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危急存亡

少年に連れられて仄暗い街の中を歩いていると、道の所々に出店が出ていることに気がつく。私は祭りや出店といったものが大好きで、何か近所でお祭りがあれば毎回その祭りの気分に酔いしれ、破産をしていた。母からはお金の使い方に気をつけなさいと言われていたけれど、それが私のお金の使い方なのであった。

ポツポツとある出店に顔を覗かせると、私ははて?出店というのはこういうものであったかな?と首を傾げる事となる。一軒目は、野菜しかない食べ放題の店。二件目は、金魚ではなく尾ヒレの綺麗なベタすくいの店。三軒目は、何の肉を使っているかも分からない串焼きの店。四軒目は・・・。という所で、少年が近くにいない事に気がつく。きっと今頃少年は、ちゃんとついて来ていない私のことをプリプリと怒りながら探している事だろう。早く再会しなくては、あの不快で深い溜息を聞くはめになってしまう。とはいえ、私は迷子になったことが物心ついてからの記憶にないものだから、こういう時にどうしたら良いのかがわからない。そうだ、お店の人に訊いてみよう。と、声をかけようとした私だったが、商人のどこを見ているかも分からない、まるで生気のないような瞳に恐れをなし、ザザッと一歩後ずさる。そして、誰か他に人はいないかと辺りを見回してみると、他のお店の人達も同じような瞳をしているではないか。

怖い。ただその感情だけが心の中にむくむくと膨れ上がってきて、私は一目散にその場から逃げ出した。途中、もしかして追ってきていないかなと、後ろをチラチラと振り返ってみるも、あるのは暗闇だけで、そこには出店もお店の人達も誰もいはしなかった。


しばらく走り回って疲れた私は、等間隔に並んでいる灯台に沿って、道を歩き進んでいた。所々、電気が切れそうなのかしきりに点いたり消えたりする物もあって、それが私の恐怖心を煽り、歩きから次第に早足へとスピードを変えていた。早く、早く少年に会いたい。それか明るい場所へ行きたい。

そして到着した場所は駅のホームのような所であった。明かりも程々に点いていて、私はようやくホッと一息つく。

駅の中へ入ってみると、そこには今までドコにいたんだと思うぐらいに人がいて、電車がもうすぐ来るのか、皆大きな荷物を抱えて急いでいた。ここから出発する電車は一体ドコへ向かって走るのだろう。そんなことを考えながらボーっと突っ立っていると、いつの間にやら隣に帽子を深々と被り、トレンチコートを着た大きな男性が立っていた。口にはコーンパイプを咥えている。

「おや、お嬢さんは電車に乗らないのですか?」

話しかけてきた男性の姿を良く見てみると、トレンチコートの下から何やら尻尾のような物が見え隠れしていて、私がこの世界で最初に出会ったハムスターの事を思い出した。この世界では動物も人間のように服を着て、人間のように話すのが当たり前なのだろうか。

「早く行かないと、電車に乗り遅れてしまいますよ。」

尻尾男性にそう言われるも、私は電車に乗る為の切符も持っていない。

「私、切符を持っていません。だから乗れないんです。」

この世界では、自分の持っているお金も使えるのか分からない。私は俯いてしまった。

「切符なら、その素敵なお洋服のポッケの中に入ってるじゃないか。」

尻尾男性に言われて、私は制服の、ブレザーのポケットの中に手を入れてみる。そうすると、何かに手の当たる感触がして、恐る恐るそれを出してみると、そこには確かに切符があった。買った覚えも、貰った覚えもない。でも確かに切符はそこにあった。私の手のひらの上には、切符があった。

「さあ、これで電車に乗れるね。私もこの電車に乗るところだったんだよ。一緒に行こう。」

私はまだ答えを出していないのに、尻尾男性は私の背中をグイグイと押すものだから、一歩また一歩と私は進んでしまう。そしてとうとう電車の目の前に。

「あの、この電車はどこへ行くんですか?」

「んん?ああ、本当の幸せな場所へ行くのさ。」

「本当の幸せな場所?」

「ああ、とても幸せな場所さ。お嬢さんも絶対に満足すると思うよ。」

尻尾男性と他の乗客達に押されて、私が電車に乗り込んでしまいそうになった時だった。遠くの方から「お姉さん!」という声が聞こえて、声の方を振り向いて見ると、そこには少年の姿があった。少年の姿を見てハッとなった私は、なんだかこの電車も、乗客も、尻尾男性も、途端になんだか怖いモノ見えてきて、自分の並んでいた列を引き返そうと何とかもがく。

「さあ、早く一緒に乗ろう。」

尻尾男性がそう言いながら、私の身体を押してくるものだから、中々前に進めず、むしろ後ろへ後ろへと私は押し流されていた。それでもなんとか少年の所へ行こうとしていると、私は足を滑らせてしまい、電車へ乗り込もうとしている人達の波の中へと潜り込んでしまう。

もうダメだ。私はあの電車に乗り込んでしまうんだ。と絶望に浸されていると、「お姉さん!」と少年の声が聞こえてきて、声がした方を見ると、そこには少年の手が伸ばされていた。その手に必死に手を伸ばすと、少年は波の中から私を引きずり出して、その勢いのまま駅のホームから大急ぎで出て行った。

「あ、ありがとう。」

息も切れ切れに私が少年にお礼を言うと、少年はキッと此方を睨んで「今まで、どこをほっつき歩いてたわけ?ちゃんとさあ、僕の後ろについて来てくれないと困るんだけど!」と、大声で私を叱った。叱られて当然である。私が出店なんかに引き寄せられたから迷子になり、黙ってその場に居れば良かったものの、恐れをなしてその場から走り出し、しまいには不思議な駅に着いて少年の手を煩わせた。少年の方がよっぽど大人だ。

「ほんっとうにゴメンなさい。」

私が何度も何度も頭を下げると、「ちゃんと反省してるなら、別にもう良いよ。」と不甲斐ない私を許してくれた。

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