いくつものプロローグシリーズ「世界の終わりと魔法使い 」
機械の動力源が失われて今年で丁度150年。今は古代の書物の発見により、忘れ去られた古代魔法が今は動力源になっている。
180年前、資源の終わりを知った各国は生き残りをかけ、世界大戦までに発展した。
ある国は敗戦し、領土となり、そしてまた別の国へ攻め込む。
そうして次第に大きくなり、世界は一つの国になった。言葉を統一し、字を教えた。
祖国を捨てきれない人々は、残り少ない武器を取り、反乱を起こして処刑された。世界の人口は、当時の3分の1にまで減ったのだ。
「ホントですかぁ?なんだか胡散臭い話ですね」
不満そうに店主に疑問を投げかけた青年は、その分厚い本を棚に戻す。
「別に信じろとは言ってないさ。でもそれは本当らしいがね」
当時の資料などは殆ど焼けてしまったので、この国の歴史は古代の書物発見から始まる。それ以前のことは記録穂ほとんど無くイマイチ信用できない。
「ルター!」
そう呼ばれた青年は、んじゃまた来んねーとか店主に言い店を飛び出した。買わねぇもうくんなーとか言ってる気がしたが気にしない。
「なんだビマーキフ・ジスアンか」
「やっぱり本屋か、お前も物好きだよな。ってなんだとはなん・・・」
「そかな、だって面白いじゃん。昔の出来事とかいろんな話あってさ」
ビマーキフは話してる途中だろとか密かに思う。
「昔っつってもあれだろ?あの世界戦争の話だろ?誰が信じるんだよ」
「オレだって信じてるわけじゃないさ」
そう言って一緒に歩き出す。少し風が吹いていて涼しい。入り組んだ道の奥にあるこの本屋は、客はあまり入らないが、本が好きな人間にとっては有名な店だ。
「んでさ、なんでオレ探してたの?」
「あぁ、そうそう忘れるとこだった、あのさ、ちょっと家来てくれないかな。またネズミが出てさ。あれだけはだめだ」
「またー?どっか穴空いてんじゃないの?」
「それも一緒に頼む」
今日は雲が少ない。太陽は今日も暖かくて、のんびり昼寝もわるくない日だ。
しょーがないなーなんて小さく言ってビマーキフの手を取る。
「んじゃ契約」
ルターは肩掛けカバンから綺麗な文様のナイフと、小さなビンを取り出した。
ナイフでビマーキフの指を少し刺して、その血を小さなビンに垂らした。
するとすぐにビンの中の血は蒸発し、消えた。ビマーキフは気になって聞くと、魔力が高まるのだそうだ。そしてナイフをカバンにしまうと、今度は爪楊枝のような物を取り出す。おーきくなーれと呪文?を唱えた。
ぼんっと小さな煙が立ち、すぐに風に流れる。
「んじゃ行こうか」
大きくなった爪楊枝のようなものはルターの身長と同じくらいの長さになる。杖だ。
杖は魔法の制御に必要でルターも例外ではない。魔法の暴走は自我の破滅。決してそうならないために、魔法使いは杖を持つ。
「俺も使えたらな」
「なにが」
「杖持ってぼうんってさ」
「だから魔法使いの血を飲めば使えるようになるって」
「いやだからルターの飲ませてって言ってるじゃないか」
「やだよ魔力落ちるもん、それにその言い方なんかヤダ」
魔力は血に左右される。魔法を使える者の血は大地に流れる魔力を感じることができ、そしてその者の発する言葉によって流れるの魔力の出口となる。誰にでもできるわけではないのだ。
路地を曲がると少し年期の入った2階建ての家々。それらは周囲と同じ造りで、坂になった少し広い道に沿って建てられている、白い壁の坂道。
その内の一軒の前で立ち止まるとビマーキフは言った。
「それじゃあ、あと任せる」
「んやいいけどさ、お前ん家どっち?」
「2階だよ」
この地域の家は1階と2階で別の人が暮らす。入り口は一緒だが中は仕切られていて、一緒に住む人には玄関で会う程度だ。
ルターは中に入ると狭い階段を上がる。階段外付けにすればいいのに。なんて思ったり、引っ越せばいいのにネズミでたの4回目じゃん。なんて思ったりしながら2階のビマーキフの部屋のドアを開けた。
「あぁ、こりゃ厄介だな」
そこには魔力を感じ取れる者にかわからない感覚。魔族の匂い。
「やっぱやめときゃよかったな」
後悔して杖を構える。そして手で宙に円を描く、さほど大きくない魔方陣。ネズミなど、もう生気を吸われてなにも残ってないだろう。
「今出て行けば見逃してやる!」
魔族は元は人間で、魔法使いだったり、そうでない人だったり。魔法の暴走で自我は崩壊し、体は大地の魔力に飲まれる。そして魂は人間の住む次元とは少しずれた次元に漂い続けることになる。自分の魔力では制御出来ない強大な魔術によって自我崩壊した魔法使いが殆どで、それに巻き込まれた人、魔法により殺された人。そうして魂だけになった者を人々は魔族という。
その、ネズミの生気を吸ってわずかながらの力をつけた魔族は、自分の形を作る。
「さぁ来るのか、それともオレとやるかい」
その魔族は自分の形を作るのがやっとの魔力だが、魔力のない人間は容易に殺せる程度の魔力はある。そうやって魔族は増えていくのだ。
だから魔力の無い者はお守りを持ち、魔族に対抗できる魔法使いを雇う。
杖を持ち、宙に円を描いて構えているルターに、その魔族は襲い掛かってきた。
「はぁ、やっぱやるのか。・・・発動!」
その言葉と同時に魔方陣は青白く光り、魔族を包む。動きを封じられて、ぎゃーぎゃーもがいている様子が影になって部屋と照らす。いつ見てもいやな光景だとルターは思う。
「・・・あんたに恨みは無いが、コレも仕事なんでね」
そう言うと、短く息を吸う。
「爆ぜよ!」
ぼうん、と鼓膜を揺らす爆発音がして、大変なことを思い出す。
そいやあここ室内じゃん。しかもここ狭いしぃ。
後悔するより早く衝撃波がやってきて、ルターは壁に叩きつけられた。外でネズミうざいネズミキモイ言ってたビマーキフは割れたガラスがすっ飛んできて、危うく死にかけた。
「お、おい!契約はネズミ駆除だろ!?なんだこの爆発は!」
慌てて階段を上がり、変な形に歪んだドアを蹴っ飛ばして叫びながら入って来た。
「あぁ、魔族いた。いてて。あービックリした」
煙が晴れて、うずくまっているルターを見つける。
「魔族にしたってここまですることはないだろう。修理費どうすんだよ」
爆発に驚いた他の住人が、どうしたどうしたなんて言いながら、ガラスの窓のぶっ飛んだビマーキフの部屋の近くが野次馬で埋まる。
「あーすいません。魔族いたんであはは。・・・迷惑かけました」
そのあとルターは報酬は無しだ!と言われた後、部屋を片付けながらもグチグチ言われた。