プロローグ
2063年3月26日。とある人物の葬儀が行われていた。 坊主が死者を送るための念仏を唱え、静かな空気を漂わせている。
その死者の遺族の中では、静かに泣いたり、ただ歯を食いしばりながら涙を流すのを耐えている者たちがいた。
そのなかで、ただ一人、静かに泣くことも、涙を耐えることもせず、まるで捨て犬でも見るような目で、その死者の遺影を眺めている者がいた。
それは着ている黒い喪服とは反対に、白い髪をした、12,3歳ほどの、まだ幼さ残る少年だった。 少年はただ、
(案外もろいんだな、人間って…………)
それしか考えていなかった。 悲しいよりも、可哀相よりも、まず一番にそういう考えが浮かんでいた。
例えその死んだ人物が自分の母親であっても。
(これからのご飯、自分で作るのか……面倒だな……。 あ、ほかのもか……)
こんなことしか考えていないと知られたら、葬儀中に発言されたら遺族全員から反感をくらうだろう。
でも、本当にそれくらいしか思えないのだ。 悲しいとかの感情を、彼はとうに忘れている。
いや、忘れているのではなく、その感情を持ったこと自体。 今までないのかもしれない。
少年は幼い頃からそうだった。 いろんな物を壊したとき、怒られてもなんとも感じず、誰かから殴られたり蹴られたりしても、泣く事はなかった。
少年は思った。 否、悟った。 悲しいことなんてこの世には一つもないのだと。
ども、新作です(あ、名前じゃないですよ?)!新作といってももう原稿は既に出来上がっている前後編の短いお話です。このお話はこの作品のみでも見れますが、僕がもう一つ書いている小説の番外編としても見れる作品です。 では今はこの辺で。とりあえずこれはプロローグです。すぐに前編を投稿するので少々お待ちください。