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3話 クトゥルフちゃんとぷよぷよ眷属

 ◇


 ぽよん、ぽよんと何が跳ねる音が聞こえる。


 その音に合わせるように自身に感じる柔らかな衝撃。


「うぅ〜…うぅ〜ん…」


 それは倒れている少女が死に物狂いで追いかけ、そして捕まえた憎っくき敵を思い出させ、


「はっ!、捕まえたぁぁあ!! むぎゅっ!?」


 クトゥルフはガバッと起き上がる。


 そうすると丁度降ってきた球体が顔面にぶつかる。


 そして蘇る記憶。


 少女の顔がみるみる青くなっていく。


 ぷよぷよに顔面吸着された経験は、彼女にとってトラウマに近いものになっていた。


「はわわわわ…」


 カタカタと震えていると特に張り付くこともなくぽよんっとぷよぷよは離れていく。


 また執念深く張り付いてくるものだと思っていたためポカンとしていると、ここが意識の途切れた草むらではないことに気付く。


 ふかふかとした感触を感じ下を見ればベッドがある。


 どうやら自分は今までこのベットの上で横になっていたらしい。


 それに素っ裸ではあるが森の中にいた頃に付いた汚れは無くなり、薄い毛布もかかっている。


 さらに辺りを見渡すと机や椅子、本棚、ランプなどの家具から小物までの調度品が置いてあり、ベッド近くのテーブルの上には水の入った小さな桶と複数のタオルが置いてあることが分かる。


 近くの窓からは月の光が差し込んでおり、暗めの部屋を現状唯一の光源として照らしている。


 全体的に小綺麗な様子からして無人の館という訳ではないらしい。


 しかし、何故ここに?


 いくら考えてもぷよぷよを捕まえた時からの記憶が思い出せない。


 首を傾げている間にぷよぷよは部屋の外へ出て行ってしまった。


 慌てて後を追おうとすると身体が鉛のように重くなっていることに気付く。


 さらに身体の節々が痛む。


「つぅ〜…い、痛い、なんなのだこれは…」


 我慢できずベッドに倒れかかる。


 身体に外傷はない。


 しかし身体中、特に手足が突っ張るように痛む。


 実際はただの過度に身体を動かしたことによる筋肉痛なのだが、邪神であった彼女がそんなことを知るはずもなく、


「ぁぁ…まさかあのぷよぷよ、我に何かしたのではないか? そうだきっとそうに違いない。何をしたんのだ…うぅ…こ、怖くなどない、ないんだぞぉ〜…」


 ぷるぷると震えだす。


 強がってはいるが目尻には溢れんばかりの涙が溜まり、その顔は青を通り越して白くなってしまっていた。


 ……もう一度言うがただの筋肉痛である。


 彼女の中でぷよぷよ生物への警戒値が臨界点を超えようとしていたその時、ぷよぷよが戻って来たのである。


 頭にトレイを乗せ、その上には湯気が立ち様々な野菜がはいったスープが乗っていた。


 コロコロ…コロコロ…


 頭に乗せた物を零さないよう器用に転がりながらベッドの前で止まるぷよぷよ。


 ぷよぷよはこちらを見上げるようにトレイを差し出してくる。


 ぷよぷよに対して警戒値が高まっている彼女はそれを跳ね除けようとするが、


 "くぅぅぅう〜"


 お腹が可愛らしく鳴ってしまう。


 スープから漂う食欲をそそる匂い。


 ここまでの二日間食事などしてこなかったことによる、どうしようもない空腹感。


 それを解消できる物が目の前にある。


 それでもすぐに飛びつかないのは彼女の中でぷよぷよが危険な存在として確立してしまっているためか、ただ単純にここで食べてしまったら邪神としての矜持が完全に崩れ去ってしまうだろうという危惧からか。


 彼女は涎を垂らしながら葛藤していた。


(このスープにあのヘンテコが何かしているかもしれん、食べてはダメだ…ダメ、だ。百歩譲って食べるとして我は崇高なる邪神…毒などは効かないに決まっておる。ヘンテコぷよぷよ野郎が何かしても無駄!しかし、施しを受けるなど断じて看過できん!それだけは絶対に…そうだ!)


 まるで名案を思いついたようにクトゥルフは涎を拭い、表情を意地の悪い笑みに染め、ぷよぷよに問いかける。


「おい、ヘンテコよ。貴様はその食べ物を我に"献上"するのだな?そうなのだろう?貴様は我に一度は捕まり、負けたのだ。本来ならその場で命を奪ってやるところだが貴様も死にたくはないのだろう。故に我にその食べ物を"献上"することで命を助けて欲しいと……そうなんだよな?」


 彼女自身も何度かぷよぷよにのされてしまっていたが自分のことは既に記憶の外のようである。


 圧倒的有利を確信し満面の笑みで問いかけるクトゥルフ。


「ふふ、良いぞ…我は寛大だからな。許す、許すぞ…」


 しかし、ぷよぷよは答えない。


 変わらずトレイを差し出したまま固まっている。


「……そう遠慮するでない、今なら我を侮辱した件も全て水に流そう。何せ我は寛大さで言えば他の支配者どもとは比較にならんだからな!」


 それでもぷよぷよは動かない。


 余裕の笑みが崩れていく。


「それは献上しているということなのか?どうなのだ!?我がここまで譲歩してやっているのだぞ、何故動かんのだぁ…!」


 目尻に涙が溜まる。


 涙腺が決壊一歩手前。


「ぅう…いいだろう。我をここまで追い詰めるとはやはり只者ではないな貴様…ならばこれでどうだ?その強さを見込んで我の『眷属』にしてやろう!これ程までに名誉なことはないぞ…!だ、だから早くその供物を我に捧げんかぁ〜!」


 遂にクトゥルフの瞳からポロポロと涙が溢れ始める。


 その様子を見たぷよぷよは動き出す。


 食事の乗ったトレイをクトゥルフの前に置いた後、テーブルの上にあったタオルを取って来るとそれも差し出してくる。


 クトゥルフは目の前の光景を食事を献上したと見ると、涙で潤んでいた瞳を爛々と輝かせる。


「うむ、うむっ!貴様は賢い選択をしたぞっ!それに気も利くとは…やはり我が見込んだだけはある!」


 タオルをひったくり顔を拭うと、眼前の食事に飛びつくように手をつける。


 皿ごと持つとそのまま縁に口をつけ、飲むように掻き込む。


 口の周りが汚れていくが構わず飲み干していく。


「っ、ぷはぁー! な、なんだこれは美味い!」


 塩味のあっさりとした味わいでしつこくなく、煮込まれた具材から滲み出た旨味も合わさって彼女の疲れを癒していく。


 何か特別な調味料でも入っているのか身体の芯からぽかぽかと温まり、節々の痛みが引いていく。


「んきゅ、んきゅ…ほふぅ〜……こんなにも美味い物があるとは」


 彼女はカルチャーショックを受けていた。


 かつて支配者(グレート・ワン)として君臨していた時は娯楽らしい娯楽など一切していなかった。


 支配する上でそのような物は必要なかったからである。


 食事に関してもそうであり、そもそも邪神としては食べなくとも問題などなかったからだ。


 故にこうして料理を味わうことをがなかった彼女、クトゥルフにとってこの優しい味わいは衝撃的であった。


 惚けていると、ぷよぷよが空になった皿とトレイを下げていく。


 またトレイを頭に乗せコロコロ器用に運んでいく。


 結構な量だったのか大分お腹が膨れている。


「ふふっ、我の眷属になったのだ…キビキビ働くがよい…ふあぁぁ、ん。」


 満腹になったからか強い睡魔が襲ってきた。


 疲れが和らいぎ、心地よい睡魔に身を委ねながらクトゥルフは、ふんわりとした微笑を浮かべていた。

なんか毎回意識落ちエンドすぐる。

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