聖女なんていらないよね?妹だけで十分だよね?
初投稿。ヤマなし?オチなし?知らないです。
読んでもらえると嬉しいです。
私はお兄ちゃんが好きだ。愛している。
この世界で一番、ううん、そもそも誰かと比べること自体が無意味なことだ。
私にはお兄ちゃんさえいればいい。
他の人なんていらないし、目障りなだけだ。
その代わり、お兄ちゃんの全ては私のもの。つま先から頭の先まで、全て。
だから、そんなお兄ちゃんのためなら、私はなんだって出来る。
たとえそれが非道な行いだとしても。
私とお兄ちゃんが幸せに暮らせるなら、なんだって……。
お兄ちゃんの朝は早い。
お兄ちゃんは狩りの仕事をしている。
なぜなら、私たちには両親という名の人間がいないからだ。女は私が六才の時に行方不明となり、男はその直後出ていったきり帰ってこない。
だから、お兄ちゃんは森で魔物を狩ってそれを村に来る商人に売ってお金にしている。
私を食べさせるために。
私は幸せ者だ。お兄ちゃんが狩りをするのは愛する私のためなのだから。
そんなお兄ちゃんに毎朝、愛のこもった朝食と弁当を用意する。
「いってらっしゃーい」とお見送りする。
それから、私は「スキル・隠密」を唱えると、家を出たお兄ちゃんの後をこっそり追いかける。
お兄ちゃんは気配を消した私に気づくことなく森に入っていく。
一分一秒でもお兄ちゃんのそばを離れたくない……が、仕方ない。
私は木々の間を駆け抜けて、三分後、ウルフを見つける。
「闇魔術・憑依」を唱えると、私の腕輪から飛び出した死霊がウルフの体に入り込んで乗っ取る。
「いつもどおり。行って、殺されてこい」
私の命令にウルフは動き出す。茂みからお兄ちゃんの前に飛び出して、吠えて見せる。
お兄ちゃんは剣を抜くと、間合いを詰めて攻撃する。
お兄ちゃんがいくら攻撃しても、ウルフの方は攻撃を外してばかりで絶対にお兄ちゃんを傷つけない。
そんなに時間もかからずウルフが死ぬ。
私は死霊を腕輪に呼び戻すと、お兄ちゃんがアイテム袋に死体を収納するのを確認してから、次の魔物を探す。この方法ならお兄ちゃんは楽できるし、何より、少ない時間でたくさん狩れるので夕食前には家に帰ってきてくれる。
「おかえりなさーい」
お兄ちゃんが商人と交渉している間に家に先回りした私は、帰ってきたお兄ちゃんに抱きつく。
お兄ちゃんのにおい……体がじんじんと熱くなる。
夕食後、片付けもそうそうに私は部屋に入ると裸になってスタンバイする。
耳をすませる。
お風呂へ向かうお兄ちゃんの足音が聞こえたので、「スキル・隠密」を唱え、部屋をそっと出てお兄ちゃんの背中についていく。
私が十才を過ぎた頃からお兄ちゃんは一緒にお風呂に入ってくれなくなった。
だから、こうやってお兄ちゃんに黙って入るしかないのだ。
引き締まったお兄ちゃんの体を見ているうち、火照ってきて我慢できず行為で果てる。
夜寝るのは別々の部屋。
切なく感じながらも、お風呂場から拝借したお兄ちゃんの服のにおいをかぐうちに微睡んでくる。
今日も幸せな一日だった。
こんな日がずっと、ずっと、永遠に続けばいい……。
「え?勇者?」
ある日のこと、夕食を食べていると、お兄ちゃんが神妙にそう告げた。
最近、森の魔物が多くなっている。私たちがいる村だけでなく、他の所でも同じらしい。それはこの世界に百年ぶりに魔王が誕生したからではないかと疑われている。
そこで、大小の国のトップが一堂に会し話し合った結果、魔王討伐に勇者を送り出すことで一致した。各国、各領地、各街、各村ごとに一番強い者が勇者となって旅立たなければならないらしい。
私が家に先回りしている間に、商人と狩った獲物の交渉を終えたお兄ちゃんは村長に呼び止められ、お兄ちゃんを「村の勇者」としたいと言われたらしい。
正直、魔王討伐なんてどうでもいい。
魔王がいようが、私とお兄ちゃんなら幸せに生きていける自信があるし、それに、他の人が魔物に食われたところで、だから何?って感じだ。
でも、優しいお兄ちゃんはそうでないらしい。
「村の勇者」となって魔王を倒し世界を救ってみせると意気込んでいる。
魔王がどこにいるかさえ分かってない現状、長い旅になるのだろうか。
お兄ちゃんと二人でいろんな場所を放浪……。
いい。すごくいい。
アバンチュールなハネムーンでいつしか兄妹という一線を越えてしまうのだ。
私は次の日からいそいそと旅の用意を始めた。
「……魔王討伐に私を連れていけない?なんで?それに、誰、その女。聖女?」
数日後、私は家のテーブルでお兄ちゃんと向き合い、横に座る頭巾を被った女を睨みつけていた。
お兄ちゃんは道中が危険だからという理由で私を村に置いていくと言い張った。私の生活費は村長が出してくれる、何も心配することはない。そして、お兄ちゃんはこの目の前にいる女と二人で旅立つと言うのだ。
この女は村の教会にいるシスターで、回復魔術が使えることから「聖女」と言われている……らしい。私は存在自体を初めて知った。私の世界はいつだってお兄ちゃんと二人だけだった。
それで、昔から勇者のそばには聖女がいるものと決まっていて、その一番の理由は魔物と戦い傷ついた勇者を回復魔術で癒やし支えるのが聖女の務めだと言う。
そんなの知ったことじゃない。
お前なんていらない。
私がいれば、そもそも、お兄ちゃんは魔物にやられることはないのだから。
私が黙って睨み続けていると、何を勘違いしたか、聖女は自分のことを身内、ううん、姉だと思えとか言ってきた。何それ、笑える。お兄ちゃんのことは姉に任せてほしい、この身を捧げてお兄ちゃんを支えてみせる……ていうか、何で、お兄ちゃんを名前で呼んでるの?
しかも、「支えてみせる」のところでお兄ちゃんの手を握ってるし。
汚れるだろうが。このクソビッチが。
ああ、駄目だ。
これ以上ここにいると自分を抑えつけていられない。
お兄ちゃんの目の前でそれは避けたい。
私は部屋に引きこもると、ベッドの上で膝を抱え親指の爪を噛みながら夜が来るのを静かに待った。
その夜、私は「スキル・隠密」で教会の敷地に忍び込んでいた。
シスターが共同で暮らす住まいの扉には鍵がかかっていたが、「闇魔術・影操作」を唱え、鍵穴に影を潜り込ませて解錠する。
部屋を一つ一つ確認していき、目的の人間を探す。
そして、今、私の前にはベッドで仰向けに眠る聖女がいる。胸の上で両手を組んでいる。どうやら向こうも準備万端みたいだ。
私は「闇魔術・死神の鎌」を唱える。私の両手には黒い粒子が集まりだして、間もなく、それは実体のない大鎌を形成する。
聖女の上でぶんと振るう。
すると、淡い発光体――死霊が現れるのでどこかに消えてしまう前に大鎌を虚空に消してから腰の鞘のナイフを抜いて「闇魔術・憑依」を唱える。
発光体はナイフに吸い込まれていく。
人間を殺すのは久しぶりだったけど、うん、うまくいったみたいだ。
私は安堵のためいきをつく。
これで二人目。一人目は私の母親とかいう女だ。あの女、私のお兄ちゃんに毎日毎日、べたべたと抱きつくから、ずっと殺したいと思っていた。私が六才の時、闇魔術の才能に目覚めてすぐにあの女で実験を行った。女の死霊は腕輪に憑依させ、事あるごとにこき使っている。
今回はそれ以来、かれこれ十年ぶりとなる。
私がそんなことを思い返していると、ナイフがカタカタとひとりでに震えだした。
そうそう、思い出した。最初のうちは反抗するのだ。
「とりあえず、回復魔術ってのを見せてくれない?」
私は「闇魔術・影の矢」を唱えると、現れた一本の黒い矢が、いまだベッドで仰向けの聖女の腹を貫く。円形に綺麗にくり抜かれたそこから血が溢れ出す。
ナイフが騒がしい。
ナイフの先端が白く輝きだして、次の瞬間には、聖女の腹は元通りになり血も止まる。
ふーん、確かに便利だ。
私は「闇魔術・影の矢」を連続で発動。聖女の腕も足も胸も顔も穴らだけにしていく。ナイフは狂ったように明滅を繰り返して穴を塞いでいく……調教はこの辺りでいいだろうか。
「私の下僕になるなら、やめてあげる。あと、体の方も一応、保管しといてやる。私の言うことを聞けば、いつか魂を戻してやるかもしれない。だけど、もし言うことを聞かなかったら――」
聖女の眉間に穴が開く――塞がれる。
それっきり、ナイフはおとなしくなった。
私は満足してナイフを鞘にしまうと、聖女の死体を私の影に収納する。飛び散ったり、血溜まりとなった血はその一滴にいたるまで跡形もなく消える。
ひと仕事終えた私はあくびを噛み殺しながら、お兄ちゃんが待つ家に帰ることにした。
翌日、聖女の失踪で村は大騒ぎとなった。
みんな、魔王討伐が恐くなって逃げ出したに違いないと口々に罵っている。
いい気味だ。
そのせいでお兄ちゃんの出発は延期となりそうだったが、私はお兄ちゃんと村長に自分も回復魔術を使えることを打ち明けた。証拠にナイフで指を傷つけ癒やしてみせる。
ナイフがないと回復魔術が使えないことに対していちゃもんつけられるかもしれないと私は心配していたが、どうやら問題はないらしい。魔力量の少ない者が杖などの媒体を使い術を行うことは珍しくないと言う。
私はお兄ちゃんに今まで回復魔術を黙っていたことを謝った。
お兄ちゃんは魔王討伐の責めを負った私の不安を取り除くように私を強く、強く抱きしめると、お兄ちゃんが守ってやるからと耳元でささやく。
はぅ……とろけそう……。
そうして、数日後、今日は旅立ちの日だ。
村の人たちに見送られながら、私はお兄ちゃんの腕に抱きつく。お兄ちゃんの顔がこんなにも近い。それに、においも。そんなふうに甘える私にお兄ちゃんは少し照れながら笑ってくれる。
幸せだ。でも、この幸せはまだ始まったばかりだ。
私とお兄ちゃんは魔王討伐という名のハネムーンに出発したのだった。