吃驚仰天
紳士なハムスター(ジャンガリアンぽかった)から貰った小さな小さなハンカチがランタンへと姿を変えて驚いている私は、足音が此方に近づいてきているのに気付く。次こそ化物かもしれない。そう思ってしまうと途端に嫌な汗が吹き出てきてしまう。足が腰が身体全体が震えてきてしまって、恐怖にボコボコにされている間にも、足音は近づいてくる。
足音はドンドン私の方へ来ているのに、その姿は見えることはなく、それがまた私の恐怖心を煽ってきていて、「お母さん。」だなんて情けない言葉を漏らしてダンゴ虫のように丸くなっていると、ピタリと止む足音。不思議に思って顔を上げると、私の目の前には1人の少年が立っていた。
少年は黒い髪が綺麗なショートカットで、瞳は少しだけ青みがかっている。顔も整っていて、とても綺麗だ。しかし、そんな知り合いは私の脳の中のどこを探したって記録されていない。そもそも、こんなお人形みたいな子が知り合いだったら、一生忘れないだろう。
「いつまでそうしてるつもり?情けないとは思わないの?」
腕を組みながら、少年はそう言った。綺麗なお顔からそんな言葉が出てくるとは思わず、私は目をパチクリとさせる。
「さっさとしてくれないかな。僕はお姉さんのことを迎えにきたんだけど。」
少年に言われて、私はハムスターの言葉を思い出す。確かに迎えが来るって言ってたなあ。
少年にこれ以上イライラされては困るので、私はすぐ立ち上がり、無言で歩き始めた少年の後ろをついて行った。
「ねえ、君は此処がどこか分かる?」
私の質問に少年は「はぁ?」といった顔をしたあとに、ヤレヤレという感じでフゥーっと深い溜息をした。
「そんなことも知らないで此処にきたの?お姉さん馬鹿でしょ。」
その言葉に、思わずムッとしてしまう。私は如来ではないのだ。そんな広い心は持ち合わせてはいない。何故初対面の相手に馬鹿にされなくてはいけないのか。いくら顔が良いからといって、やっていいことと悪いことがある。
「じゃあ、君は此処がどういう場所で、何故自分は来たのか知っているの?」
「当たり前でしょ。知らないのなんてお姉さんくらいだよ。」
相手は子供だ。怒らない怒らない。そう思っていても、少年の言葉遣いと態度には思わせるものがあり過ぎる。友達はいなさそうなタイプだ。口を開くと周りにビックリされるタイプともよめる。
「ほら。到着したよ。」
少年はそう言うも、辺りは暗いままだ。
「本当に着いたの?私には暗闇が続いているように見えるんだけど。」
私の言葉に、少年はまた1つ深い溜息をつく。ああ、また幸せが逃げた。
「お姉さん。ここは僕の世界で、お姉さんの世界でもある。お姉さんが望まなかったら道は、世界は開かれないよ。」
少年の言う通りに、私は道を思い浮かべてみた。すると、目の前の暗闇にはいつの間にやら果てしなく続く道が出来ていて、学校のことを思えば、ホンモノそっくりの学校ができた。
思い浮かべれば何でも出てくるのが面白くて、何度も何度も色々なモノを考えては消し、考えては消しを繰り返していると、「いつまで遊ぶつもり?僕は暇じゃないんだけど。」と少年がご立腹。どうやら遊び過ぎたみたいだ。
「でも、何を望めばいいの?道を望んだら道ができたよ?」
「道そのものじゃなくて、自分の進むべき道、方針を望むのさ。分かったら早くしてくれるかい?」
少年のイライラが最高潮にきているようなので、私は急いで自分の進むべき道を望んだ。すると、そこには街が出来ていた。私が望んで作りだしたのにも関わらず、人が歩いている姿も見える。
「あれ?どうして私が望んで作った街なのに、人がいるの?」
「ここはお姉さんの世界でも、僕の世界でも、見知らぬ誰かの世界でもあるからさ。ほら、行くよ。」
少年に連れられて、私はほの暗い街の中へと足を踏み入れた。