ミサトの世界
「お兄ちゃん、大変!みさとが来たわよ、ほら、あのアレクシスさんって人と、嘘でもないらしいわよ!」
「うわ、本物の王子?」
「初めまして、アレクシスです、王子ではないです」
「ほら、入ってちょうだい」
わたしは泣きそうになっているけど、どんどん押されて中に入る、なつかしい、家に帰って来た。
「今日お父さんは出掛けてるのよ、連絡してくれたらよかったのに、お帰り、みさと、元気そうね」
「うん」
もう半分泣いているわたしにかわってアレクが、真剣に今までの事を説明している。
カバンから異世界だと証明できるものを次々に取り出して、嘘ではない、と言いながら。
さすが宰相補佐、きちんと順序立てて練習してきたかのような完璧な解説をしている。
アレクって頭いい、いつも仕事中はこんな感じなのかなって、ぼんやりきいていた。
「わかったわ、みさと、大変だったのね、アレクシスさんもありがとう、みさとを大切にしてくれて、じゃあ、あちらではもう結婚しているのね」
お母さんは泣きそうだ、なぜかアレクも。
十日くらいしたら帰ると言うと、お母さんとお兄ちゃんが私たちも行きたいわ、という。
「たぶん大丈夫でしょうけど、まだ実験段階なんです」
とやんわり断られた、また今度ね。
一緒にお酒を飲んだり食事をしてすっかりなじんだところへ、酔っぱらったお父さんが帰って来た。
「お帰り、お父さん」
「……みさとか?」
お父さんはわたしの顔をみると泣き出した。
そして後ろにいるアレクをにらんで、この野郎!と殴りかかった。
力ないパンチが胸に当たるけど、ぐったりして抱きかかえられる、哀れこの身長差、なんとお姫様抱っこで中へ連れ去られた、ああ、お父さん、翌日までそのまま眠ってしまった。
二階の狭いわたしの部屋には二人分の布団が用意された、ぐっすり眠って、真夜中目が覚めた。アレクはどう思っているんだろう、よく眠っている、これは現実と何度もくり返し言ってみる。
翌朝七時頃自分の部屋で目覚めた、あれ?となりには誰もいない。
朝食を用意しているお母さんに遅いわよ、といわれながらアレクが散歩に出たときいてあわてて追いかけた。
晴れているけど肌寒い、神社へ向かったらしいから急いで走ると、のんびり前を歩いていた、よかった。
声をかけると立ち止まって振り返る、風景になじまないけどわたしにはいつものアレクだ。
「早起きだったね」
「うん、ミサトの国を少しでもみておきたいからね、早く慣れなきゃ、もしかしたらここに住むかもしれないし」
「ここに住むって……」
なんのためらいもなく笑う、アレクは祖国を一度捨てている、この人は本当にわたししか拠り所のない人なんだなあ、と思うとうれしくて悲しい気がした。
みんなが待っているでしょう、N国へ帰ろう、一緒に、そう心に決めた。
神社でお参りして、ここって神殿?と嫌そうな顔をするから、そんな怖いものじゃない、と説明する。




