0、不思議な訪問者
一話分追加しました。プロローグではないと思ったので一章に入れます。
プロローグとは別視点です。
ガンッ、ドサドサッという騒々しい音がして俺は音がした玄関の方向を見る。
「……何、何かあったの? すごい音がしたけど」
「さあ……。ちょっと見てくる。電話切るぞ」
なにか言われる前に母親との電話を切る。適当にスマホを投げ出して玄関へ行き、ドアをそっと開ける。隙間から外を伺うと、「いったあ」と声がしてふらふらと立ち上がる人影が見えた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ん?」
声の主は水色のワンピースと綺麗な髪を揺らして振り返る。
数秒の沈黙の後、廊下の端まで後ずさった。
「あああああ、あなた、誰⁈」
それこっちのセリフなんだけど。
「いや、ここに住んでるんだけど。でなんかデカイ音したからでてきたら、君がいたんだけど」
「ああっ、す、すみませんでした!」
「えっと、俺なんかしたっけ」
いや、謝られているんだからなにかしたのは彼女の方か。
それにしても、彼女はどこからきたのだろうか。柔らかそうな水色の髪といい綺麗な目といい整った顔といい、どうも日本人離れしている。
「その、お騒がせして……」
「ああ。別に何事もなかったんならいいよ。怪我とかしてなければ」
「怪我……してないですね」
彼女は自分の腕を触って確認した後そう言った。俺は彼女が靴を履いていないのに気づく。さっきの物音といい、どこから現れたんだこの人は。
さっき後ずさって俺との距離が随分離れた彼女に、俺は一歩歩み寄る。
「本当に大丈夫か? もしかして外国人? それに靴も履いてないし、どこから来たの?」
「ええっと、その……そうです、外国人です。なんとか市っていうとこにいて、いつのまにかここに来てました」
「なんとか市って……わかんないの?」
彼女はコクリと頷く。いつのまにか来たっていうのも引っかかるし。
「誰かと一緒? はぐれたんなら早く探さないと」
「そ、そんな子供じゃないです。それに誰とも一緒じゃないです」
それもそうか。見た所彼女の身長は俺よりやや低いくらいで、おそらく同年代だろう。
ていうか、一人で来たのにいつのまにかこんなとこにいたって、やっぱり迷子じゃないか。
「これから行くところはある?」
「あります。あるんですけど、その、……わからないです」
「どういうこと?」
「どこに行くのか、わからないです」
うん、俺も彼女が何を言いたいのか全くわからない。
とりあえずうちに入ったら、と玄関を開く。
「裸足のままでいたら怪我するよ」
「あの、その、へ、変なこととか、しませんよね?」
「しないって。初対面でしょ、俺ら」
よかったあ、と顔を綻ばせる。可愛い。可愛いけど手を出そうなんて思わない。思えるほど俺は恋愛のプロじゃない。まだ高校生だし。クラスの女子とだって、あの子可愛いなと遠くから見ている程度の付き合いしかない。
だが彼女は一向にこちらへ来ようとはしない。
「どうしたの? いいよ、遠慮しなくて」
怯えたように彼女は少しこちらへ近づく。
俺、怯えられるようなことしたっけ。
「あ、あの、大変失礼かとは思いますが」
「うん」
「て、て……手を、握ってみてくれないでしょうかっ!」
ぎゅっと目をつぶって差し出された手はわずかに震えていた。
なんだ、これ。どういうシチュエーションだ。わからないがとりあえず言われた通り手を握ってみる。
「えーと、これでいいの?」
「ああっ、えっと、はい、そうですっ」
なんか、現れ方といい言動が慌ただしい子だな。
彼女はまた目をつぶった後、決心したように俺と目を合わせた。
「あのっ、わ、私と、けっ……結婚、してくれないでしょうかっ……!」
噛みまくりで繰り出されたそのプロポーズに俺は三つの可能性を考える。
友達との罰ゲームでこんなことをやらされているか、さっきの物音でどこかに頭を打ってどうにかなったか、なんか知らないけどガチのプロポーズか。
二つ目の線が濃厚だな、と考えている間に彼女は慌ててまた口を開く。
「そっ、その、やっぱりいいです! 忘れてくださいっ」
その言葉を合図に、意識に靄がかかる。
なんだ、これは。猛烈な眠気が襲って来て、俺は抗いきれず瞼を閉じる。
「もう、会うこともない、でしょう」
途端に眠気が去り、意識が冴えた。
──なんで俺は、こんな玄関先で横たわっているんだ。寝てたのか? どうしてこんなところで。それにさっきまで誰かがいたような。
気のせいだろう、と俺は気持ちを切り替えて家の中へ戻った。
少しずつですが改稿して、終わったらまた連載再開しようと思います。
また、よかったら別作品もよろしくお願いします。