N国のお店
ここでカーク先生とケントくんとは別れて、二人でN国のお店で買い物をすることになった。わたしたちには今、何もないから。
アレクの大国①のお金は両替できるらしい。伯爵家のものは置いてきたけど、個人のものは全部持ってきたのだそうだ。
ご両親もそれを取り上げては困るだろうからと、喜んでいろいろ持たせてくれたようだ。
「ミサトの服や宝石もミサトのものだからあるよ」
「売ろう?」
「やめて、あれは私からのプレゼントだよ」
「こんな非常事態に現金として役に立ってもらおうよ」
「だから大丈夫だって言ってるのに。今も無職じゃないでしょう、好きなもの買ってあげるよ、なんでも言って」
そんな、もう貴族じゃないのに、質素に暮らしていくってことがこのおぼっちゃまにはわからないんだね。わたしが庶民の生活を教えてあげなければ、家はすぐに破産するのだろう。
「不信感ありすぎな目でみないで、ちゃんと仕事するから大丈夫だよ。
あ、それから城の中の居住区に部屋が用意されているから、鍵をもらってそこへ荷物を運ぼう」
「へえ、すごいね、畑の中に帰るのかと思った」
やった、都会生活。
「ミサト名義の寮は辞退しておいたよ」
「なんで?もらえるものはもらっておこうよ、いつ何があるかわからないよ」
「いつ、何があるつもりなの?」
ちょっとケンカして居づらくなったときかな、あはは、そんなこと言い出せない。
とりあえず明日から出勤するための服を買うことになって、男女別々の店に入った。多めにお金を持たされている。
ちょっと高級なお店で、白の塔へ通勤用の少し華やかなワンピースと、派手めなスーツをすすめられるままに買っている。今はこの服が主流だそうで、靴とカバンもお揃いでピカピカしている。
あと、ハンカチや手帳、手鏡までどんどん荷物に入れられている。
「就職祝いだから、いいものを揃えましょう」
店員のお姉さんにすすめられるまま荷物が出来上がり、会計をした。ゼロの数が多いけどこれって高いのかな、どのくらいなんだろう?でもその金額分のお金があったから支払った。なんか罪悪感がある。
外に出てもまだアレクがいないから、荷物を抱えて歩いている。
アレクが入ったお店に入ってみると、高級紳士服店の店員さんが数人がかりで採寸している。
「あれ、早かったね、もう終わったの?」
「うん、荷物があるから先に帰ろうか?」
「ちょっと待ってて、鍵は本人受け取りだから。荷物は一緒に運んでもらえばいいよ、そこに置いて。
他に欲しいものがあったら買ってきていいよ」
外見のよいアレクに店員さんたちもうれしそうだ。どれを着せてもお似合いだろう、わたしの新入社員のような服とはずいぶん違う。
「じゃあ行ってくるよ」
新しい部屋に必要なものってなんだろう?通りを歩きながら考える。貴族用と庶民用の二種類必要かな、なんて。
いろいろ考えたけど、ピンクのかわいい色のお酒と、バスケットに入った本物みたいな猫人形を買って帰った。




