ゲンザイ
ツミビトーーそれはこの世界での異能者を指す言葉。
この世界では他人から罪を故意に背負う、または不本意に背負わされることがある。その時に神は原罪を果たしてないものと認め、ツミビトの烙印を押す。
決してツミビトは死ぬことを許されない。ただ、ツミビトがツミビトを殺すことによって永久の死を与えられる。それはまるで地獄の沼での小競り合いの様に思えた。
「ん…。朝か」
カーテンから差し込む木漏れ日が、徹に日の位置を教える。昨日までしっかり整っていた髪型は、寝癖で崩れており、起きて早々に洗面台へと向かう。
「とりあえず・・今日はあいつのところに行ってみるか。何か知ってそうだし」
四方に散った髪を整えながら、徹は出掛ける支度をし外へと出た。
ーー暫くして到着したのはとあるマンションであった。209号室・・・角部屋であるその部屋に徹はインターフォンも鳴らさずにズカズカと入っていく。
「あー、惜しい・・・。今のは惜しいぞぉ!」
部屋の一番奥には息を荒げ、髪を悔しそうにぐしゃぐしゃする男がいた。徹はペットボトルや衣類、その他諸々のゴミが落ちてる部屋を見て、大きくため息をついた。
「ちゃんと掃除しなよ。せめて歩くスペースは確保しといてくれ」
「んんん??その声は?」と言い、眼鏡をかけた男は後ろを振り返った
「てっちゃん!?いつの間に来てたの!?」
いわゆる「オタク」と言う呼称がよく似合う男性は驚愕の表情を見せる。その反応に徹は再び呆れたように
ため息をつく。
「さっきからだよ。ちょっと頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと」と言われ、オタク風の男は身を乗り出し興味を示す
「ほほ〜う!何か重要な案件のように感じますぞ!ぜひお聞きいたそう」
「さすが情報屋だ。関心の持ち方は人一倍だな」
徹は口角を上げ、おだてるように言葉を投げる。満更でもない顔をした男は、徹が語る一言一言に相槌をうち、聞き終えた頃に頭を抱えて唸る
「ほぅ・・・。大陸マフィアねぇ・・・。まぁ異能者組織なのは間違い無いけど、なんで日本にいるのかね」
徹は頷き言葉を続ける
「わざわざ日本に来てすることと言えば武器の密輸、薬の密輸関係だとは考えている。ただ、AAA組織としてうごいてるってことは・・・」
男はパソコンの方に向き直り答えた
「神界との繋がりが関係している・・・。それもあるかもね。僕も調べてみるよ。てっちゃんの過去にも繋がりそうだしね」
淡々とキーボードを打ち続ける男が何気なく呟いた「神界」という言葉に、徹は強く反応する。
「人間の楽園って言われるあの空間が、今俺らの現実に迫ってるわけだ。おとなしくしてくれって言いたいね」
皮肉めいた口調には小さな憎しみが込められてるように感じた。その間にもオタク風の男はキーボードを打ち続ける。
しばしの沈黙。オタク風の男が集中しており何に対しても反応しない状態となってしまった。徹自身もすることがなく虚空を見つめ暫くの間様々な思惑を巡らせるが、少しの間しかもたないものだ。徹はあたりをチラチラし、あるものが落ちていることに気づく
「ポテトチップス・・おぉすげ!期間限定の明太子味だ!」
大きい声が出そうになったが、オタク風の男は全く気づいてる様子はない。徹は朝から何もお腹に入れてないことを思い出し、空腹の合図が小さく鳴る。
しかしそのポテトチップスは期間限定・・・。おそらくこの見知らぬ男が大事に大事にとっておいたものだろう。だがしかし、徹に容赦はなかった。持っている袋を静かに開け、中身を口に運ぶ。その瞬間徹に衝撃が走った。明太子の塩っ気がポテトチップの風味を際立たせ、絶妙な味バランスを味覚に届けてくれる。
徹はあまりの美味しさに、一口、二口・・・と時を忘れたかのように食べ進めた。
気付いた時にはもう空の袋となっていた。男はまだパソコンを弄りながら頭を抱えている。
しかし、まずい状況である。この空になった袋の在り処をどう説明するべきか・・・。それ以前に自分が罪を被らないためにどのような嘘をつくべきか必死に考えた。すると、男は虫の知らせでも聞いたかのようにこっちに振り返る
「さっきからてっちゃん静かだけどなんかあっ・・・って!!!あぁぁぁぁ!!!!」
驚愕の声とともに指した先にあるものはポテチの袋。これにはおたく風の男も開いた口が塞がらないと言わんばかりに落ち込む。そして、両肩が小さく小刻みに震えていた。
「てっちゃんさぁ・・・それ、期間限定なんだけど」
憤怒の感情が練りこまれたようなドスの効いた声が、狭いアパートの一室に響く。さすがの徹もこれはヤバイと悟ったのか、正座をしながら愛想笑いを作っている
「ま、まぁ。また買えばいいんだし・・・」