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悪役令嬢

8歳の誕生日を控え、「彼がお前の婚約者だよ」と、第一王子エーディク様の絵姿を見せられたとき、前世の記憶が一気に流れ込んできた。


ここは以前、大好きだったゲームの世界にそっくりで、異世界転生って本当に有るのね!という驚きは、お父さんの会社の同僚が宝くじに当たって会社を辞めたって話を聞いた時の衝撃とよく似ていたわ。

高額当選って都市伝説じゃなかったんだ!と驚いて、それから毎年サマー○ャンボは欠かさず買ってたわ。

そうよね、宝くじに当たったって話はその他にはあんまり聞かないけど、悪役令嬢に生まれ変わったって話はたくさん見たものね。異世界転生ってきっとよく有ることなんだわ。


フィクションと現実を混同するなって?

いいじゃないの少しくらい現実逃避したって。

だって私「悪役令嬢」なのよ?

主人公補正ナシ。転生チートも今のところ兆候ナシ。

内政や料理で確固たる地位が築けるような知識や技能もナシ。そんなの持ってたら、しがない派遣社員なんてやってなかったわ。

その上で、立場は「悪役令嬢」。

いいこと?「悪役」よ。全てのルートで弾劾され、婚約破棄され、よくて平民落ち、最悪死罪。

ヒロインが誰を選んでも婚約破棄って鬼仕様だけれど仕方ないわよね。非道な悪役令嬢を断罪するには王子様の婚約者のままでは都合が悪いもの。完璧王子のエーディク様にはふさわしくないもの。

公式は全年齢向けだったから、そこまで悲惨な最期じゃなかったけど、薄い本では陵辱エンドとか余裕だったわね。

え、通販で買っちゃったのよ!つい、出来心で!!


そこからは破滅フラグを立てないように、必死で過ごしたわ。

もしも世界に「フラグ破壊技師検定」があったら私かなりいい線までいけると思う。

実のところ、私はエーディク様一筋だったので、他のルートはそんなに詳しくなくて、何がフラグになるか分からないから、とにかく敵を作りそうな行動は避けて、感謝と奉仕の心を忘れず、一日一善、情けは人のためならず!

冗談抜きで、庭に迷い込んできた犬にまで親切にしたわよ。吠えかかられて本当に怖かったけれど。すっかり私に懐いてくれた弟と守護騎士さんが、「殺す!」って息巻いているのを泣いて止めたわ。あの犬が弟王子の愛犬だったら、唯一の友達を奪われた弟王子に恨まれて、嫌われて、ヒロインが彼のルートに入った時に「あのときの無念を思い知れ」ってむりやり獣姦……あ、これは薄い本の方だわ。

ちがうのよ!そういうのが好きで買った訳じゃないのよ!通販だから、中味見ないで買うから、混ざってる時があるの!!



そして、ついにやってきてしまったゲーム開始の時。

ヒロインさんの選択によって、私の今後が決まるのかと思うと緊張する。

今までの所、私のことを恨んでいる攻略対象はいないはず。彼女がエーディク様ルートにさえ入らなければ、もしかしたら婚約も解消されずに済むかもしれない。そうなると信じたい。そうなってお願い!!


そして、現れたヒロイン……リーザさん(デフォルト名だったわ)は、やっぱりエーディク様を見つめ……て?あれ??

見惚れているというよりは、……むしろ汚らわしいものでも見るように蔑みきった視線?

え、なんで?エーディク様かっこいいでしょ?優しいのよ?

最後には私との婚約を破棄して去って行ってしまうけど。って思ったら、またちょっと泣けてきた。


その後、いつまで経ってもいっこうに攻略を始める気配も見せないリーザさん。

どうしても気になってしまうのもあって、一緒に過ごす事が多いのだけれど。

なんで、精霊竜が隙あらば攻撃してくるの?!ゲームの時よりあからさまに嫌われてるわ!!

「爪っ!爪、ささってっるから!!やめっ。いたっ。髪ひっぱんないでっ!ハゲる!!ハゲちゃうから!!!」


「リューダ?」リーザさんが微笑みながら声をかけると精霊竜はしぶしぶ戻って行く。

早速じゃれかかっていく霊獣も軽くあしらうリーザさん。この霊獣は「ミケ」というらしい。でも虎の霊獣に「ミケ」っておかしくない?!そこは「トラ」でしょ?もしくは「タマ」。

この人も転生者なのかしらと思わせておいて、そのくせ、そんなはずはないという気にもさせる微妙な名付け。


「この子はマルーシャ様のことが好きみたいですね」悩む私に気づきもせず、リーザさんが精霊竜をかかえてトンデモ発言をしてくる。

「どうして?」とても好かれているとは思えないけれど、それに清廉な魂の持ち主にしか懐かないんでしょ?

「まだ子供ですからマルーシャ様お胸の柔らかさが恋しいのでしょう」え?

「……そうなのかしら」……って竜って卵生よね?子育てに胸関係ないわよね?

柔らかければ何でもいいなら父上のビール腹でも問題ないのではないのかしら?

はっ!?もしかして、前世でも「ホルスタイン」ってからかわれた無駄な脂肪の塊をあざ笑っているの?!

わたしだってあなたみたいなほっそりとしたモデル体型がよかったわ!

そっと様子を伺うとエーディク様は、聞いてないかのように明後日の方向を向いていらした。

エーディク様もやっぱりほっそりと可憐な子の方がお好きですか?

引っ込んだはずの涙がまたじんわりにじんでくるので話題を変えてみる。


「あなた、卒業後は宮廷魔道師になるのよね?」

「そういう契約になってますね」

「エーディク様が即位なさったら、直属の部下の扱いになるわね」宮廷魔道師は国王陛下の旗下ですもの。

「……年季が明けるまで現国王に一日でも長くがんばってもらって……いざとなったら国外逃亡か……」

恐ろしいことに気がついたって顔で、逃げ出す算段をはじめるヒロイン。ねえ、本当に、なんでそこまでエーディク様が嫌いなの?

私はちょっと安心してもいいの?


   *  *  *


リーザさんが何もしていないように見えても、やがて分岐がやってくる。

今日は学院主催の舞踏会が開かれる。このイベントでヒロインがダンスを踊るお相手が、この後の主な攻略対象になる。誰から誘われるのかはパラメータ次第。何人と踊るかはここまでの攻略次第。誰と踊るのかは本人次第。

 そして、誰と踊るにしてもそれが気にくわない「私」は、彼女のドレスにわざとカクテルをひっかけてエーディク様の不興を買う……。

私、そんな事しないわ……。たとえエーディク様が彼女に声をかけたとしても、彼女がそれを受け入れたとしても……。


……何かの間違いでも無い限り、そんな事態にはならなそうだけれど。


大丈夫だとは思うけれど、思いたいけれど、確信はできない。

そんな、B判定の出ている学校の入試の結果を待つような落ち着かない気持ち、分かってもらえるかしら。

私としては実体験なのだけれど……。

 ちなみに、その時の結果は聞かないで頂戴。……本命だったのに。

余計なことまで思い出してしまい落ち込んだ気持ちを奮い立たせて会場に臨んだにもかかわらず、


「リーザさんはどこなのかしら?」彼女はどこにも見当たらなかった。


「彼女は、その日は風邪をひく予定だから舞踏会には出ないって一月前から言ってたよ」

「え、未来予知?」ヒロインチートってそんなことまでできるの?

「いや、単に仮病だろう」何かをこらえるような憂い顔で答えるエーディク様。

え?ここでそんな憂い顔って、やっぱり本当はリーザさんに来て欲しかったということ?

まさかエーディク様、今までにされたことのない塩対応に新しい扉を開いてしまったの?!

えええええ?!すげなくあしらわれるのに快感を感じちゃうように調教済み!?


ヒロインチート強力すぎる!!


あまりの衝撃に混乱しながらも、

笑顔を絶やさず、請われればダンスに応じ……


伊達に何年も王妃修行に取り組んでいたわけではないわ。

もし、万に一つでもそのまま捨てられずにいられるという可能性のために、

完璧王子の隣にいても許されるように。


でも、結局ヒロインにはかなわないんだわ。

だって相手は主人公ですもの。所詮は「彼女のための物語」なんだもの。


 声をかけてくる人のとぎれた隙に休憩をするふりをして会場の隅に一人佇む。

 ああ、もうおうちに帰りたい。念のために調べておいた逃げ込む修道院リストを見直したい。

  北の都にある修道院は名物のクッキーがとてもおいしいのよね。


バターたっぷりのクッキーの記憶に逃げ……想いを馳せていたら、不意に軽い衝撃に襲われる、そしてじんわりと冷たくなってくるおなか。

「申しわけありません!」そして目の前に中味のほとんど無くなったグラスを持って震える令嬢。

あれ、カクテルひっかぶるの私なの?見下ろしたドレスにはくっきりと赤い染み。

いつも着ている赤系のドレスだったらそんなに目立たなかったのに、今日に限って着せられたのは艶のある金のドレス。

これ、もう着替えるしかないわね。ちょうどいいから退出させてもらいましょう。

「あの?」目の前の令嬢に声をかけるとびくっと身をこわばらせる。

いえ、そんな怯えなくても、過失でしょう?責めたてたりしないわよ。ただ、いかにもこぼしちゃいましたって染みを見せて歩くのはさすがに恥ずかしいし、なにか羽織るものでももって来てもらいたいのだけれど。

なんだか、この状況、私がこの方をいじめているみたいじゃない。

こんなとこエーディク様に見られたら誤解されちゃう、


「マルーシャ」ぴゃぁあああっっ!見つかった!!

「あの、ちがうのよ、私っ」言い訳をしなければと焦る背後からふわりとしたぬくもりに包まれる。あ、上着かけてくれたのね。怒って、ない?

「大丈夫、とにかく一度控え室に向かおう」そっと表情をうかがうと、ひぃっ、目が笑ってないっ。

「レスター伯爵令嬢」エーディク様は微笑みながら、極寒の冷気を振りまくという上級技を繰り出してくる。カクテルかけられたのは私の方なのに、弱い者イジメをするような子って嫌われるとか、踏んだり蹴ったりにもほどがあるわ。

「今回の件は婚約者殿のドレス代を弁償することで不問とする。レスター伯には私から話しておこう。」って、え?

「そんな、そこまでして頂かなくても大丈夫よ」私にじゃなくて、この令嬢に怒っている……の?

「慈悲深い婚約者殿がそうやって許してくれると安心しているから、距離を取り違えてこんな粗相をしでかしてしまう者が出るんだよ。」えーっと。つまり、舐められるような私の振るまいが相手をつけあがらせていると、そういうことですか……。

「でも、わざとという訳ではないのですから」

「もちろん故意ではないから弁償で許すんだよ。未来の王妃を、諸外国の使者にお披露目するためのラストダンスに参加できなくさせるなんて、わざとしでかすなら爵位か領地のいくらかくらいは差し出してもらわなきゃ」爵位剥奪とか領地没収とか、めちゃめちゃ重い罰なんですけど。


最前とは比べものにならないレベルで真っ青になった令嬢をその場にそのまま残して、抱えるようにして控え室に連れて行かれた私は、ふかふかのタオルを渡される。


「せっかく今日のためにおそろいで仕立てさせたドレスだったのに」

「おそろい?」肩にかけられた上着は黒で、その下のドレスは金。

「肝心の君は気づいてくれないし」エーディク様が頬の横に流れる私の黒い髪の毛を一房取って口づける。その耳にはガーネットのピアス。覗き込む瞳は私のイヤリングと同じエメラルド。

黒髪で赤い瞳の私と金髪で緑の瞳のエーディク様のそれぞれの色。よく見ると上着とドレスの双方に同じ意匠の縫い取りが施されていた。


「……こんなことまでして。『未来の王妃』とかまで言っちゃって。いいんですか?婚約破棄できなくなっちゃいますよ」

「そんなことさせないよ」させないって、

「……エーディク様が、するんじゃないですか」ほろりとこぼれる涙が抱えたタオルに吸い込まれていく。

「私なんて、とっさのトラブルにもきちんと対応できなくて、精霊竜にだって嫌われているし、完璧なあなたにはふさわしくないもの。……結局最後にはリーザさんを選ぶのでしょう」だったら期待なんかさせないで欲しい。

「なんでここでリーザ……」エーディク様はがっくりと肩を落としたけれど、すぐに気を取り直したようにうっすらと微笑む。

「確かに、君は割とうかつだし。ずいぶんと鈍いし。そのくせちょっとしたことですぐ泣くし。今みたいに言動が斜め上にずれてることもよく有るけれど」あれ、なんか私ナチュラルにディスられてる……。

「でも君は皆に愛されている。私もそんな君が愛おしい。これまでも態度でそう示してきたつもりなんだけど」

「……義理とか義務からですよね」正しくあろうとする第一王子は、「婚約」という契約を最後まで果たそうとする。

「やっぱり伝わってないんだ。だいたい、私だって完璧なんかじゃないよ。本来は第一王子ですらない。ねえ、マルーシャ。イリヤーは本当は私の双子の兄なんだよ。」

「え……」


それは、トゥルーエンドに向かうヒロインだけに告げられる第一王子の秘密。「双子は忌まわしい」と言われるこの国で同時に生まれた二人。兄であったイリヤー様は金色の瞳が魔物のようだと母親に厭われたのだという。

失敗すれば捨てられる、すげ替えられるという恐怖からことさら完璧であることを自らに課す「第一王子」がエーディク様だった。

こんなタイミングで私なんかに言ってしまったら、エーディク様のルートが成立しなくなる。

でもそれをいうなら、すでにイベントのいくつかが何も起こらずにスルーされている。あれ、ここはもう完全にゲームとは違う世界なの??


「君も双子なんて忌まわしいと思う?」ヒロインに向けられていたセリフが私に向けて告げられる。

「……どうやって生まれるかなんて自分で選べもしないことはその人の価値を決めたりしないわ」そんな全国の双子さんに失礼なこと思ったりしないわ。

「本当はその資格もないのに第一王子を名乗っている私を軽蔑する?」

「あなたはその名にふさわしくあろうと努力してきたわ」ずっとそばで見ていたのだから、誰より知っている。

「完璧じゃない私でも、君は選んでくれる?」

「私が好きなのは完璧な王子さまじゃなくて、完璧であろうとするエーディク様だわ」……私の答えは選択肢から選ぶのではなく、自分の思いそのまま。

「私も君がいい。今更、他の誰にも君を渡す気なんてないんだよ」何よりも欲しかった言葉にさっきとはちがう涙があふれ出す。エーディク様は優しく頬をぬぐってくれて、


「だから、逃げられないように既成事実を作っちゃおうね」

極上の王子様スマイルで言い放った。


……え?ちょっと待って?既成事実って、何?!なんで私抱えられてるの?え?えっっっ?!扉の向こうになんでベッド!?


その後すぐ、私の身を案じてやってきた弟たちに助けられ、R18指定の危機からは逃げられました。

でも、王子様と二人っきりで舞踏会の会場から一時消えていたことで、既にそういうことなんだと一部の人には思われています。


どのみち卒業したら結婚することは決定なんですけれど。もちろんそれに不満なんてないんですけど。

その後、隙あらば迫ってくるエーディク様のエロっぽさ……いえ色気が壮絶に半端ないんです。

王子様が出来婚とかダメ絶対!!


私、卒業まで無事でいられるのかしら!?

二人が買ったのは「神サマージャン○宝くじ」

一等 ヒロイン転生

二等 悪役令嬢転生

三等のモブ令嬢(×2)にも上手く立ち回れば、宰相子息(鬼畜眼鏡枠)とか学院講師(ヤンデレ枠)とかのルートがあったけれど、攻略失敗。

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