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哀をください  作者: your
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前編

とある日の昼頃。 正確には12時17分。

少年は自分の通う学校の教室の中で自分の席のイスに腰を下ろしながら、教科書を読みながらまさに教科書どおりに授業を進めている教師の説明(ざれごと)を聞き流す。

少年の名前は戸塚雪奈(とづかせつな)。 背中辺りまで伸ばした髪の毛の色が雪のような白色であること以外はいたって普通の少年だ。

雪奈はふと、教室の窓から覗かせる景色を見てみた。 そこに映るのはただの何の変哲の無い校庭と、それを挟む様に建てられている新校舎。

毎日のようにずっと見ているこの光景は単に暇つぶしのためであり、面白くはなんとも無い。

(ホントにつまんね………)

自然に出てきた欠伸をかみ殺すと、不意に後ろの席から声がかけられた。

(ゆき)くん、先生の話ちゃんと聞いていなきゃダメだよ?」

声を掛けてきたのは同じクラスであり、小学生のころからの幼馴染である、広野理紗(ひろのりさ)という少女だ。

少しウェーブのかかった亜麻色長い髪の毛と、小動物のような目の癖に猛禽類のような鋭さを感じる栗色の両目。 自分より相手のほうをとにかく優先するお節介さが特徴な奴である。

さらに、雪奈(せつな)のことを(ゆき)君と呼ぶ変わり者だ。 見た目は可愛いのに、いろんな部分で勿体無い女である。

雪奈そいつに顔を向けないで、ノートの一部を引き裂いて、そういえばの感覚で持っていた左手のシャーペンを走らせる。

それを丸めて、捨てる感じに理沙へ投げた。 理沙がそれを広げる音が聞えたが、直後におそらくそいつから放たれたであろうグーが雪奈の背中をどついた。

痛いとしかいえない衝撃を喰らった雪奈はさすがに振り向き、理沙の顔を見据えた。

「なんだよ! いきなり宣戦布告かコノヤロウ!」

「コノヤロウじゃないでしょ! ちゃんと授業を聞きなさい! いくら頭が良いと言っても、いずれはついていけなくなるよ?」

これだ。 こいつのこういうお節介を雪奈は10年間、受けてきた。 実はこれが原因で、女相手に本気の殴りあいになったのはもう思い出したくない。 負けたから。

ちなみに、言い争ってはいるが、小声でやっているので、一応教師には気付かれていないみたいだ。 回りの生徒は注目しているけど。

「ふん。 ついていけなくなったと思ったときに頑張れば良いだろ。 勉強なんて」

「そんな考えはよくないよ! 雪くんはやればなんでも出来る子なんだから今頑張りなさい!」

「はぁ………うざ………」

「何か言った?」

雪奈は最後の言葉だけ無視し、仕方なく諦めて黒板に書いてある文字を書き写すことにした。 これ以上言い争っていたらいずれは大声を出して教師に怒られそうだから。

「あ、そうだ雪くん」

再度声を掛けられて、雪奈はウンザリした気分になったが、一応振り向いた。

「目が怖いから笑いなさい。 ウザイって言葉が顔に出てるよ」

「とりあえず、用件を聞かせろ」

するといきなり理沙が少しだけ頬を赤らめて、若干上目遣いでこっちを見てきた。 こんな表情、今まで見たことが無い。

可愛いとは思えたが、見たことも無いコイツの表情を見て、警戒心がMAXギリギリまで上っている。

「お昼ご飯一緒に食べようね。 いつもの屋上で」

何かと思えば、昼飯の誘い。 いつも一緒に食べているのに何をそんなにあらたまっているのだろうか?

「あぁ、ノート写し終わってからいくから、ちょっと待ってろよ」

「うん」

理沙の言葉を最後にして午前の授業の終わりのチャイムがなった。 日直の号令により全員が教師に礼をして、完全に午前の授業を終了とした。

雪奈が未だにノートを写している中、周りのクラスメイト達が食堂に行くなり、机を集めて昼飯の準備をし始めた。

「じゃあ、雪くん。 私、先屋上行っているから」

「あいよ」

理沙がなんだか嬉しそうに弁当箱を片手に持って走って教室を出て行く。

いったい理沙にとって何がそんなに嬉しいのだか雪奈は少し考えてみる。 

自分の、又は理沙誕生日ではない。 自分の誕生日は2ヶ月後だし、先週あった理沙の誕生日には嘘のプレゼントとしてメリケンサックをプレゼントしたら、即効そいつでぶん殴られたから。 ちなみに、後で本命のペンダントを贈ったからなんとか機嫌は治せたが。

「ま、行ってみりゃ解るか」

そっちのことを優先して雪奈はまだ内容を全然写していないノートを机に放り込み、鞄の中の弁当箱の入った袋を片手に教室を出た。

屋上は歩いて一分もかからないほど近くにある。 まさに一瞬でついた。

ポケットに入っっている屋上用の鍵を差し込んで、屋上の扉を開ける(ちなみに、この屋上の鍵は雪奈が職員室の鍵を写真で撮って複製した物であり、理沙も同じ物を持っている。)。

扉を開けた瞬間、大きいが心地のよい風が雪奈を包み込んできた。 一度だけ、その風を感じるように目を瞑って両手を広げた。 実に気持ちが良い。

「早かったね」 

狭い屋上の奥に自分に向かって手を振っている理沙の姿を見つけた。 弁当箱を空けていないところを見ると、待っていてくれていたらしい。

「サボったからな」

「戻りなさい」

理沙のその命令を無視して、雪奈は彼女の隣に座り込んだ。 一瞬睨まれた気がするが、気にしない気にしない。

「おまえさぁ、何時も勉強勉強って言っているけど、勉強の何が楽しいわけ?」

弁当箱の包みを空けながら言う雪奈のその質問に、理沙は思いっきり深く溜め息をした。

「好きなわけないでしょ、勉強は後に役立つからするものなの。 正直、私も嫌いだってば!」

「だったらやんなくても良いんじゃね? 正直、役に立つってのも微妙だろ。

将来の夢に対してだったら、専門学校でも行けば良いし、やりたくないものがないは一生フリーターやってるくらいだしな」

「……………最近の日本がダメなのは雪くんみたいな人が多いからなのね」

何か本当に嘆いているような表情をしながら頬に手を当てる理沙。

え? それ失礼じゃね? しかも間違っている気がしないのが少し悲しい。 さて、そろそろお腹がすいてきたので包みを開ける。

中身は黒ゴマをまぶしてある白いご飯が50%。 卵焼き、ウインナー、ホウレン草のおひたしなどの一般的なおかずたちが50%で成り立っているありきたりなお弁当だ。

ありきたりで簡単なうえ、手抜きすら感じられるが、これを作ったのは雪奈自身だ。

雪奈はもともと母親と二人暮らしだったうえ、一昨年、入学と同時にその母親を亡くしてしまったのだ。 こんな中身のお弁当なのはそれのせい。

料理が出来ないわけではないが、別に面白いわけじゃないし、朝早くおきて作るのは正直ダルい。

「面白くないお弁当ね」

理沙が雪奈のお弁当を覗き込んで言う。

「そりゃ、お弁当は面白い物じゃないだろ。 美味いかどうかだろ。」

「いや、そういう問題じゃない気もするんだけど……」

「ま、美味くもないから、確かにそれ以前の問題だよな。 俺に比べ、お前の弁当と来たら………」

雪奈は理沙のお弁当の中身を覗いてみる。 なんということでしょう。 雪奈の弁当の中をリフォームしたとしても、このように可愛らしいお弁当に仕立てるのは不可能だろう。

「お前が俺の弁当を毎日作って来てくれたら、すごく助かるんだけどな………」

雪奈は理沙の弁当の中を見て思わず本音をこぼす。 すると、理沙の顔が見る見る赤くなっていった。 雪奈はしまったと思って、口を手で押さえた。

おそらく理沙は怒ったのだろう。 自分でどうにかするべき部分を頼ったから。

すると理沙は勢いよく顔を上げて、雪奈にその愛らしい顔をグイッと近づけ、

「作ってあげようか?」

と、イタズラっぽくニッと笑いながら言った。 一瞬幻聴かと思った雪奈だが、すぐに現実の言葉だと確信した。

「マジで?」

「マジだよ?」

「その代わり!」と付け加えて理沙は続ける。 条件付か? まぁ、いい。 多少のことくらいは勘弁してやる。 何でも来い!

そう思った瞬間。 雪奈の唇に理沙の唇が重ねられた。 柔らかい感触と同時に、理沙の小さな舌が自分の舌に一瞬だけ触れる。

しばらくその時間が続いたあと、理沙は唇を離した。 お互いの唇が離れた時、銀色の糸が結ばれていたがそれはすぐに切れてしまった。

それが終わった後も、雪奈は信じられないような顔をしている。 それを見て理沙はクスクスと笑った。

「これが代わり。 お弁当作ってきてあげるから。 私と付き合いなさい」

そう言うと。 理沙は弁当を再び食べ始める。 雪奈はただ呆然とするしかなかった。




放課後、色々聞きたかったこともあって、理沙と一緒に帰ることにした。 まぁ、もともと自分の家と隣同士なので帰りは殆ど理沙と一緒なのだが。

理沙はすごくルンルン気分で雪奈の隣をややスキップ気味に歩いている。 校門を出て、一番最初に行き当たる信号が赤だったので、止まると同時に雪奈は一直線に聞いてみることにした。

「お前、何で俺なんかと付き合いたいなんて思ったんだ?」

「え? 好きだからに決まってるじゃない」

当たり前のように返してきやがった。 雪奈は呆れて溜め息を吐いてしまった。

信号が青に変わると、理沙と同時に歩き出し、もう一度理沙に問う。

「だとしても、俺のどこが好きになったんだよ」

「え? えっとね……それは―!」

雪奈は理沙の返答を聞くことが出来なかった。 理沙に突き飛ばされたのだ。 否、信号を無視して走ってきた自動車に体を突き飛ばされた理沙の体が自分に衝突したのだ。

自分の背中が硬いアスファルトに衝突し、激痛を感じたが、雪奈はそれを無視し、自分を優しく包み込むような形でもたれかかっている理沙に衝撃を感じた。

どうやらブレーキ中だったらしく、そのおかげで雪奈ごと轢かれる事はなかったが、そんなの問題ではない。

今の理沙の体は真赤な粘液に覆われていると感じるほど(それ)に塗れ、白と青で配色されたセーラー服はそれのせいで異様な色に変色している。

右足はおかしな方向へ曲がり、左足にいたっては膝から下が無く、それは右およそ4メートルのところに転がっている。

「理紗…………」

雪奈は驚きのあまり、かれた声を出すので精一杯だった。 目の前の深淵よりも深い絶望的な光景に何も言葉を出すことが出来ない。

「理紗!!」

自分にもたれかかる少女の名を必死に雪奈は叫んだ。 周囲に人が集まり、自分達に色々な種類の視線を向ける。

それには哀れみ、驚き、その二つしかなかったが、そのどちらも、雪奈のとっては集るハエよりも鬱陶しかった。

「見るな!」

思わず叫ぶ。 見るな観るな視るな。 そんな目で俺達を見るな。 これは違う! 違うんだ! これは夢だ! 嘘だ! 幻想だ!!! 

「雪くん………」

鈴の音のような涼しさを感じる声を聞いて雪奈はハッとして、今まで自分の胸元に顔を伏せていた少女の顔を見る。 その少女の目は虚ろで、もはや生気すらうかがえない。

少女は雪奈に向けて口を動かした。

「私はね……くんの……ね………」

微笑んで自分に何かを言おうとしている少女を目にして、

「うわああああああアアアアアアあああああああアアあああぁぁぁァァぁぁぁああアアアあああ!!!!!!」

雪奈は絶叫した。 心からではなく、心と一緒に。 悲しみではなく、驚きによる。

しばらくそうしていると、雪奈の意識は断ち切られるように途絶えてしまった。


スイマセン。 すぐ出すとか言っておきながら編集とかにてこずってて遅れてしまいました。

後編もおそらく同じことになるでしょう。 でも一週間以内には出すつもりです。

前回も言いましたが、これはオリジナルとしても、僕のかいているもう一つの作品の番外編としても読める物語です。 これを呼んで、え?どこが?と思った方はちょっと待ってください。いずれそこら辺のお話を投稿します。

さて今回はこの辺で。 今度はもう一つの作品の後編の方、またはもう一つの作品のほうでお会いしましょう!感想や評価、アドバイスなどをお待ちしております!

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