第31話 A FEAR NEW YEAR
最終回です。
・・・俺は、死んだのだろうか。
目を開けたくても開けられない。心のどこかで死を認めるのが恐ろしいのだ。別に人生に悔いがあるわけではない。むしろ死んでいたほうがいい。
だが、さっきから死んでいった仲間が思い浮かぶ。そして、みんな口々に言う。
『生きろ』と・・・・
俺はここでは死ねない。死んではいけない。ここまで俺たちのために失われたみんなの命の分まで生きて、この事を伝えなければならない使命がある。目を開ければ始まらない。だから目を開けろ・・・俺!!!
恐怖心は高まる一方で俺はゆっくりと鉛がぶら下がったように重い瞼を、必死に持ち上げた。初め、線上に眩い光が差し込み、次第に周りの状況が両目の網膜に映し出された。
『生きている』
そこは間違いなくさっきから立っていたプラットホームだった。中央には山があり、赤黒い溶岩が周りにべっとりとついていた。その姿を見て俺は他の人の安否を確認するのを忘れているのに気がついた。
そんな俺に気づいたのか後から肩を優しく2回叩かれた。振り向くと同時に見慣れた4人の笑顔があった。
「お前も死んだと思ったか?」
古賀さんは宮崎さんに肩を貸しながら、バカにしたような言い方で言った。だがその笑顔は一瞬に消え去り、急に真顔で焦ったように古賀さんは言った。
「一体何が起きたのか分からんが、俺たちはまだ死んでいない。早くここから逃げよう。」
俺たちは頷いた。その時だった。
『システム再起動。5分後に計画を実行します。所員は避難せよ。』
それを聞いて皆の顔つきが変わった。後5分しかない。
「行くぞ!」
古賀さんと宮崎さんを先頭に、俺と国東さん、吾郎が、新幹線のような先頭車両に乗り込んだ。中は意外にシンプルで両側に壁に沿って長いすがあった。進行方向側には扉があり、上には『運転室』と書かれた札があった。
古賀さんは一旦宮崎さんを椅子へおろすとすぐさまドアノブを握り、回した。だが鍵がかかっている。
「拓也、鍵だ。」
俺はポケットからタグのついた鍵を投げ、古賀さんはそれを受け取るとぎこちない様子で差込み、回した。
後に続いて入ると、4畳くらいの思ったよりも広い運転席が現れた。そこには見たこともない計器が並んでいる。
「どれを触れば動くんだ!?」
古賀さんが焦り、怒鳴った。いつ訪れるか分からないタイムミリットを怯えながら必死にそれらしき計器や操作盤を探す。焦る俺はうっかり横文字が並んだ画面に触れてしまった。
それと同時にブザーと、警報が外でなり始めた。
「お前何をしたんだ!!」
操作版が見つからずいらついていた古賀さんの怒りが一気に俺に降り注いだ。
だが、それらの音は数秒で止み、画面に『運転開始』、『運転停止』の2つのボタンが現れた。
「お前・・・やるじゃねぇか。」
迷わず『運転開始』ボタンを押すと、まるで飛行機のエンジンのような馬鹿でかい音が響いてきた。大きい振動と共に列車が動き始めた。
俺は無意識のうちにガッツポーズをした。これで脱出できる。
「大丈夫ですか?」
長いすに体を寝かす宮崎さんに声をかけた。
「あぁ、大丈夫だ。」
宮崎さんの顔には、安堵感からか柔らかな笑顔が浮んだ。
俺も笑顔でかえした。
すろと、運転席の方から古賀さんが現れた。
「皆、あと1分で爆発だ。衝撃に備えて運転席のほうへ来い。ここいたら吹き飛ばされるからな・・・」
俺は宮崎さんを抱え、運転席の方へ移動した。
さっきは広いと感じた運転席だが、さすがに5人が一度に集結すると狭かった。前方の窓ガラスからは暗闇しか見えない。果たしてこのトンネルはどこへつながっているのか?
「あと10秒」
古賀さんが腕時計を見ながらカウントする。
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
まるで巨大地震に襲われたかのような大きなゆれと音と共に、後方の壁に体が強く叩きつけられた。運転席の速度計はさっきまでの10倍に膨れ、なおも大きくなっている。
体が磁石になったように壁にくっついており、離れようにも離れられない。むしろこのまま壁を突き破るのではないかと言うくらい後方に吸引されている。男の俺にはそれが少し痛むくらいだが、女性の国東さんや子供の吾郎君の顔は険しかった。
速度がついに600km/hに達した時、速度は一定になった。と同時に体が壁から離れ、前方に倒れた。
全員が激しく息切れしていた。
「吾郎・・・大丈夫?」
国東さんが息を整えながら言うと、吾郎君は頷いた。
「みんな起きろ!」
さっきに立った古賀さんが前方を指差していった。何かと思って立ち上がると、前方中央に輝く点が見えた。速度も徐々に落ちている。
「これで終わりだ。」
これで終わりなのか?俺はどこか胸やけがしていた。まだ何か終わっていないような・・・。それにさっきから背後になにやら気配を感じる。振り返っても誰もいないのだが・・・。
列車はトンネル内の駅に速度を落としながら止まった。外へ出ると、扉があり、その奥にはエレベーターがあった。きっと地上に続いているのだろう。
横に設置されているボタンを押すと、すぐに扉が開いた。
早く地上の空気が吸いたい。その思いでエレベーターが止まるのを待ち続けた。
俺たちがいたところは相当深かったらしく、30分くらいかけてようやく扉が開き、光がその隙間から満ち溢れた。まるで地獄から天国にきたみたいな気分だった。
・・・だがその喜びは、視界が開けていくうちに絶望感へと変わっていった。
前方に広がる景色は俺が24時間前見た景色とほぼ一緒だった。ただ違うのは場所が違うだけ・・・。
出たところはとある町の真っ赤な路地だった。もう戻れない俺たちは重い一歩を踏み出した。赤い液体が飛び散り、靴に付着する。
「嘘だろ・・・?」
散乱した死体を見下ろしていると、その中に警察官の死体があった。彼が着用している制服の右肩にあるワッペンを見て、ようやく俺はここがどこかがわかった。再び周りをよく見渡すとそのワッペンに書かれている文字で町中が溢れていた。
俺は、重い、重い溜め息をついた。
そして鼻で笑った。
「これが俺の来たかった沖縄かよ・・・・」
1月1日 午前1時1分 沖縄県那覇市
生き残り 三井田拓也、宮崎三等陸士、古賀巡査、国東晴香、国東吾郎
あと5人
文章の能力が無くすいません。今までこの自己満足の作品を読んでいただいた方(そんな人が存在するのか分かりませんが)ありがとうございました。
感想でもいいのでいただけると嬉しいです。