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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深夜テンションの短編集

主人公は自意識過剰

作者: asutarisuku

深夜テンションで書いたものその六です。

カラスの鳴き声が響いていた。

学校からの帰り道。今、僕の前にはゴミ捨て場に捨てられたテレビがあった。

当然、なにも映っていない。だが、ノイズの音だけはそのテレビから聞こえていた。

正直、気味の悪いことこのうえないのだが、少なくとも、今は恐怖よりも好奇心の方が打ち勝っていた。


僕は、ただテレビの前に立って、そのまま数分過ごした。ノイズは依然聞こえている。

思えば、このテレビは随分と前からここにあった。

型の古いブラウン管テレビだ。ノイズと共に今度は画面がちらつく。僕はしゃがんでテレビをのぞき込んだ。

瞬間、画面がゆがんだ。ちらつきがさらにひどくなって今度は画面にノイズが走っていく。

次に、徐々に聞こえていたノイズが意味のある音になっていった。

どこか懐かしさを感じさせる音。パンザマストからながれでているであろうそれは、六時をを示す音楽だった。

徐々にその音楽ははっきりとし、ついには画面に何かが映り始めた。


どこかで見た景色だった。交差点にまばらに人がいる。どこにでもあるような日常の光景だ。


僕はこの場所を知っていた。家に帰るとき何となく道を変えようと思うときがあるが、その時に通った道だった。ここからでも少し遠回りにはなるけど通って帰ることができるだろう。


画面に変化はない。音楽が流れる中まるで中継映像のように交差点が映し出されているだけだ。


変化があったのはテレビから聞こえていた音楽が鳴り止んだ瞬間だった。


テレビが映し出す前を一匹の黒猫が通り過ぎていく。なぜか、その猫には存在感があった。自然と視線が惹きつけられる。


黒猫はテレビの画面のちょうど真ん中で止まり車道に体を向ける。そして、走り出した。


それは、猫特有の素早さだった。だが、


猫はその瞬間に真横に吹き飛ばされた。驚くほどあっけなく、画面外に飛んでいく。

白い車が止まることなく通り過ぎていった。


再び画面がちらつく。ノイズが走り、ジジジと音が聞こえたかと思うと、画面から光は失われた。


僕は、言葉を失っていた。やけにリアリティがあった。脳裏で何回かその光景が繰り返された。


あれは、何だったのか。しゃがんだまま、僕はテレビを依然として見つめている。カラスの鳴き声が聞こえている。間もなく、六時だった。


僕は、少し遠回りする事にした。何となくでしかない。いや、嘘だ。目的はあった。あのテレビの場所を見に行こうと思ったのだ。

あの場所はここから五分とかからない場所。そこへ向かうことに少しの抵抗もなかった。




テレビのある場所は人気のない場所だったがために、交差点に近づくにつれて車の音が聞こえてくる。僕はまるで現実に戻っているかのような奇妙な感覚を覚えた。それが先ほどの体験のせいなのは疑うべくもない。


ちょうど交差点に着いた頃だった。どこかのパンザマストから六時の音楽が流れ出る。夕焼けがそのBGMによく似合っていた。


強烈な既視感。人の往来。車の音。そのすべてがあのテレビと同じような気がした。

立ちすくむ僕の横を黒猫が通り過ぎていく。ちらりとその猫が僕の方を見た気がした。その間0.1秒程度。だが、それで確信した。心臓の奥の方が締め付けられるように痛んだ。


これは、これは――。


駄目だという思いがあった。見たくないと思ってもその目は猫をとらえ続ける。


猫はあのテレビの場所で車道に近づく。奥からは白いワゴンが迫っているのが見えた。


猫はそのまま――――。





ブウンと音を立てて、僕の横を白いワゴンが通り抜けていく。それから数秒遅れて生暖かい風が僕の頬を撫でた。





猫は――――、立ち止まっていた。


それからタイミングを見計らい車道に飛び出して、猫は向こう側にたどり着く。


何の事故もなく、命が散ることはなく。世界は何事もなく進んでいく。


ほっとしていた。同時に、少しがっかりしていた。あれは、未来ではなかったのだ。いや、確かに未来ではあった。だが、結末が違った。


立ち止まっている僕を不思議そうな目で眺めながら通行人は歩いていく。僕はそれを見ていつも通りに歩き出した。


少し遠回りした道はいつもより少し新鮮だった。





翌日。やはりカラスは鳴いている。そして、まだそこにテレビはあった。聞こえるノイズ。昨日と少しも変わらない。


僕は昨日と同じようにテレビの前に立つ。やっぱりノイズはテレビから発せられていた。

そして、テレビの前に立ったからか画面がまたもゆがみ、映し出されるのは日常の風景。


画面の中では、また命が潰えた。今度は鳥。

原因はまたも事故だ。


僕はその映像の後その場所に向かった。時間的に間に合う距離ではなく、僕が着いたときにはそこに一匹の鳥の死体が転がっているだけだった。


どうやら、今回はあのテレビの通りになったようだった。それを見ても、僕は何とも思わなかった。ただ、ああ、あれは当たることもあるのかと少しそう思っただけで。




それから、僕は毎日テレビを見に行った。てっきり事故で死ぬ命を映しているのかと思ったらどうやらそうではないようで、中には犬が人に殺されるという人為的な物もあった。その時は僕が現場に向かうと人影が逃げていって、後には元気のない犬が残されていた。殺されてはいないようなので僕は警察に連絡して、その場を去った。


ここまでくれば、僕は自分の異常性に気づき始めていた。


僕はどうやら死体というものをみても心が動かないらしい。少なくとも動物ではそれが証明されている。積極的に守りたいとは思わないし、僕が現場に向かうのは好奇心が多くを占めているようなのだ。


でも、それだけ。それだけのことだ。


僕は別に殺したいと思うわけではない。むしろ殺しているのを見ると気分が悪くなるぐらいだ。

だから、僕はまだこの社会で生きていられるのだろう。これからもきっと、生きていくことには何の支障もないと思う。





テレビは毎日命を映し出す。僕がそれに対する推測を諦めて、それでいい加減毎日テレビを見るのを止めようと思ってきた頃。


僕の自身への評価は少し変わることになった。





もはや惰性。何となくでしかなく、今日もテレビの前に立つ。この頃は現場に向かうことも少なくなって、テレビの内容を眺めるだけになっていた。


まあ、流石に人為的なものの時は通報しているが。

警察では度重なる匿名の電話に首を傾げているかもしれない。


もうなれたもので、いつものようにノイズを奏でだすそれをもう不気味とは思わない。そう思ってからはなんだかとても無機質で、当然のことだが機械的で、とてもつまらないもののように感じ始めていた。


僕がしゃがむとテレビがどこかを映し出す。

映し出された時間帯は夜だった。真っ暗でなにも見えない中、街灯が点々と道を照らしている。このブラウン管テレビの画質では、その街灯が照らす場所以外は見えていないも同然だった。

人気がないと言える。だが、そこまで遅い時間ではないように思えた。経験上このテレビが映し出すのはその当日の出来事だ。


画面の変化はすぐに現れた。いつものように不思議と視線が持って行かれる。


暗闇から少しずつ、それが街灯の元へと歩みを進めてきた。足が見え、その時点で確信し、体が見えて、それがより深刻なものへと変わっていく。


見たことのある制服だ。そう、制服だ。それは人だった。正確に形容するならば女性、いや、少女といった方が正しいかもしれない。


その少女は僕と同じ学校の生徒のようだった。感覚はその少女に間違いなく集中している。その意味を、僕はよく知り得ていた。


ドクンと心臓が大きく波打った気がする。やめろと何かがささやいたようなそんな気がする。


視線は束縛されている。僕はそこから目を離すことはできない。それが、こんなにも恨めしいと感じたことは無かった。


歩いていく。少女は何事もなく進んでいく。部活帰りなのだろう。その肩にはリュックサックの他にショルダーバックもかけられている。ショルダーバックの中身は、恐らく体操服なのだろう。


――変化は突然だった。ヌッと暗闇から男が現れる。その手には、街灯でぎらつく銀色の刃。

少女も、直ぐに気づいた。


『――ヒッ』


少女の顔が引きつる。恐怖によって彩られていく。


『……っへへ』


男は笑い。


『ひははっ』


笑い。


――――交錯は一瞬。


どろっとしたものが、映像からも確認できた。できてしまった。


瞬間、強烈な吐き気が僕を襲った。こんなことは、これまでなかった。今まで動物の死骸を見たって、ここまで気持ち悪くはならなかった。


視線の束縛が外れて、瞬時に僕は視界を外す。


……気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


気持ち悪いっ!


同時にイライラした。僕は確かに憤慨していた。


それでそこで気づいた。音が、聞こえている。タッタッタと、タッタッタと断続的に。


足音だ。意図的に大きくしたみたいな、そんな音。その音は力強く地面を蹴っているからでているものだ。走ってくる。何かが、走ってくる。


僕はそこでテレビを見てしまった。視線が固定されるあの感覚が、また僕を襲った。


「……うそでしょ?」


それは、なにを意味するのか。それは、なにを……。


『何やってる……?』


その声は、知っていた。さっき聞いた。……さっき、本当についさっきだ。


『――――』


足音の原因は、男の前で立ち止まった。


『ひっ、ひひひはひはひひ』


狂っていた。男は狂っていた。目が、確実に常人のそれではない。


僕は動けない。そのまま、さも当然のように刺された。


僕が、刺された。


「…………っ」


声も上げない。僕は倒れる。


――映像の中で、僕は血溜まりの中で寝そべっていた。


先ほどとは比べものにならない程に僕の心臓は高速で血を送り続けている。その感覚に生きている実感がした。


強烈な恐怖で固まっていた体が、テレビが消えたそのとたんに不意に力を失う。僕は腰を抜かしていた。


「……あれは、僕だった」


確かめるように、空気を揺らして。

その音が鼓膜に届いて、ようやく頭が回りはじめる。


「僕だった……! あれは僕だった……!」


どうしてだ。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどう――――。


脳が許容量を越えたみたいに、僕はそこでプツンと何かが切れたような感覚がした。







「……うぅ」


頭がズキズキと痛む。これはそう、昔熱中症で倒れたときににている。僕はきっと、意識を失っていた。


ようやく痛みが収まって、僕は目を開ける。もうすぐ、日が落ちる時間だった。

何分たっただろうか。気絶したのがいつかわからない以上、その答えは正確には得られない。少なくとも、十分以上は気絶していたと思う。


先ほどまでのことが夢でないことは、僕がテレビの前に寝ていたことから明らかに思えた。


寝ている間に整理されたのか、今の僕は何の動揺もない。あれは事実と認識していて、それに対しての感想も持ち得ていた。


――――イライラする。


それが僕の率直な感想。今まで動物が死んでも何にも思わなかった僕が、ことここにいたって憤慨している。それは奇妙ではあったけど、心のどこかで納得もしていた。


人間なんて、そんなものなのかもしれない。どこか遠くの国で戦争があっても、ほとんどの人がそれにどこか他人事であるように、どこか遠くで死んだ人を可哀想と思っても、自分がなにをしても助けたいと思わないように。


それは、きっと当然のことだ。


そして、人は近しい人が亡くなると、それに悲しむ。他のどんな事も比べものにならないくらい悲しむ。そして、人によっては助けたい、かわってあげたかったと思うのだろう。

うまく言葉にはできないけど、きっとそういうこと。


未来であろうものを知り得ていて、僕ならばそれを助けられるかもしれない。そんで、僕はその助けたいと思う範囲がきっと人間に限って人より少し広いんだろう。しかも、あのテレビの内容が恐らくは変えられるものだということを僕は知っている。実証も経験からされているのだ。


助けない理由はない。


死ぬかもしれないとは思った。事実あのテレビの中で僕は死んでいる。でも、僕はそれを知っているのだ。なら、僕はあのテレビの中の僕とは違う。

テレビの中の僕も知り得ていた可能性はゼロではないけど、そんなことは絶対にないと言い聞かして押さえ込んだ。


……自分でも、驚いている。自分は薄情ものだと思っていた。同じ学校ではあっても、限りなく他人に近いあの少女を救いたいと思うとは思わなかった。しかも、そこに自分の命も預けている。


正直、新鮮な感覚だ。いまだかつてこんな感情は経験したことがない。馬鹿げていると思っていても、助けにいくという行動を理性で押さえきることができない。


僕は携帯を取り出す。いつものように、警察に匿名で連絡を入れた。

内容は映像でみた場所で通り魔が暴れているという情報。詳しく聞きたがっていたけど、嘘をついている状態の今、どんなボロが出るかわからない。嘘だと思われたら、そこでおしまいなのだ。

だから、僕は伝えることだけ伝えて一方的に電話を切った。


これならきっと、なんとなくの確認ではなく、急いできてくれると思った。


僕は携帯をしまうと現場に急ぐ。きっとテレビの中の僕は絶対に警察に連絡しただろうから。

それでも、テレビの中の僕の方が早かったということは、警察が間に合わないかもしれないということ。


テレビの時と違って間に合うなら、それでもいいのだ。ただ、万が一は、できるだけつぶしておきたい。


空はもうすっかり暗い。日はあっという間に落ちて、街灯の光が暗い夜道を照らしていた。


僕の走る足音だけが静かな夜に遠く響いた。






現場までもうすぐ。


もともと体力があるほうじゃない僕はだいぶ息があがっていた。パトカーのサイレンは聞こえない。まさか、イタズラだと思われたのだろうか……!


そんな考えを振り切る暇もなく、僕は現場に着いた。この場所は僕の帰り道だ。よく通る場所だからこそ、あんな暗い画面でも、そこがどこなのか判別する事ができた。


「……やめろ! やめろ! クソっ! 離れろこのくそ犬がぁ!」


男の声だった。僕の目線の先には犬に噛みつかれた男と、その目の前で腰を抜かしている少女。


犬なんて、あのテレビにはいなかった。そのことに首を傾げながらも、僕はそれどころではないとそれを無視する。


僕は少女に叫ぶ。


「はやく! 逃げて! 早く!」


少女が僕に気づく。同時に男も僕に気づく。


「くそ……! 殺させろ! お前も俺の敵かぁ! お前もかぁ!」


なにいっているのか少しもわからない。でも、犬のおかげで僕は少女の元へたどり着くことができた。

腰を抜かしている少女を支える。一刻の猶予もない。犬ももうすぐ引きはがされそうだ。


「逃げて! ほら!」


ようやく立ち上がった少女の背中をできるだけ遠くに押しやって、僕は振り返る。後ろから走り去る足音。……よかった。そう思ったのもつかの間。


「ふーっ、ふーっ」


鼻息荒く、犬を振りほどいた男がこちらをみていた。目は血走っていて、右手には銀色に輝くナイフ。それに血はついていない。犬は少しだけ遠くに転がっていた。ても、みた感じ血は出ていない。きっと、死んではいない……と思う。


それよりも目の前の男だった。僕はもう息が切れている。逃げるだけの余力がない。今後ろを向いて逃げ出しても、きっと追いつかれる。

ことここにいたって、ようやく恐怖が追いついてきた。


気持ちの悪い汗がだらだらと背中を流れる。

いやだ。死にたくない。


それでも、男は待ってくれなかった。


「――――」


結果的に、僕はあのテレビの中の僕と同じ反応をしていた。声も、出すことはできない。


刃が、僕のおなかに向かって、着実に近づいてきて。


――でも、突如その軌道は少しずれた。それでも、僕に刺さることは変わらないけど。


ズプリと、刺さった。僕のお腹に、じわりと血が広がった。ずれた結果がそれだった。なにも、変わらない。


ずれた原因はわかっていた。犬だ。僕にとってのイレギュラー。あの犬が、目を覚まして男に襲いかかったのだ。


そこまで考えて、遅れて痛みがやってきた。

痛い。痛い。痛い。……痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


ぐらりと視界が揺れる。体から力が抜ける。

遠くから、パトカーのサイレンが聞こえた。男がそれを聞いて逃げ出すのがわかった。犬が、僕に向かってずっと吼え続けていた。その犬に対しての既視感が、揺らぐ意識の中で強く頭に刻みついた。






綺麗な空だった。それを、僕は窓から眺める。


結論。僕は死ななかった。

ナイフは綺麗に大事な部分を避け、致命傷には至らなかったらしい。奇跡だと、医者はそう言っていた。


男はあの後駆けつけた警察に取り押さえられて逮捕されたらしい。


少女は今、僕の目の前で頭を下げていた。


「――本当に、ありがとうございました!」


病室のベッドの前で少女は寝ている僕に感謝を述べる。僕は苦笑いしていた。


「……いや、いいから」

「よくありません! 本当にありがとうございます! あなたがいなかったら、私死んでいたかもしれません!」


しれないではなく、死んでいたんだけど。そう言いたくなったが、僕はそれを飲み込んだ。だいたい、信じてはもらえないだろうし、変な人だと思われるだけだ。


ようやく感謝を言い終えた少女は、世間話というか、あの事件について話し始めた。


「そういえば、あの犬何ですけど……」


その、あの犬というのがなにを指しているかは、すぐに検討がついた。僕にとってイレギュラーだった、あの犬だ。


「あの犬、保健所から逃げてきたんだそうです。犬を引き取りにきた保健所の人が言ってました。逃げたことがよかったのか悪かったのか少しわからなくて戸惑ってるって」


その言葉を聞いて、僕の中でわからなかったことがカチリと綺麗に繋がった。


既視感があったのだ。あの犬はどこかで見たことがあった。そう、あのテレビでみたのだ。人に殺された犬。僕が現場に向かうと人影は逃げて、そうして後にはテレビとは違い死ななかったあの犬が残っていた。


「……では、お大事に」


少女はそう言って病室から出て行く。


僕は犬のことから思いついた仮説を頭の中で組み立てていった。


あのテレビはきっと僕がテレビを知らずに過ごしていた世界を写していたのだ。あの男が現れたのは僕の帰り道だった。テレビを知らなければ、なにも知らない僕があそこに居合わせていた。

――そして、殺されていた。


僕はあのテレビを知って何匹かの動物を助けた。それできっと、未来が変わったんだ。あの犬がいなければきっと僕がつく前に少女は殺されていた。


……バタフライエフェクトというのだろうか。そこまで大きなものではないと思うが、それでも、それに違いなかった。少なくとも僕はそう結論づけた。


病室の白い天井を眺めて僕は目を閉じる。少し、考え事をしたから疲れたのだ。そのまま、僕はゆっくり眠りについた。






久しぶりの学校が終わった。


その帰り道、僕の目の前にはテレビがある。

あのテレビは、まだそこにあった。


僕はそれに背を向ける。そして、そのままそこを立ち去ろうとした。


――不意に、後ろから聞き慣れたノイズが聞こえた。振り返ると、テレビの画面にはノイズが走っている。


「……もう、かんべんしてくれ」


僕はもう、そのテレビの前に立つことはなかった。


夕焼けに空が染まる中、カラスの鳴き声が、どこか遠くで聞こえていた。

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