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1、AIとの出会い

プロローグとは別視点です。特に注意書きがない場合この先の話はこの視点です

「…………そういうわけですので、彼女の名前はあなたが決めてください」


「はい」


 彼女、というのは正確には人ではない。


 肩くらいの長さのさらさらな髪に、整った顔。俺の通っている高校の制服を着て今まさに、普通の女子高生の格好で目の前に座っているが、人ではない。

 その証拠に彼女は淡く光っていて、よく見ると体が透けているような気もする。


 十五分くらい前、「彼女」と「彼女」の隣に座っているスーツを着た女性――田橋優衣さん――が一緒に家に来た。


 今日来ることは一ヶ月ほど前から決まっていたが会うのは今日が初めてだ。

 会う日程などを決めるために何度か電話で話したのは、おそらく「彼女」ではなく田橋さんだろう。


 最初は、電話ではなく無機質な茶封筒に入った手紙だった。

 それが届いたのは一ヶ月半くらい前だ。




◆◆◆




 学校から帰ると、封筒がひとつ郵便受けに入っていた。

 「西街会社 第三研究室」と印刷されている。


 西街なんてこの市にはないのに、西街会社。 

 だがこの会社は結構有名な会社だからいたずらではないだろう。

 開けてみると、紙が三枚入っている。


「人工知能育成プロジェクト……?」


 そのうちの一枚には、「人工知能育成プロジェクトへご協力のお願い」と書いてある。


 「人工知能育成プロジェクト」とは、人工知能が人間のように滑らかにしゃべったり、人間の感情をより正確に理解できるようにしようというものらしい。


 それで人工知能が接客をしたり、保育園や老人ホームで働けるようにしましょうというものだ。


 そういえばこの会社は人工知能の研究、開発もしていて、事業に取り込めるようにしていきたいとかなんとかテレビで言っていたのを見た気がする。


 二枚目の紙の上の方には「条件」とある。


 俺が参加すると、具体的に俺がどんなことをしたらいいのか、俺にどんなメリットがあるのかなどが書いてある。


 三枚目は申込用紙だ。

 参加、不参加のどちらかに丸を付けFAXするようになっている。


 「質問はこちらへ」という文と共に電話番号が書いてあったので電話する。


 何が何だかわからない。なんで俺のところにこれが届いたのかとか、協力するうえでのもっと詳しい条件とかを知りたい。


『はい、第三研究室です』

 女性の声で応答があった。


「えっと、そちらから“人工知能育成プロジェクト”の手紙を受け取ったものですが」


『ああ、矢沢翔希さん』


「あ、はい、そうです」

 なんで彼女が俺の名前を知っているんだ。


『何か質問等ございましたでしょうか』


「なんでこれが俺のところに来たんですか。住所を御社に教えた覚えはないし、俺まだ高校生ですけど」


『あなたが私たちの求める条件に最適なんです、矢沢さん。もちろん私たちが集められたデータの中で、ですが』


 条件に最適っていったいなんだ。まあそんなことはいい。

 重要なのは――――


「それで、もし協力したとして俺のメリットと御社のメリットはなんですか」


『同封した紙にある通りです。あなたには毎月三十万の報酬を渡します。期間は二年間。

 私達はプロジェクト名にもあるように人工知能を育成することが目的なので、あなたがしっかりAIを育ててくれればそれがメリットに直結します。

 そして、育成の仕方はとても簡単で、言葉を知らない赤ちゃんだってできます。

 どうですか、そんなに悪い条件じゃないでしょう』


「そうですね。ぜひやらせていただきます」


『そう言ってくれると思ってました。それでは、二ヶ月後くらいにあなたの家にお伺いします』


 報酬毎月三十万はありがたい。しかも二年分。

 いたずらかもしれないとも思ったが、大企業の名を騙って俺にこんないたずらを仕掛ける理由がない。




◆◆◆




 そういうわけで、今、AIと田橋さんが家にいるのだ。


 AIは床に置かれている小さめの機械から、プロジェクターのような感じで映し出されている。


 彼女の話によると「育成」はただ日常生活を一緒にするだけでいいらしい。

 で、これから一緒に生活していくから、最初の信頼関係としてまず俺が名前を付ける、という話だった。


「いきなり名前って言われても、思いつかないんですけど」

「なんでも構いませんよ。過去には、好きなアニメの主人公の名前とか、芸能人の方の名前をつけていた人もいます」


 そう言われても。思いつかないものは思いつかない。まあ、適当でいいだろう。テレビとかあんまり見ないし。


「じゃあ、アイで」


「アイ?」

「はい。AIだから、アイ」

「なるほどね。じゃあ今からあなたはアイ。わかった?」


 田橋さんが、さっきから身動き一つしていなかったAI――――アイに問いかける。

 アイはゆっくりと口を開いた。


「……わかりました」


 明らかに機械の音声だが、少し人間らしさも混じったような、そんな声。

 俺の微妙な表情を見て取ったのか田橋さんは俺に向き直って言う。


「今はまだ全然機械みたいな声だけど。たぶん二、三日でましになります。学習が速いから、アイは」


「そうですか」


「はい。で、これが取扱説明書です。水に入れないで下さいとかあたりまえなことが書いてあります。まあちょっと水がかかったぐらいなら拭けば大丈夫なんですけどね。で、こっちが注意事項まとめたものです」


「はあ」


 取説と注意事項まとめたやつは何が違うのか。


「取説は、ぶっちゃけ読まなくても大丈夫です。注意事項は絶対に読んでください」


 絶対に読んでくださいって言われても、割と分厚い冊子で読む気が失せる。普通の雑誌五冊分はあるぞこれ。


「これ全部読むんですか?」


「できれば。って言ってもたぶん無理だと思うので、今何かアイのことで聞いておきたいことがあれば答えます。私が帰った後困ることがあったら、索引を頼りにその冊子から探すか、研究所の方へ電話していただければ対応しますので」


「……わかりました」


 一応全部読むつもりでいる。機械の扱いは苦手な方じゃないけど、もし何か問題が起きた時に責任とれる自信ないし。


 アイの目線はじっと俺の持っている冊子に注がれている。自分を扱う注意事項だから興味があるのだろうか。


 そう考えて俺は自分の考えを打ち消す。アイは人工知能とはいえ機械なのだから、何かに興味を持つはずはない。

 

「あの、根本的なことなんですけど。アイはここで生活する、ということなんですよね?でも今ここにいるアイはその機械から映し出されているだけですよね。どうやって一緒に生活すれば……?」


「ああ、それなら大丈夫です。重いものを持ったり、家事をすることはできませんが動くことはできるので。――アイ、この部屋の明かりを消してみて」


 田橋さんがそう言うと、アイは周りを見回して電気スイッチを探した後立ち上がってそこへ歩いていく。そして二秒ほどスイッチを眺めた後、俺たちの方を振り返った。


「……できません」


「そうね。じゃあ、戻ってきてこの紙を持ち上げてみて」


 この紙、というのは契約書のうちの一つだ。それを田橋さんはアイの方へ差し出す。


 特に違和感のない足取りでアイは歩いてきて――いや、映像が動いて――アイは紙を田橋さんから受け取った。


「マジで……」


 思わず言葉が漏れる。歩くのは映像でどうにかなるにしてもなんで紙を持てるんだ…?


「驚いたでしょう。実はね、アイを映し出している機械から今ちょっと風が出てるの。それで紙を持ち上げているように見せてるんです。

 まあ、対して役に立たない機能だけど。もし何か少しの間持っていてほしいものがあったら、アイが持ってくれます。

 電気を消すみたいに、実際に触れないといけないことはできませんけど。

 あと質問の答えですが、食事とかはさせなくていいので、それ以外はできるだけ人間と接するように過ごしてください」


 いや、風が出てるって言っても無理がないか。アイの動きはすごく自然だ。紙が不自然に風に揺られたりしない。

 すごい機能だけど、確かにあんまり役に立たない。


「他に、何か質問ありますか」

 アイに、もういいわよ、といった後俺に聞く。


 アイは静かに紙を置いた。

「一緒に生活するって言っても、どれぐらい一緒にいればいいんですか? 家にいるとき、あと学校はどうすれば」


「最初のうちは、できるだけずっと一緒にいてください。学校へはその機械を持って行ってください。AIの本体はその機械にプログラムされているので、機械をカバンの中にでも入れておいてくれれば音を集め、アイが自分で学習します」


「わかりました」


「では、私はこれで。アイ、頑張ってね」


「……何をですか」

 アイはまた平淡な声で答える。


「んー、新生活? それじゃ、失礼します」




 ……。

 …………。


 田橋さんが帰ったいま、俺はどうすればいいのか。日常生活を送れと言われても。



「俺、AIと生活したことねえし……」


 俺の声を聞いたアイは、無感情な目で俺を見た。

月曜と木曜の夕方に投稿していこうと思います。たまに変わるかもしれないけど。あと誤字脱字等あれば教えてください

よろしくお願いします

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