周章狼狽
「アレは銀河鉄道なんだよ。」
少年は呟くようにそう言った。
「銀河鉄道?」
私がクエスチョンマークを浮かべると、少年はハァっと溜息をついた。
「お姉さん、本とかもっと読んだ方がいいよ。」
少年に言われて、私は少しションボリとしてしまう。何を隠そう私は活字というものが苦手だ。挿絵があるものはまだマシだ。私が最も苦手としているのは挿絵のない文字だけが羅列された本。読んでいると頭がグルグルとし、目に神経が集中しているのかとても疲れてしまう。それに加え、私には想像力というものがあまり備えられていないのか、文字を文章を読み取り、そこから想像する事が全く出来ないという程ではないが、得意という訳でもない。
「とにかく、先に進むよ。お姉さんは勝手にどこかへ行ってしまうから僕の手の手を握ってくれる?」
私が「え?」と少し戸惑っていると、少年は私の手をバッと取り、そのまま歩き始めた。後ろから眺める少年の顔はよく見えなかったが、白い首元や耳は赤くなっているようにも思えた。
少年に引っ張られてそこそこ歩いた時だった。いつの間に現れたのか、大きくて黒いというイメージを感じさせるお屋敷がソコにある。
「着いた。ここが僕とお姉さんの目的地だよ。」
今までグイグイと私を引っ張っていた少年が急に止まるものだから、私は少し体制を崩して、転びそうになってしまう。そんな私の姿を見て少年が「どんくさ。」と言うものだから、ついつい眉がヒクヒクとなってしまった。
「ってあれ?君もここが目的地なの?てっきり私は、君はただのお迎え役だと思ってたよ。」
「僕は先に着いてたんだ。でもお姉さんが中々来ないから、迎えに行って来いって言われて、それで僕はお姉さんのことを迎えに行っていたんだよ。」
そう言いながら、少年が少しの躊躇いもなく立派な門を開けて中へ入ろうとするのを見て、私は「怖いもの無しだなあ・・・。」とある意味尊敬したのは、また別のお話。
お屋敷の中は、薄暗かった。月夜に照らされたといった表現がしっくりくるような感じで、そこかしこにランタンが置いてある。それが幻想的な風景に思えた私は、少しだけ見惚れてしまうと同時に、少し怖い気もした。
「ほら、こっちだよ。」
未だに手を繋いだままの少年に連れられて屋敷の奥へと進んでいくと、メイド服を着た女の人がスッと私達の前に立ちはだかる。綺麗な顔をしているけれど、綺麗過ぎてどこか作り物のようにも感じる。何かこう、無機質な感じがするのだ。
「少年、そちらの女性は?よくわからない人をご主人様の元へ通す分けにはいきません。」
メイドさんがキッと私を睨み付ける。その目つきが怖くて私はとっさに少年の後ろへと隠れた。
「お姉さんは、そのご主人様のお客様だよ。だから早く通してくれないかな。」
少年も負けじとメイドさんを睨み付ける。私はその攻防を眺める事しか出来なかった。
「お客様と言うのならば、事前に、または屋敷に到着してから1度私の元へ来ていただなければ困ります。直接ご主人様にお目通りを願うなど、この私が許しはしません。」
「アンタのご主人様とやらに直接頼まれたんだよ。面倒だなあ。本人に確認してきたら?」
「ご主人様に直接・・・?ふむ、嘘はついていないようですね。いいでしょう。ご主人様に確認を取ってきます。」
決着がようやくついたかと思われた時だった。どこからか「ハッハッハッ!プーペ、その2人は私のお客さんだよ。安心しな。」という声が聞こえてきて、次の瞬間にはメイドさんの隣に、ロングヘアにいかにも魔女といった感じの帽子を被り、下着が見えてしまいそうなショートパンツに胸元を強調した服の上から前開きのローブを羽織った美しい女性が立っていた。
その女性はこちらへ近づいてくると、私のことを足の先から頭のてっぺんまでマジマジと見てくる。そんなに見つめられてしまっては恥ずかしい。思わず私が顔を背けると、女性は私のことを逃がすまいと、私の顎をクイと掴み無理やり視線を合わさせた後に、口付けをしてきたのだった。