表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

ヒロイン

悪役令嬢ものが楽しくて。ついうっかり書いてしまいました。

ノリと勢いだけなので、軽い気持ちでご笑覧頂ければ幸い。


あ、これ従姉妹のお姉ちゃんに雇われて、小遣い稼ぎに攻略した乙女ゲーだよ。

題名は忘れた。

異世界転生って本当に有るんだね。

宝くじより確率低い当たり掴んだんじゃない?

ああ、私の買ったサマージャ○ボ。もう結果を知ることもできないんだ。

や、今更、知った所でどうしようもないんだけど。


そんなしょうもないことを考えながら、目の前のつややかな黒髪に透き通る白い肌、赤い瞳が印象的でちょっときつめの美人さんを見る。

第一王子エーディク様の婚約者のマルーシャ様。

いわゆる悪役令嬢ってヤツですね。


そんでもって、お隣の第一王子様は攻略対象って訳です。

パッケージでも中央を占めるメインターゲット様。王道中の王道。

金髪碧眼腹黒笑顔俺様王子様。

で、この第一王子が、メインなくせに落ちない落ちない!

ちょっとでも選択肢を間違えようものなら、あっという間に別ルート(主に弟王子/不憫へたれ枠)に突入。パラメータが高すぎても(!)低すぎてもダメ。おまけに途中に仕込まれているミニゲームの難易度まで高くて、トゥルーエンディングまで至ることを涙を呑んで諦めた乙女たちも数知れないとの噂。

我が従姉妹殿は、「スチルだけ出せればいいから」とその辺まるっと私に投げてきた。

攻略サイトを駆使して、最短コースを目差すのに、わずかの油断で弟王子のルートに入ってしまい

「このヘタレ王子が!こんなとこだけ根性出してんじゃねえっ!!」と画面を殴打しそうになったこと数知れず。

最終的には弟王子のルートはやり尽くして、いっそ愛着を感じるほどだったね。

ずるずると関係を引っぱったあげく、「やはり私は婚約者を裏切ることは出来ない」とか、わざとらしい憂い顔でいけしゃーしゃーと抜かす第一王子なんかより、よっぽどかわいいよ!いい奴だよ!


ちなみに、なんとか依頼を達成して、データを渡したときに従姉妹殿、

「なに!このイリヤー様(※弟王子)どうやって出したの!!」とエライ興奮なさってましたが、隠しスチル?知らんよ。私が引き受けたのは、第一王子のスチル回収であって、その他はなんかのはずみで出てきただけだから。


まあ、そんな訳で、第一王子を見た瞬間イラっ☆とするあまり、前世の記憶が蘇りました。

それが、傍目には「皆様の憧れ素敵な第一王子に見惚れてぼーっとなっちゃってる乙女」に見えてしまったらしく、悪役令嬢ちゃんが、不安げに見つめてきています。

ちょっと涙目。わー、かわいいー。


大丈夫ですよー。私、その人嫌いですし。そうでなくても人様の婚約者やら、恋人やらにすり寄って媚売ったりするなんて、前世、今世通して、すり込まれた良識的にムリですし。そんな面倒、頼まれたってご遠慮しますよ。


なんか私、ヒロインポジションみたいですけど。


そう、今現在の私の外見は、さらさらの金の髪に神秘的なすみれ色の瞳。

平民ながら、あり得ないほどの魔力を持ち、伝説の精霊竜と霊獣を従えることで清廉な魂の持ち主と認められたヒロイン(私だ!)は、17歳で、本来なら貴族しか入学できない魔法学院に特例で編入することになる。

4年制の学院の2年時に編入し、生徒会長の第一王子(4年生)と副会長の悪役令嬢ちゃん(2年生)に紹介されたところからゲームが開始し、冒頭に至る。

ここから始まる魅力的な男性陣とのめくるめく恋の日々(棒読み)


うん、無いわ。


取りあえず無駄にスペック高いチート能力のせいで変なことに巻き込まれないように、知識と政治力をつけたいという入学当初の目標は変わりません。権力者とはつかず離れずの関係が一番。可能ならいざというときのための弱みを握っておきたい所存。

ええ、しがない一般市民ですから。


   *  *  *


さて、ヒロインながら攻略始める気がさらっさらない私にとっても、結果的に放置される相手にとっても幸運なことに、この世界には「ヒロインと結ばれることで初めて幸せ(もしくは救い)がもたらされる」的なキャラが存在していなかった。

や、ゲームではいたんだよ。というか、大概みんなそんなカンジだった。ところが、「この世界」では、悪役令嬢ちゃんの頑張りのおかげか、そういう人がゲーム開始時にはすでにいなくなっていた。


……いいかげん「悪役令嬢ちゃん」って呼ぶの長くて面倒になってきたな。略して「悪令ちゃん」だと「あくりょう」みたいだし。前世でも呼んでた「マルっち」でいいか。


そう、マルっちはゲームの中では大変な働き者であった。

学院に入る前から、義理の弟を虐待してトラウマを植え付け、理不尽な命令で護衛騎士の家族を皆殺しにして天涯孤独にし、吠えられてむかついたからと、弟王子の愛犬を殺処分して心を閉ざさせ、……他にもあったかな?第一王子とその周辺の攻略対象しか知らんからこれで全部じゃないかもしれん。さらに、ゲームが始まれば始まったで、せっせとヒロインの邪魔をして、陰湿な嫌がらせやらイジメやらをくり出して、最後はお約束通りざまあされて没落するという八面六臂の大活躍。制作者もマルっち一人に全部押しつけないでもう少し他の子の活躍の場も作ってやろうよとさすがに当時も思ったね。

しかしここで何が許せないかって、第一王子だ!あの野郎、どのルートでも最後の最後で「君がそんな人だったなんて」とか言って、マルっちのこと切り捨てやんの!あんだけこだわってたくせに!!ここで裏切るくらいならとっととヒロインに落ちとけよ!クズ王子!!あ、思い出したらまたイラついてきた。まったく、もげればいいのに。


まあクズ王子は置いておいてだ、いざ、ヒロインとして覚醒してみると。何の補正か、うるうる涙目標準装備の小動物系に変貌していたマルっちは、その勤勉さを逆方向に遺憾なく発揮したらしく、攻略対象たちの「めっちゃめちゃ愛され逆ハーレム」に君臨していた。

虐待による栄養不足のせいで年より幼い容姿で、義姉の影に怯えてぷるぷるしてた義弟君(ショタ枠)は、すっかり健康優良に育って、つやつやぷるぷるお肌で「お姉様!お姉様!!」ってまとわりついてるし、ぎらぎらと荒んだ目でまわりの全てを威嚇していた護衛騎士(ツンデレわんこ枠)は、きらっきらの瞳で、「ツンどこ行った!?」ってくらいデレわんこの全力でマルっちにしっぽ振ってる。他にも彼女の取り巻きは何人かいるけど、もとのキャラ設定を知らない。

さすがのハイスペックだよマルっち!好意のベクトル真逆にぎゅんぎゅん集めてる!!


ついでに、ヒロインにしか懐かないはずの聖なる稀少生物、精霊竜までも、小学生の男子みたいな懐き方してる。

「爪っ!爪、ささってっるから!!やめっ。いたっ。髪ひっぱんないでっ!ハゲる!!ハゲちゃうから!!!」

国指定の保護生物である精霊竜が楽しげにじゃれかかっていくのを無下にもできずおろおろする取り巻きと、逃げ惑うマルっち。あいつ、ゲームの時は「穢れがうつる」とか言って近寄りもしなかったくせに。


え、よこしまなマルっちを、精霊竜さまが懲らしめているようにみえないかって?大丈夫。こいつちっさいくせに魔物の群れとかブレス一発で全滅させる実力あることで知られてるから。その片鱗も見せずに、ひたすら悪役令嬢ちゃんを小突き回す様子は、どう見たってじゃれている。彼女そろそろ半泣きだけど。


取り巻きズからの「何とかしろ!」との圧力がいい加減鬱陶しいのと、うるうるマルっちの困り顔を十分堪能したのでそろそろ精霊竜を止めることにする。

「リューダ?」外面的には困ったような微笑みながら

『いい加減にしろ羽根トカゲ。尻尾ちぎって、ミケに食わすぞ』

と思念を送ると『ちっ。このくらいで勘弁してやらぁ』と戻ってくる。


ええ、これもヒロインチートですよ。稀なる精霊竜さまとふつーに会話できます。

ちなみに名前は、こいつを初めて見たときについぽろっと口から出てしまった「……竜だ(日本語)」が、そのまま、名前として認証されて、名付けの絆が発動してしまったらしい。改めて名前付け直すのはできないらしいし、できたとしても「ポチ」にしたくなるからそのままにしている。ついでに、ミケはうちにいるこれまた霊獣。精霊竜(の体の一部)を食べると霊位が上がるとかで常に虎視眈々と狙ってます。見た目、ちっさい虎だしね。こいつも羽根生えてるけど。

「虎」なのに、名前が「三毛」なのは、まぁ、あれだ。本格的に覚醒してなかった時点で名づけてるので、「猫の名前といえば『ミケ』か『タマ』だろJK!」という意味不明の魂の叫びに深いこと考えず従ってしまった所為だ。

せめて「タマ」にしておけばよかったよ。「『JK』ってなんだ?」って悩むより大事なことがあった。

『ねっ!痛くしないから!先っぽだけ、先っぽだけでもいいから!!』って、誤解を招きそうなセリフ叫びながら飛びかかるのやめなさい。ホント。

どうせ私以外には聞こえないんだけど。

気分は、おばかな小学男子と中学男子のオカンです。


あ、弟王子?「誰にも心を開かない不憫な子」から「愛犬しか友達がいない寂しい子」になってたね。

あいつもともと立ち位置微妙だったから、マルっちの影響も最小限らしい。

……クズ王子については、聞くな。見たくない。知りたくない。関わり合いたくない。


それなのに、割に遭遇する率が高いのは、マルっちには私の他に女の子の友達があんまりいないため一緒にいることが多いからだ。

そうでなくとも飛び抜けて身分が高く近寄りがたいお嬢様に、鉄壁ガードの取り巻きズ。しかも奴ら自分らにちょっとでも恋慕の情を抱いた女は容赦なく排除するんだぜ!「姫さまに/姉さんに/お嬢に、下心を持って近づくなんて許せない!!」って。それぐらい許してやれよ?!かっこいいお兄ちゃんたちにくらっときて「あわよくば」なんて期待しちゃうのはしょうがないよ。人間だもの!お前らがマルっち孤立させてんだって、自覚しろよ。

だが、マルっちの婚約者という立場でありながら、見境なく女に優しく微笑みかける、あのクズだけは許さん。ヤツが視界に入ってくるのが心底不快でしょうがない。



もちろん愛され癒しキャラのマルっちはお友達の私をいじめたりなんかしない。

代わりに、その辺のモブ令嬢が「成り上がりの平民のくせに!」っとばかりに仕掛けてきたんだけど。

私、国費奨学生なんだよね。特例で学用品やら、制服やら国から貸与されてんのよ。

つまり。嫌がらせとして持ち物を汚したり、制服を破いたりすると「国有財産損壊」って、王宮の建物とか備品とか意図的に破壊したのと同じ罪になるんだって。

最初、そんなこと知らなくて、水没させられた教科書を氷魔法かけてから真空パックして乾かしてたら(そうするとしわにならないって何かで読んだので試してた)担当教官があわくって駆けつけ、犯人捜しに騎士団までやってきて大騒ぎでした。

持ち物に保護魔法がかかってたなんて聞いてないよー。しかも勝手に私の魔力とリンクさせてるとか。やり方教えろ。

指定保護生物のマスターで、尋常じゃない魔力持ちの私に嫌がらせするには、公爵令嬢で、稀代の魔法使いで(私ほどじゃないけど)、おまけに未来の王妃候補のマルっちレベルの実力と権力を持たないと、言い逃れすら難しいようです。

なるほど、道理でゲームではマルっち一人でがんばってたわけだ。


あのモブ令嬢その後見かけないけど、元気にやってるのかなー。自業自得とは言え、あんまり人の恨みは買いたくないんだけどな。


このまま、平穏無事に学院を卒業したいものである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ