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異世界から来た魔術師  作者: ちゃい
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ユーコー

白の塔の魔術師の世界に召喚されてしまった、ミサトのお話です。白の塔の魔術師とは別の話になります。

 アレクシスはそのきれいな顔で、へらへらと軽薄そうに笑いながら説明している。

 隣国に魔王がいるため、ライバル国としてなにか強大なものをちょっと召喚してみたかった、というのがわたしがこの世界によばれた大きな理由だと。


 「それで、わけもわからずわたしがここに来ちゃったってことなの?どうなのよ、アレクシス!」


 「そうです、あなたはまるで黒い精霊のように美しく強大で」


 「そんなわけないでしょう!どうしてくれるのよ、わたしには両親も兄もいて、友だちだってみんな待ってるはずなのに」


 「申し訳ない、ユーコー、どうやってお詫びしたらいいのか」


 もう帰れない、神隠し、女子学生の失踪事件、ああ、どうしてこんなことに。とにかくアレクシスが憎い、だから本名の早川美里の名前は隠して、友だちの優の名前からユーコーと名のった。


 異世界へある日突然とばされてしまった、しかしそれは一週間前の話で、一週間もすれば自分の状況が理解できる。アレクシスの家の伯爵家は金持ちだ、何不自由ない生活で元の世界にいたときより恵まれている。


 礼儀もマナーもなっちゃいないがわたしはお姫様扱いで、アレクシスはよく夢にでてくる王子様に似ていてほれぼれする、憎しみも同時にあるのだが。


 ファンジュール伯爵家のアレクシスは、うっかりわたしを召喚できるほどの力がある魔術師だ。この世界で一番の大国の魔道具研究室室長をしている。

 金髪でくせっ毛、へらっと軽薄そうに笑い、夜中に泣いているわたしを抱きしめるために来てくれる。


 「ユーコーは猫みたいであたたかい」


 なんて言う。極悪人のはずなのになぜだか悪い人ではない、とわかってしまうから困る。


 そしてアレクシスには秘密がある。

 まだ召喚されて三日目くらいの深夜、ファンジュール家はある方がいらっしゃるという連絡を受けて、ざわざわと昼間のように動き始めた。


 なんだろう?と二階の廊下から一階の様子をうかがうと、声がきこえた。


 「アレクシス、久しぶり、よろしく頼むよ」


 「…ええ」


 若い男の人でアレクシスの知人というより、上司みたいだ。アレクシスの仕事かな、と思ったから眠ろうとした。


 「ぎゃーあ、あー!」

 

 上司の殺されるような声が屋敷中に響く。アレクシスがやっているのか、助けたほうがいいのか?と考えているうちに声がきこえなくなった。


 よく眠れないまま朝になったから、アレクシスにきいてみた。


 「昨日の夜のあれは何?」


 美味しい朝食が目の前にあるから食べながら返事を待っていると、言いにくそうに答えた。


 「本物の王子様が三カ月に一度くらいこうやって来るんだ。仕事なんだけど知りたい?私から殿下に魔力を供給していたんだよ、わかるかな?」


 魔力を供給していた?しかしそれは秘密だといわれた。王子様は死にそうな声だったけど。


 「おかげでわたしはグレンダール殿下の愛人だ、といううわさになっている」


 なんですって?


 「騎士学校の寮で護衛として同室だった頃からそうなんだ」


 殿下が怪我をしたから治癒魔法を使った後、なぜかうっかり魔力供給ができてしまったことが始まりだそうだ。最初は嫌がったが、そうしないと私は死んでしまう、と説得されて今まで続いているという。


 てへっ、という顔で説明してくれたが、男でもこんなにきれいでかわいいからそんなことになっちゃうんだよ、と妙に納得した。


 その時はびっくりしたがそれにも慣れた。みたこともない雲の上の人とアレクシスがどんなうわさになっていようと、わたしの日常生活に支障はない。

 アレクシスは妹のように大切に扱ってくれるし、それ以上に豪華な貴族様の生活が、わたしの一般的な感覚を奪っていったのだ。


 アレクシスは週に三日しか王城に出仕しない。

 室長はただの名誉職だと笑っているし、魔道具研究も一日おきくらいでちょうどいいそうだ。

 グレンダール殿下とは友人として普通に接している。愛人ではないと知っているのは身内だけで、ファンジュール家の者は全員口どめされていてわたしですらそうだから、他の人は誰も知らない。


 グレンダール殿下の妃殿下や側室たちは、アレクシスをそういう目でみてくるし憎まれているようだが、いくら友人だと説明しても変わらないのだから仕方ない。


 「グレンがなぜ他の魔術師ではなくて私なのか、いまだに伯爵になる予定の私がしているのか、理解できないね」


 めずらしく王城から帰ってきたアレクシスが文句を言っている。


 「アレクがかわいいからじゃないの?」


 「は?これくらいの外見の男なんて貴族の中にはいくらでもいるだろう!何の嫌がらせでそんなこと言ってるの?」


 へー、この国の貴族は顔面のレベルが高いな、なんてへらへらしながら感心していると、アレクシスがしばらく口をきいてくれなくなった。


 


 


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