異世界転移
週末に大きな旅行カバンを持ったアレクと、イーリの部屋にいるケントくんに会いに来た。
「ミサトががんばって浄化したおかげもあるんだけど、今この世界はとても安定しているんだ、ありがとう」
はあ、ケントくんに不思議なことをいわれた。
「以前ミサトの手紙を元の世界に送っただろう?その後もミサトのいた世界に物を送ったり戻したりしていたんだけど、何度でもできるから行き来しやすい世界になったみたいで」
行き来しやすい?
「いくつかある世界の中でも近くにあって、この世界と連動しやすいらしいよ、ブルー様もそんなに遠くないところにあって、みえないけど部分的に重なっているようだって言ってた。つまりね、今すぐミサトを元の世界に戻せるよ」
ケントくんがごく当たり前の結果報告をするようにいうと、イーリがうなずいた。わたし、帰れるの?思わずアレクをみるとアレクもうなずいた。
「私も行くから」
何言ってるの?あなた異世界人じゃない。でも置いて帰る?どうして今さら。
「と、とりあえず両親に手紙を」
「今すぐ帰れるのに?」
「だって……今?もうこのまま帰ってしまうの?」
「そう。十日後くらいに戻ればいいかな」
はあ?戻る?ここにわたしが戻って来るってこと?
「そうしてください」
アレク、何言ってるの?そのままわたしと荷物を抱えて魔法陣に入った。
転移の嫌な感じが長く続いて、わたしたちは見覚えのある地元の中学校のグランドのまん中に立っていた。
戻ったの?体中の力が抜けた。
中学校にはありえない巨大な魔法陣が光を失って消えると、ただの闇の中なのに普通の風景が広がっていた。現実感が薄いのになつかしい、音、光、湿った空気。
本当に戻って来た、アレクの腕をつかんだ。
「やった、戻ったよ、アレク」
中学校の時計は夜八時半過ぎで、そこから徒歩十五分くらいの自宅まで荷物を持ったアレクと通学路を歩いた。
九時前には自宅のチャイムを押す。指がふるえる、あれから何カ月過ぎたとか突然来てしまったとかがすべて吹き飛んで、なつかしくて泣きそうだ。
「お母さん」
「みさと!」
しばらく抱き合って泣いて、九時過ぎには自宅に入った。




