第6話 新たなる出発
「大丈夫か?」
疲れきった拓也に若い方の自衛隊員が心配してきた。
拓也はハァハァいいながら頷いた。
しかし、実際は大丈夫じゃなかった。
交番の前で滝上に飛ばされた時、実は着地に失敗して足を打撲していた。
それがさっきから痛んでくる。
「お前・・・打撲してるだろ?」
拓也はビビった。滝ノ下が気づかなかったこの怪我を、まだあって数分の人が気づいたからだ。
ニコリと微笑むともう一人の自衛官の方に体を向けた。
「多田先輩、ちょっと休憩にしませんか?」
「そうだな・・・みんなはどうだ?」
拓也と滝ノ下、家族三人は賛成したが、一人だけ、目つきの悪い男が反対した。
「ふざけんなよ!こんな所でもたもたしたらあいつらにやられちまうだろ!!俺は反対だ!こんな汚くて臭い所で一生を終えたくねぇんだよ!」
「まぁまぁ、松尾さん落ち着いてくださいよ。やつらのスピードじゃ、追いつかれるまでにまだ時間はありますよ。」
若い方の自衛隊員が優しい声で言ったが、男は聞く耳を持たず態度を変えない。それどころか、ますます顔が険しくなった。
「自衛官のくせして甘ったれた考えだな!俺たちが走ったのはせいぜい2,3km、あいつらの足でも、すぐにおいつかれちまうよ!へぼ自衛官!」
さっきまでやさしく接していた自衛隊員の顔がだんだん険しくなっていく。
「自衛隊は意外とへぼだな〜!そんなんだからあんたらの仲間も助けれねぇんだよ!!」
険しくなった自衛隊員の顔が急に変わり、手が震え始めた。
それはだんだん手から体へ、足へと範囲を広げ、数十秒で全身が小刻みに震えだす。
「おい、山口!大丈夫か!?!?」
心配した多田さんが山口さんのもとへ駆け寄る。
「あれはお前のせいじゃないんだ。俺だってあの場面じゃできなかった。」
どうやら俺たちと出会う前に何かあったと、拓也は推測する。
それでも止まらない山口さんを多田さんは殴った。
「いつまで過去の事ひきずってるんだ!いい加減に忘れろ!」
なぜか多田さんは涙を流していた。それに、何か滝ノ下さんのときと同じきがする。
まさかこの人も仲間をやつらに殺されてしまったのだろうか?
そう思うと、拓也の頭に怒りがこみ上がってきた。
数分すると震えは止まった。
男は言い過ぎたと思いながらも、自分の中での変なプライドが許さず、誤ることの無いまま座って黙り込んだ。
「休憩しよう。」
拓也が壁にもたれて座っていると、多田さんが近寄ってきた。
「さっきは驚かせてすまんな。」
「・・・俺たちお前たちと会う前に、あの化け物の大群に鉢合せしてしまったんだ。」
ずばり拓也が聞こうとしていたことを話してきた。
数十分前・・・・
「みなさん、ちゃんと付いてきてくださいね。決して離れないように。」
その声の主は多村・・・俺達と同じ自衛官だ。
やつは俺の高校の後輩で、あの山口の同僚だった。
あの二人は本当に仲が良かった。苦しいことも、楽しいことも二人で分け合っていたように俺はずっと思っていた。あの時までは。
「おい山口!人だ!・・・大丈夫ですか!?!?」
多村はその人に駆け寄る。
「多村!!やつらの仲間かもしれない!戻るんだ!」
もう遅かった。
いつの間にか現れた数十人の化け物に四方八方を囲まれていた。
次の瞬間、多村が駆け寄った化け物が首に噛み付く。
「うわぁ〜!!!」
多村の痛々しい叫びが下水道の中で響き渡る。
「多村〜〜!!!!」
銃口をやつらに向けるが、うごめいているのでなかなか狙えない。
下手すれば、多村に当たってしまう!
山口はますます焦り、涙が目から溢れ。もう何を見ているのか分からなかった。
「多村〜!!絶対・・・俺が・・」
声がもう震えて、しゃべれなかった。
「・・・や・・山口!!!・・・・・絶対に・・・・・い・・いき・・のこれ!・・」
それが俺たちの聞いた多村の最後の言葉さ。
拓也は爆発しそうになった。平穏な生活を急にぶち壊した化け物に対して。
この手で征伐してやると誓った。
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