第8話 手分け
「おえぇっ!!」
山口さんが息を吹き返したのと同時に、みんなの顔がほぐれた。
山口さんは状況の把握ができず、おどおどしている。
数秒後、自分が国東さんを助けようとしていた事を思い出した山口さんは、
急に体を起こし、不安そうに辺りを見渡す。
「国東さんは!?!?」
「生きているよ。ってか、その前に自分を助けてくれた命の恩人にお礼に言えよ。」
山口さんは口をぽか〜ん、と開けている。
「おい!お前が溺れているところを助けたのは俺だぞ!」
「そ、そうなんですか?じゃあ一応、ありがとうございます。」
松尾はため息をつき肩をおろした。
そして拓也と滝ノ下が見守る中、国東さんもようやく目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
拓也が声をかける。
「うん、大丈夫・・・。」
冷たい北風が容赦なく皆を襲う中、国東さんはガクガク震えていた。
それを見た滝ノ下は、自分の着ていた、びしょ濡れの紺色のコートを国東さんにそっとかけた。
「濡れていますけど・・・、ちょっとは寒さをしのげるかと・・・。」
一行が着いた岸からは学校のような建物が見えた。そして周りを囲むように巨大な煙突が橋に四本立っていた。距離的には1キロぐらいだろうか。
「よし、休憩もしたことだ、そろそろ行くか。」
多田さんが体を起こし、言った。
「でもこれからどこに行くんですか?」
拓也が聞くと多田さんは、学校らしき建物を指差し言った。
「あそこだ。俺の記憶が正しければ・・・」
「若山県警察学校・・・。」
滝ノ下さんが呟いた。
「そうだ。もしかしたら生き残りがいるかもしれん。行くぞ。」
海沿いに沿ってある、車の轍の部分だけが砂利として露出している道をひたすら歩いた。
しばらくするとその道は舗装された道へと変貌し、巨大な建物の小さな門へと辿り着いた。
近くから見ると本当に大きかった。校舎と思われるものが三棟。体育館のような建物が二棟。他にも建物が、ぱっと見て十はあった。
門には『若山県警察学校 東門』と書かれている。
そしてそのそばにある詰所は血に染まっていた。窓からは人の手が片方だけがのりだしている。
全員に緊張が走る。
多田さんと山口さんが銃を構え、恐る恐る近づいた。
中には警察官一人の死体があった。胸には『中田』と書かれたワッペンを付けている。
おそらく初任科生であろう。二人は目を瞑り、手を合わせた。
改めて目を開けてみると、ひどかった。白いシャツは血で赤く染まり、体は着用している制服と一緒に引き裂かれていた。
二人は目線を逸らし戻ってきた。
「中はちょっとやばいかもしれん。」
多田さんは深刻な顔をし、皆に言った。
「これから二手に分かれる。」
咄嗟に松尾が口を出した。
「おいおい正気か?子供二人に女一人だぜ?」
他の人はコクリと頷いている。
「大丈夫だ。というか全員でいた方がやられやすい。」
「それじゃあ、国東さん一家と滝ノ下は俺と、松尾と拓也は山口とだ。」
「連絡は俺と山口の無線で取り合う。いいな。じゃあ、また後出会おう。」
多田さん一行は北側、山口さん一行は南側を捜索しに出発した。
12月31日 12時00分
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