表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

裏野ハイツ6・あとを尾ければ2

 1987年、消防署員Oさん(当時43歳)の長男(5歳)が自宅前の神社から姿を消し、男から身代金を要求する電話があった。電話は何度か続いたが、当日午後、市内の川で長男は遺体となって発見された。2002年、犯人は見つからないまま、捕まらずに時効は成立する。


『裏野ハイツ』の【102】号室に住む横田が入居したのは2年前である。引きこもっていて、住人などの他人の顔をあまり覚えておらず、社会性については能力的に乏しい。【103】号室の家族が引っ越してきたのが遡る事3年前であるらしい、横田は、珍しくハイツの人間と世間話をしていた。

「最近、身に覚えの無い悪戯いたずらが多くて……嫌になっちゃうのよ」

 そう訴えかけているのは、【103】号室に住む主婦であった。鍵をかけて外食に出かけたはずなのに、帰ってきてみると家具の位置に違和感を感じたり、子どもも一緒に出かけていたのに、折り紙で折った鶴などの動物が外に散乱していたり、ハイツ周辺の近所からも苦情が来ていたりと……気味が悪いので引っ越そうか考えてます、という。

 横田は横田で、度々に目撃する男の子の事が気になっていた。

 ハイツの階段付近に居る事が多く、直接的に人に対して害を与えたりするわけではないが、気味が悪いという点では、奥さんと同じであった。

 そんな矢先である。

 偶然にも、またハイツの階段で、ライオンのシャツを着た小さな男の子を見たのであった。年は5歳位で、これまでに横田と目が合い笑っていた事もある。

 男の子は立ち上がると、2階へは行かずに外へと走り出した、一体何処へ行くのかと、横田は追いかけて走り出す。好奇心の塊になっていた。

 だが残念な事に、幾つかの交差点や道を超えると、見失ってしまったのである。

「ダメか、くそっ」

 諦めて引き返そうと溜息をついたが、バス停を見て「あ」と声を出す。交差点を曲がった所にバス停があったのだが、そこのベンチに【201】号室のお婆さんが腰かけていて休んでいた。散歩の途中でひと休み、といった所か。横田は近づき、話しかける。

「こんにちは。お婆さん」

 呼ばれて、頭を向ける。

「ああ、こんにちは。暑いわねぇ」

 お婆さんは帽子を被っていたが、蒸して暑そうであった。ハンカチを手に持っている。

「ええと横田さん……でしたわね。ご結婚は、なさってないの?」

「ええ、まあ、はい」

「鳥が多いわねぇ」

 世間話はするのだが、内容が飛ぶ。ついていけるのかと心配であったが、基本的に聞く方に徹していれば何も問題無いのかもしれない。

 お婆さんの横に座った。お婆さんは気にする風もなく、ハイツでの暮らしの事や身内の事をベラベラと話し出すのである。

 お婆さんには孫がいたのだが、ある日に行方が分からなくなってしまって、探せど探せど痕跡すら全然無く、捜査は難航し、ついに事件は時効を迎えてしまったらしい。

 生きているのか監禁されているのか、生死は不明であった。お婆さんの娘夫婦はその為に心労で衰弱し、娘は亡くなり、旦那は再婚して遠く離れた家に引っ越して行ったという。

 ひとり残されたお婆さんは今住んでいるハイツで年金によって暮らしている。夫は早くに亡くなっていたので、保険金と貯金などがある。詐欺に遭わない様に、毎日気をつけているらしい。

 話を聞いているうちに、バスが停まり、また通過して行った。話は段々と繰り返しを含む様になり、聞いているのも億劫になってきていた。どうして今日はこんなに喋るのだろうな、そして聞いているのだろうな、お互い……。

 やがてゴソゴソと、お婆さんが小さな鞄から写真を取り出した。かなりボロボロになっている。

「これね、ウチの孫なの……」

 複雑な表情で、写真を見せてくれていた。

 家の庭であろうか、小さな5歳位の男の子が、カメラに向かってピースをして体が傾いている。やんちゃ盛り、といった所であろうか。「ん……?」来ている服に着目した。白のTシャツで、よく見るとライオンだ、このライオンのプリントには、覚えがある。「ああ!」と声をあげてしまった。



 ハイツに到着すると子どもが立っていたが、ただぼうっとこちらを見つめていた。あの子は、何かを伝えたいのだろうか。生気は感じないので、恐らくはもうこの世にはいないのであろう。横田の後ろからお婆さんが歩いて来ても、見ているだけで反応しない。それにお婆さんには、あの子が見えていないのであろうか……?




挿絵(By みてみん)




 こんなに、近くに居たのに。



 次週だが、お婆さんは静かに、部屋で息を引き取ったという。

 穏やかに、安らかに。きっと孫や娘達とも再会できたのであろう、「あちら」で。

 ひょっとすると、悪戯はお婆さんの最期を知らせるサインでもあったのか……そう解釈しても、不思議ではない。


 チリリーン


 にゃあ。


 首に着けられていた、鈴が鳴っている。夏の風物詩の、風鈴なのかと思った。

 迷い込んだ黒猫が、「表野 こっち」と矢印の描かれた方へ、向かって行った。


《END》


ご読了ありがとうございました。


設定を使って作品を6箱に。久しぶりの投稿と執筆で、楽しく書けました(ホラーやっちゅうねん)。

いつもダジャレで終わるワンパターンな作者ですが、1話だけダジャレから始まってみたし。

絶対に〆切に間に合わないわーと全力で最後は書き切ったのですが(不眠)、そのせいで終わりが雑になってしまったような気がしますorz


ではまたどこかで

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


後書き あゆまんじゅう。こちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ