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4、迷子の妖精

「……で、妖精は居るんですか?」


 昨日は「授業中寝るのはよくないのか」を話していて妖精のことを忘れていた。アイは覚えていたのだろう、放課後家に帰ってきて機械からアイを映しだすと即座に聞かれた。


「あ……忘れてた。その話の前にちょっと電話させて」


 掛ける相手は田橋さんだ。まさか四日目で彼女にSOSを出すとは思ってなかった。


『はい』

「あ、えっと、矢沢です」

『ああ、こんにちは。アイに何かありましたか?』


 さすが、話が速い。

 俺は簡単に説明する。

「アイがいろいろ質問してきて、ものすごく大変なんですけどどうしたら……。今日は妖精が居るかいないかって聞かれて困ってます」


『アイは分からないことを解決するようにプログラムされたAIなので、質問する状態が正常なんです』


「でも……答えが出ないものもありますよね」

 そう、妖精が居るかいないかみたいに。


『それが“育成”の第一段階みたいなものです』


「要するに最終的にはアイに人間の“なんとなく”とか“感情”わかってもらわなくちゃいけないってことですか」


『ちょっと違うけどまあいいです。それより、アイに代わってもらえますか?』


 代われと言われても。どうしたらいいかわからないからとりあえずスピーカーモードにしてアイの方へスマホを向ける。


『アイ?あなたのポイント集めはまだまだ先が長そうよ』


「……そうですか」


『うん。じゃあ、矢沢君も育成頑張ってくださいね』


 一方的に切られる。

 結局俺はアイに妖精のことを何と言えばいいのか。


「なあ、アイ。人間は、妖精が居るかいないか知らないんだ」


「……なんで知らないままにしておくんですか?」


 確かさっきの田橋さんの話だとアイは分からないことを解決するようにプログラムされているんだっけ。だったら納得いかないのも無理はないだろう。


 一体どう言えば納得してもらえるのか。





「妖精はいるよ」





 突然どこかから声がした。アイのとはちょっと違う声。


「ええと、今喋ったのは……」

「……私じゃないです」


 だったら誰が、と思った瞬間、空気が揺れた。


 部屋とか机が揺れたのではなく、風が吹いたのでもなく。空気が、揺らいだ。


「……あなたは誰?」


 状況にいち早く反応できたのはアイだった。


 空気が揺れた時――ほんの一瞬の間に、俺たちしかいなかったはずの部屋にもう一人現れたのだ。


 薄い水色から下の方にいくにつれて白くなっている長いふわふわした髪の毛、少し緑がかった水色の目。

 左の手首に細いブレスレットをつけて、髪の毛と同じような色のふわっとしたワンピースを着ている、どこか人間離れした雰囲気のある彼女だ。


 彼女はアイの問いかけに答える。


「そんなの聞くまでもないでしょ。妖精だよ、私は」


 そして彼女――自称妖精はそれだけで説明は事足りたと思っているらしく勝手に部屋を物色し始める。


「ねえねえ、このリンゴジュース飲んでいい?」


「いいけど。……じゃなくて! 何者だ? お前」


「だからさっきも言ったじゃん、妖精だよ」


 いただきまーす、と言って自分でコップについだジュースを飲み干す。

 どうもちゃんとした説明はしてくれなさそうだ。


 アイ――人工知能のアイなら何か知ってるかとそちらを見ると、


「……つまり、妖精は存在するということですね」


 ……一人で勝手に納得してるし。


 この明らかにおかしい状況を何とか打開しなければ。そう思った矢先、ジュースを飲み終えて満足顔の彼女に笑われる。


「ふっふーん。そっちのお兄さんはまだ信じられないようね?」


 あたりまえだ。そう簡単に妖精なんて信じられるものじゃない。いくら目の前にいるからって。


「いやむしろ、なんでアイが納得してんの」

「……だって、この人は、私は妖精だって言ったじゃないですか」

「…………アイはもう少し人を疑うことも知った方がいいな」


「まあ、私が何者かなんてどうだっていいじゃない。それより」

「よくない!」


 この人が何者かも重要だし、いつの間にか勝手に部屋に入ってきてるのも問題だろ。


「そう? やっぱり人間って頭固いのね」

 彼女は、ねえ? とアイに同意を求める。


「……そうですね」


 いやそこ同意するのかよ。

 むしろこの状況を即座に理解できるやつがいればそいつはヤバい奴だ。


「……翔希君。彼女は、いきなり部屋に現れたでしょう。ということは普通に考えて人間じゃない。で、自分で妖精って言ってるんだから、彼女は妖精ですよ。一応言っておくと、この機械が検査したところによると彼女の精神状態は極めて安定してるから安心して」


 この機械、というのはアイを映し出している機械だ。精神状態なんて検査できるのか。

 なんにせよやばいやつじゃない、と暗に言われているようだ。


「――――わかったよ。彼女は妖精、オッケー。で、なんでここにいんの。どうやって入ってきたの」


「……それは私も知りたいです」


 二人で彼女――妖精のいる方を見る。


 彼女は今度はお菓子の入っているところを漁っていた。

 完全に俺らのことは無視だ。


 これおいしそー、とつぶやいてチョコレートを取り出す。


 食べ終えてからようやく彼女は話す気になったらしい、俺たちの方に向き直った。


「その一。なんで私がここにいるのか。答えは単純、私がここに入ろうと思ったから。

 その二。どうやってここに入ったのか。これも簡単、私がここに入るために魔法を使ったから」


 彼女は指を二本立てたまま「ね、簡単でしょ?」と首をかしげる。簡単じゃねえよ。



「……つまりあなたは妖精で、魔法が使えるってことですか?」


 アイがまとめる。


「そういうこと!」


 まあ、魔法が使えるのはまだいいとして。

 何でうちに入ってこようと思ったんだよ……。うちに盗むような高価なものはない。


「ちょっとお兄さん! 私が泥棒とか考えないの! さっきから言ってる通り私はただの妖精なんだから。今お兄さんの思考を読んだのも妖精の力!」


「人の思考勝手に読むな。てかそれよりなんでお前がここに来ようと思ったかを話してくれ」


「うん、いいよ。私ねー、ちょっと人間(こっち)の世界へ遊びに来たら、迷子になっちゃって! で、ぶらぶらしてたら妖精がいるの居ないのって話してる人たちがいるじゃない?

 しかも片方は人工知能! 面白そうだなーって思ったから入ってきた!」


「入ってきた!」とか気軽に言うけど人間だったら犯罪じゃないか。


 しかも人間の世界に妖精が「ちょっと遊びに」来ることなんてできるんだな。だったら逆に俺が妖精の世界に遊びに行くこともできるのか?


 いやでもまだこいつがほんとに妖精かどうかはわからないしな。妖精って普通羽とか生えてるもんだと思ってたし。


「ああーもう! お兄さんめんどくさいことうだうだ考えんの好きだねー。じゃあさ、こうしよう。私が何か魔法を使う。そしたらお兄さんは私が妖精だってことを信じる」


「別に俺はお前が何者でもいいんだけど」


「だめなの! お兄さんたちには妖精(わたし)の世界への帰り道を探してもらわなくちゃいけないんだから」


 いつからそんな話になったんだよ。妖精の世界への帰り道とか言われても知らないから困る。妖精の世界があることも知ったばかりだというのに。まだ半信半疑だけど。


「んー、どんな魔法つかおっかなあー……そうだ! ねえ、人工知能さん」


「彼女は……」


「……アイです」


「そ。じゃあアイさん。あなたはポイント集めしたいのよね?」


「……ポイントは集めることになってます」


「手伝ってあげるよ」


 妖精はにんまりと笑う。

 ポイント集めってなんだ。さっきの田橋さんとの電話でも出てきたけど。

次回から火曜、木曜更新にしようと思います!(戻すかもしれないのでそのときはまた言います)

これからもよろしくお願いします

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