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軍人の死生観に関する雑記

作者: 山中 孤独




 軍人に限らず、人間は死に向かって生きる。

 軍人に関しては、特に死を身近に感じるが故に死生観に対しては鮮明なものとなる。

 軍人の死生観は私的領域であるが、死生観により職務貢献度に影響を及ぼす限りにおいて、彼らの職務貢献度合いを向上させることは極めて公的領域の維持に影響する。

 公的領域は社会的領域ではないけれども、保全する手段として少なくとも公的領域は個人に要請される。

 それ故に、文民には彼らへの理解と民主主義的かつ国民主権的な立場を重視した止揚(アウフヘーベン)が求められる。

 

 

 死生観に内包される要素は多々あるが、軍人のことに関して言えば、大きく二つが挙げられる。

 平時の生活をいかに充実させるか、有事の現場において死とどう向き合うか、である。


 まず両者には、宗教信仰が大きく影響する。

 宗教を信仰していた場合、平時の生活の充実は日常のちょっとした善行であったり普段からの信仰心であったり、御心のままに従うことが生活の充実となる。また、有事の現場においても死は天に召されることであり、悲観することではないと思うことが出来る。

 もちろん宗教信仰は有事の現場で完全に機能するものではない。非常な現実において、信仰心の薄れや神への疑念から、死への恐怖を生むことも考えられるからである。

 けれども、すがるものが無いよりも幸せになれる可能性があることも確かなのだ。

 信仰する宗教によっては解釈により教義を捻じ曲げることになることも含めて、私的領域であっても公的領域であっても繊細な部分であろう。


 一方で、戦友もまた軍人同士で両者に大きく影響する。

 平時において互いに切磋琢磨しあうことで、生活への充実につながる。戦友と切磋琢磨することで、守ることへの誇りや勇敢さ、忠誠心が戦友と自身の合意による共通意識となり心の支えとして醸成される。

 有事においては、平時に醸成された共通意識や心の支えがより鮮明になり、完全にではないが死への恐怖を克服しうる。

 

 これらは軍人一人一人の信条や思想に由来する。

 踏み込んで言うなら、個人の意思ともいえるだろうし、外部が侵害できる部分ではないともいえる。

 

 死生観の主要素に影響を及ぼすものとして、周囲の環境がある。

 政府の軍隊に対する位置づけは、軍人の平時の生活に深くかかわるし、有事の現場において判断は政府の意向に左右されることもしばしばある。

 また、政府の意向は国民に影響を及ぼすが、これは軍人の平時の生活を充実させる重要な要素となる。

 国民に支持されることは、軍人の平時の生活を充実させることにつながる。

 この構造は、軍人が国民から尊敬されることが文民統制における要件とされていることに重なる。


 幼年期から受けてきた学校教育も、軍人一人一人の死生観に大きな影響を及ぼすだろう。

 死よりも大義を重んじる教育を受ければ、死との向き合い方は自然と限定的かつ疑うことのないものとなるだろうし、公的領域の存続を義務感として捉える教育を受ければ、平時の生活の業務が直接的に平時の生活の充実につながる。

 逆に、平和教育や宗教教育による、徹底した殺人行為への忌避は軍人になる可能性を奪うことでもあるだろう。もっともその教育においては、軍人になる可能性を奪うことこそが正義である。


 軍人が内面化している他者の分だけ、軍人の行動を縛るものとして死生観は機能するだろう。

 文民は文民統制という枠組みによって軍人の私的領域にすらも踏み込みうる。

 

 

 軍人は戦争の担い手であり、戦争は偶発的に発生しうるリスクである。

 軍人は戦争すなわち他者への危害行為に従事するが故に、はっきりとした死生観を持たざるを得ない。

 文民は私的領域である彼らの死生観を否定することようなことがあってはならないし、軍隊に安全保障に対する最大限の貢献を要求する。

 文民である我々は、軍人の私的領域をきちんと把握した上で、彼らの私的領域を侵さないように、同時に文民統制が揺らぐことのない枠組みの再構築が必要になるだろう。

 枠組みの再構築は、直ぐにでも要請されるだろう。

 それは、先にも上げたように軍人の死生観には、政府の位置づけや教育内容に寄るところがあり、年月を経ることで変わりうるものだからである。

 

 

 

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