口頭で内容にまちがいはないと返事をしているから順調に終わりそう。
「それでファンジュール夫人」
言いにくそうにいわれるが、こちらも何をいわれたんだかよくわからない。そういう設定にしてあるのかな。
「あなたは異世界人で魔力量が多い。困ったことに宮廷魔術師になれるほどで魔術関連の仕事をしてほしかったが、次期伯爵夫人でアレクシス君があんなになって隠したがっている様子をみると無理だろう」
「はあ?」
「あなたがいなくなるくらいで体調を崩すなんてね」
何やってるんだ、アレクは病気なのか?
「魔力は便利だから利用されやすい。これから身の回りが騒がしくなることもあるだろうけど、十分注意してね」
不気味な言葉を残して、人当たりのいいはずだった宰相様はばたばたと帰って行ってしまった。
翌日にはグレン様が迎えにきてくれて、謁見の間に案内されることになった。小さな応接室でいいのに、そうもいかないのかな。
「急に決まったんだ、悪いね、アレクシスがいないうちに話し合いたいらしい」
謁見の間でグレン様のいうとおりに、ひざまずいて顔を上げると、グレン様にそっくりな王様と笑顔の宰相様がいた。
王太子の友人の嫁という扱いで、少しくだけた話し方をしてくれている。
しかしもう一人、見慣れない外見の若者が緊張した顔でわたしを直視している。異質な何かに探られている、そんな感じ。
「アレクシスに奥方ができるとは」
と感慨深げな王様。そりゃそうだ、息子の愛人かも?といわれていたからね。少し言葉をかけてもらって、すぐに退出した。ほんの顔見せで終わるはずだった。
元の部屋に戻り、さあ帰ろうと思っていたところ、グレン様と宰相様、そしてあと二人、さっきの異質な若者とさらにどこかの王子様という感じの長い黒髪の男の子がいた。




