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6、遊園地

「きゃー! たっのしかったー! ね、アイ!」

「……うん」


「もー、何? 反応薄いなあ!」

「…………気分が悪いです」


 なんで俺が今彼女たちと遊園地に来ているのか。


 話は一か月前まで遡る。



◆◆◆



「――で、帰る手伝いをするって、俺たちは具体的に何すればいいの」


 俺はアイが人間の体を実際に持ったことがまだ信じられない。

 妖精はそんなこともできるのか。


 妖精が居ることも信じられないが、どちらも実際に起こっていることなのだから現実なのだろう。


「んー、そうだなあ。じゃあまずは、適当に人間界(この世界)案内してよ」


「……どうしてですか?」


 アイは疑問を持ったらしく話に混ざってくる。

 妖精はアイの方を向いてにっこり笑った。


「だってせっかく人間界(こっち)に来たんだもん。いろんなことしたいじゃん。ここと妖精界は全然違うもん、おいしいものも食べたいし、遊園地とかお化け屋敷とか言ってみたいし、女子高生になって学校行ってみたいし、あと」


「ストップ。それおまえが妖精界に帰る手伝いじゃないよな」


「そんなことないよ。人間界観光してたら、帰り道が見つかるかもしれない。帰り道っていうか、一瞬で帰れるんだけどね、妖精界に通じる通路を見つけたら」


「……なるほど。じゃあ、案内します」


 アイがそう言う。


 アイが決めたのならどう頑張っても覆すことはできないだろう。人工知能に口論で勝てる気がしない。


 人間界って別に観光地じゃないんだけどな。まあ、俺たちが海外旅行に行くのと同じようなものかもしれない。


「…………はぁ。わかったよ。だけど夏休みになってからな。あと一か月待ってくれ。期末考査あるし」


「はいはい。しょうがないなあ、そのかわりきっちり案内してよね。行きたいところいっぱいあるんだから!」



 ちなみにこれは、アイの「なぜあなたは人間界に来たのですか?」という問いの後だ。このことも、話すと長くなる。


「……なぜあなたは人間界に来たのですか?」


「ん、なぜって?」


「……この家に来た理由は聞きました。ですが人間界に来た理由は聞いていません」


「あー……うん。話さなきゃダメかな?」


 アイリがちらっとこちらを見る。アイもアイリも、困ったら俺の方を見るのやめろ、俺だって困る。

 しょうがないからアイリにそっと耳打ちする。


「アイはわからないことを解決するようにプログラムされているらしいんだ。だからわからないことがあると何でも訊いてくる。答えたくなければ答えなくてもいいけど、答えたくないってちゃんと言って」


「じゃあ、内緒! いいじゃん、私が人間界に来た理由なんか」



◆◆◆



 というわけだ。


 俺も遊園地は久しぶりだから割と楽しみだったのだが、問題が一つ。


 彼女たちの姿は俺にしか見えない。つまり、アトラクションに乗ったり何か食べ物を買ったりするのに俺は周りからかなり痛い目を向けられるというわけだ。

 一人でこんなところに来る寂しい奴――として。あるいは独り言をぶつぶつ言っているイタイ奴――として。


 見えないのにどうやってアトラクションの席を確保しているかというと、アイリが魔法で、席を本来より一列少なく見せているらしい。そうすると周りの人に見えていない一列には当然だれも乗らないから、そこに乗っているのだ。


俺には普通に空いている一列にアイリとアイが乗り込んでいくようにしか見えないんだけど。



「……翔希君、ちょっと休めるとこ…………」

「ああ、おう。えっと、じゃああそこのベンチ。歩けるか?」


 ジェットコースターに乗せられて酔ったアイをベンチまで連れて行く。


 アイを乗せた張本人の妖精は能天気に今度は何に乗るか園内マップを眺めている。


「……妖精はそこのショップで飲み物買ってきて」


「えー私妖精だよ?周りの人から見えないんだよ?」


「魔法で何とでもなるだろ、金は渡すから」


「はいはい」


 その間に俺はベンチでぐったりとしているアイに問いかける。


「ジェットコースター苦手なのか?無理に乗らなくてもよかったのに」


「……乗ったことなかったから苦手とかわからないです。ジェットコースターがこういうものだとは知ってましたけど」


 それもそうか、と今更ながらに思う。

 ジェットコースターについての知識は持っててもそれを苦手かどうかの判別はアイにはできない。

 きっとそれができるようにするのも“プロジェクト”の一部なのだろう。多分。


 ふわっと風が吹いて妖精が戻ってくる。


「はい。買ってきた」


 差し出されたものを受け取ろうとして、


「サンキュ……ってなんでリンゴジュース?!」


「前に君の家で飲んだのおいしかったもん」


「普通こういう時水かお茶だろ……」


 え、そうなの?! と驚愕している妖精は放っておき、とりあえず、飲めるか? とアイにペットボトルを渡す。


 アイは力なく受け取って一口飲み、放心したように(くう)を見つめる。


「ちょっとは良くなった?」

「……多分」

「多分じゃないって。私それに魔法かけたもん!」


 妖精がしれっと言う。

 

 生温い風が俺たちの間を吹き抜けていった。


「気分と体力を回復させる魔法。買ったときにちょっとね」


「ちょっとねって、そんな気軽に魔法使えるのかよ」


「まあね。魔法って基本何でもアリだから」


 まあ、アイを実体化してしまうくらいは、「何でもアリ」なのだろう。


 アイは魔法がかかっているとは知らずに飲んだのだから少し驚いた表情をする。そういえばアイは表情豊かになった気がする。


「……ありがとうございます」


「いいのいいの! さ、次のアトラクション行くよ! 次はあれだー!」


 妖精は今度は観覧車を目指して歩いていく。正確にはちょっと地面から浮いてるから歩いてはいないけど。


 ジェットコースターよりはましかもしれないけど、あれも――


「アイ、あれは乗れそうか……?」


「……わかりません」




 観覧車の下まで来てあらためて見上げると本当に大きい。何メートルくらいあるんだろうか。


「……百十メートル」


 見ただけで高さがわかるのだろうか、ぽつりとアイがつぶやく。何メートルかなって思ったのが声に出てた?


「……地上から離れるのは、持ち運ばれるとき以外は初めてです」


 それもそうか。AIは空中に浮かぶことはない。妖精じゃあるまいし。

 機械がカバンに入れられたり、持ち上げられたりすることはあっても、こんな高さまで行ったことはないだろう。


 少し先を歩いていた妖精は振り返って不思議そうに首をかしげる。


「え、でも人間界(こっち)にはヒコーキって乗り物があるんじゃなかったっけ?」


「……飛行機は乗ったことがありません」


「そうなの?私あれも乗ってみたいなー。お兄さん、明日ヒコーキ乗りに行こうよ、ヒコーキ!」


「無理。金がない」


 妖精界に飛行機はないのだろうか。

魔法が使えるんだから飛行機なんていらなそうだし。


 観覧車の順番待ちの列の最後尾について話を続けながら、心の中で周りの人たちに弁解する。独り言を言っているわけじゃないからな、俺は。


「てゆーか飛行機じゃなくても魔法でどこへでも行けるだろ、お前」


「まあそうだけどさー」


 自分で言って気が付いた。妖精は魔法が使えるのだから、帰り道を探さなくても魔法で帰れるじゃないか。

だがそれを言うと妖精に一蹴された。


「今更気が付いたの? それができたらもうとっくに帰ってるよ。できないから困ってるんじゃない! 肝心なところで役に立たないのよね、魔法は」


 あんまり困っているように見えない。俺からすると妖精は人間界を楽しんでいるように見える。つまらないとか、悲しいと思うより全然いいとは思うけど。


 そんなことを話していたら「順番来ましたよ」とアイに促される。観覧車に乗るのなんていつぶりだろう。小学二年生くらいの時に乗った記憶が最後か。


「意外と動くの速いんだねー! もう街がちっちゃい」

「……車や人がミニチュアみたいです」

「あ、ねえジェットコースター動いてる! さっき乗ったやつじゃない?」

「……遠くに海があるのが見えます」


 二人とも夢中で窓に貼りついている。俺も昔乗った時あんな風にはしゃいでいたのだろう。


 見える景色は本当にミニチュアみたいで、世界を見渡しているような気分になる。


「あ……」


「ん、どうした?」


 ずっと喋っていた妖精がいきなり黙った。

 しばし沈黙した後、恐る恐るといった様子で口を開く。


「……思い出したかもしれない。妖精界への、帰り方。道なんて探さなくてよかったんだ」

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