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第7話 出口

「・・・っは!!!」


「目・・・覚めたか?」


多田さんが、目を覚ました山口さんの顔を覗き込むようにして言った。

多田さんだけではない、みんなが心配そうに見つめていた。松尾のおっさんをのけて・・


みんなに見つめられて、ようやく事態が把握できたようだった。

それと同時にすばやく立ち上がる。


「すみません。それより多田さん、早く逃げないと・・・やつらが!」


多田さんは頷くと手を挙げ、ついてくるように指示した。


「おい!待てよ・・・。」


みんなが松尾の方へ振り返った。


「俺に何も言わねぇのかよ・・・あんな状態にさせたのは俺なんだぜ・・・」


強く山口さんに向かって言い放った。


「殴れよ!・・・殴らないと俺の気が」


「誰がお前を殴るんだよ。」


絶対に殴ると思っていた拓也は驚いて口が開いた。


「俺はあくまでも国民を助ける自衛官だぞ。そんな奴が国民を殴っていいわけねぇだろ。」


「それに・・・。お前が悪いんじゃなくて、俺の精神がだめだったんだ。お前が言ったことは正しいよ。」


山口さんは俯いたまま言った。


「俺が多村を見殺しにしたんだよ。」


松尾は納得がいかなかった。自分が悪かったということを認識していたからだ。

しかし、自分から誤ることができなかった。自分のおかしなプライドに腹を立てる。


「お前は悪くな・・・」


「うるせぇな!!俺悪かったって言ってんだろ!?!?」


優しそうな山口さんの顔が豹変した。まさかそんな鬼のように怖いとは、同じ自衛隊員の多田さんでさえ驚いていた。たぶん知らなかったのだろう。松尾もビックリしていた。


しばらく沈黙が続くと、うつむいたまま口を開けた。


「・・・もし、申し訳なく思うんだったら・・・」


山口さんは一瞬言葉がつまった。

そして顔を上げ微笑みながら言った。


「・・・絶対に生き残れよ。」


拓也は感動した。自分の悪い思い出を穿り返され、体が拒絶反応を起こしたのにもかかわらず、そんな言葉が出るとは・・・。心の大きさに驚いた。


そして、松尾は恥ずかしそうに小さく言った。

「おう!」


「さあ、もたもたしている暇は無い!行くぞ!」


多田さんの合図と共にみんな駆け出す。


山口さんの言葉で全員の気持ちが変わったように見えた。

亡くなった多村さんのためにも自分たちはやつらに勝って、絶対に生き残ると・・・。

みんなは誓った。



しばらく走ると、分岐点にたどり着いた。

右と左の二つに分かれている。


「どっちに行くんだ、山口?」


松尾が尋ねる。


「ママなにか聞こえるよ。」


「え!どっちから?」


一家の子供が右を指差す。それにつれ、みんなは右に耳を澄ます。


「確かに聞こえる。水が落ちているような・・・。」


多田さんは比較的耳が良かった。それ対して、滝ノ下さんがふと思った。


「川に流れているんじゃないですか?下水は川に流しているところもある、というの以前聞いたことがあるような・・・」


確かにとみんなが首を動かす。


「まあ、間違っていたら戻ればいい。右に行くぞ!」


再び走り出す。

そして滝ノ下さんが言ったことが的中した。


「光が見えるぞ!」


ほぼ海という川の最下流のとこらへんに出ていた。


しかし、周りを見渡しても、陸へ上れるようなところは無かった。

ただし200m位離れた向こう岸を除いては・・・。


「どうやってここから出るの?まさか川へ飛び込むとか?・・・まさかね。」


「国東さんの言う通りだ。いやかもしれんがそれしか手はない。」


どうやら三人家族は国東と言う苗字らしい。


「飛び込むなんて・・・絶対に私は嫌!!だって泳げないのよ!」


必死に叫ぶが山口さんは冷静に言う。


「じゃあ僕の背中につかまってください。旦那さんはお子さんがいるので。」


その後粘り強く拒否していたが、結局山口さんの背中につかまることになった。


「じゃあまず俺と松尾さんが行こう。」


高さ1メートルくらいの所から、多田さんと松尾が水しぶきをあげて飛び込んだ。


しばらくすると、山口さんと滝ノ下さん、拓也が飛び込む。


そして最後に国東さんの旦那さんとその子供が飛び込んだ。


「じゃあとりあえず向こうの岸に」


今度はみんなで岸めがけ泳ぎ始めた。まるでトライアスロンをしているような感覚だった。


汚い川の中ほどまで来たとき、後ろから叫び声が聞こえみんなが振り返る。


なんと国東さんのお父さんが消えていた。ブクブクと泡が出ている。おぼれたのだろうか?全員が突如不安に襲われる。


しばらくすると赤い液体がモクモクと川面へ姿を現した。


「きゃ〜〜!!!嫌よ!!カズ〜!!嫌〜〜〜〜!!!!」


国東さんが悲痛の叫びを上げた。すると突然、10メートルくらいのところから水しぶきがあがった。それと共に姿を現したのはサメにくわえられ、上半身をだしたまま、激痛にもがき苦しみ叫ぶ国東さんがいた。


「早く岸にあがれ〜!!」


全員焦って手を必死にもがき岸へ泳ぐ。しかし服のおもさでなかなか進まない!

その間にもサメはまた潜水を始めた。こっちに来るのは時間の問題だ!


死にたくない!そんな気持ちだけで必死に泳ぐ。


そして一番初めにたどり着いたのは、一番初めに飛び込んだ二人。そして滝ノ下さん、拓也、国東の子供の順で岸に辿り着いた。

あと2人!そんな気持ちで振り返ると大変な光景が目に入った。


山口さんが溺れていたのだ。パニック状態になった国東さんが、山口さんの被っているヘルメットにのしかかり、その重さで山口さんが沈んでいた。


「俺が行く!」


意外にも松尾が出た。


バッシャン!水しぶきが拓也の顔にかかる。


「山口!大丈夫か〜!!」


泳ぎながら言うが、川の中に全身が入っている山口さんに聞こえるはずが無い。


ようやく辿り着いた松尾は、パニクっている国東さんをどけようとするがなかなか離れない!


時間が無い松尾はごっつい拳で国東さんの顔面を殴って気絶させる。


「すまん!」


殴られた国東さんは即気絶し水面に倒れた。


すぐさま山口さんの安否を確認する。

しかし、山口さんは目をつむったまま、すでに息をしていなかった!


どちらとも助けないといけない松尾は、力を振り絞り、両手に二人を抱え岸へ向かい始めた。


時々おぼれそうになりながらも、何とか岸へと辿り着く。


「山口〜!!」


岸へあがった山口さんを、多田さんは必死に手に力を込め、心臓マッサージをする。


拓也と滝ノ下さんは国東さんの様子を見る。


「山口〜」


その声はもう震えていた。多田さんの目から涙がこぼれ、山口さんの着ている迷彩服に染み込む。


「おえぇ!」


山口さんが口から水を噴き出す。息をふき返した。


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