異世界の結婚
家に戻って電化製品をさわったり、わたしの部屋の本を読んだりとアレクは熱心に異世界の研究をしている。イーリに教えてもらっていて、言葉がわかるみたい。
「ミサト、これを簡単に口外してはいけないよ、この技術はおそろしい」
「ユーリさんちはみんな知ってるけどね」
「ああ、ユーリさんってほんとに……」
ぶつぶつ文句を言っている。
十日で帰る、と約束しているからそれまでにわたしの部屋に転移魔法陣を設置しなければならない。
アレクはケントくんと打ち合わせしてあって、物を送ったり戻したりした魔法陣をこちらと中央の島の城に設置して実験することになっていた。
そのために午後から大量のおみやげを買ってきて、ダンボール箱を五つ送ってみた、届いたかな?と思っていると、荷物が一つ届いた。
「このドレスは?」
「ミサト、ここでも結婚式をしよう、お母さんに頼んだらいいって」
ああ、このドレスを着てお母さんにみてもらって?それはいい考えだ。
「ありがとう」
なんか、叶わないと思っていたいろいろなことが一度にできて、泣きそうになる。
異世界にとばされた、と恨んでいた気持ちもすべてが必要で祝福されたことになって、この世界の自分と異世界の自分がやっと一人の人として重なった。
「これでどちらの世界のミサトとも結婚することになるね」
「そうだね、不思議、同じことなのに」
「全然違うよ」
数日後、お母さんが予約してくれたレストランに家族だけで集まって小さな結婚式をした。
アレクも入った家族写真をうれしそうにみつめるお母さんに、何度もありがとうと言う。
すっかり家族になじんだのに、あっという間に帰る日になった。
「じゃあ行くね、ありがとうございました、さよなら」
「みさと!」
もう二度と会えないかも……なんて考えない。
転移の嫌な感じが長く続いて、城のイーリの部屋に戻って来た。
「ただいま」
「おかえり」
ケントくんとイーリが待っていてくれた。
「あれ、ちょっと待って、忘れた」
なに?
アレクはもう一度魔法陣に戻っていなくなると、しばらくしてから戻って来た。
「買っておいた本とミサトの本を取りに行って来た、お兄さんがびっくりしてたよ」
「ああ、アレクありがとう、待ってたよ」
イーリが喜んで受け取った。
えー、戻れないと思って帰るときちょっと泣きそうだったのに。




