プロローグ1
ピ、ピ、ピ…………ピピピピ、ピピ。
聞きなれた電子音が鳴る。
「こんにちは」
「……こん、にちは」
挨拶を返すと、反応と口調は良好、と呟きながら目の前の彼女は持っているボードにメモを取る。
そしてまた話しかけてくる。
「あなたは、自分が誰だかわかる?」
「……知らない」
「年齢は?」
「……知らない」
「住んでいる場所は?」
「……知らない」
自分が男なのか女なのかも。何歳なのかも。もちろん名前も。何も、知らない。
また彼女は何やらメモを取る。
「じゃあ次。これは何?」
ポケットから取り出したものを見せられる。
「……アメ」
「じゃあこれは?」
今度は机の上を指さす。
「……花瓶」
「あれは何か知ってる?」
「……パソコン」
「パソコンの使い方はわかる?」
「……知ってる」
オーケーオーケー、というと彼女はこちらへ身を乗り出した。
「じゃあさ、人工知能って知ってる?」
「……知ってる」
「よし。んじゃ早速行こうか。君の新しい家へ」
「……わかった」
彼女は着ている白衣を脱ぐと、くるりとドアの方を向き、歩き出す。
「……あの」
「ん?ああ」
戻ってきた彼女は自分をいきなり持ち上げる。
そして訊いた。
「あなたさっき、あの、っていったよね」
「……言った」
面白くなりそう、という彼女の声に足音が溶け合った。