第28話 後退
「パァーン」
乾いた音が大きなプラットホームの中を響きわたった。
瞼の裏には上を向いたまま血だらけで倒れている宮崎さんの姿が浮ぶ。
だが、瞼を開けるとそこには予想外の光景があった。
倉澤が仰向けに両手を広げて倒れている。両足の太腿から出血し床に血溜りを作っている。
俺はすぐ横を見た。
「俺じゃない!!」
潔白を主張する古賀さんの顔は真剣だ。確かに古賀さんが撃ったのであれば、発砲音がもっと大きく、横から直接聞こえるだろう。さっき聞いた音は響き渡った音だった。
すると真下から人が現れた。俺3人はすぐさま身を出来るだけ隠した。
自衛隊員だ。1人・・・いや2人だ。銃を構えたまま低い姿勢で倒れている2人に近づいていく。
「古賀さん。どうしますか?」
少しでも大きな声を出すと響いて聞こえてしまうため、ひそひそと古賀さんに耳打ちした。
「とりあえず今は状況確認だ。あいつらが何者なのか。もし、宮崎に危害を加えそうになった時は・・・撃つ。」
古賀さんの出来るだけ撃ちたくないという思いが伝わった。今目の前にいるのは人間だ。これまで戦ってきた化け物とは訳が違う。
2人の自衛隊員は倉澤の前に立つと、銃の先で体を突き始めた。本当に死んだのか確かめているのであろう。
『カチャッ・・・』
すぐさま俺たちは完全に身を隠した。手を滑らせ握っていた銃を落としてしまったのだ。下では何かをやり取りする声が聞こえる。
「一旦引き返すぞ!」
しゃがんだまま真後ろにある扉から作戦司令室へ戻った。
ここにくれば下からは見えない。高杉さんに肩を貸し、立ち上がった。
「すいません。俺がドジしたせいで・・・本当に」
「今は謝るよりこれからどうするかだ。」
古賀さんの言うとおりだ。時間はない。奴らが来る前にどこかへ隠れなければ・・・。
まずこの部屋から出る事を考えたが、出口は2つしかない。さっき入ってきた出口は無理だから残りは1つ。さっき追っかけられたゾンビがもういないとは限らない。ひとまずこの部屋のどこかで隠れるしかないのだ。
「もうこれしかない。拓也、高杉さん。死にましょう。」
ついに1人の男が作戦司令室に入ってきた。赤いランプに照らされる顔は知らないものだった。もうかれこれ30秒は経つがこの体勢は疲れる。初め古賀さんが死のうといった時は目が点になった。それがSAT隊員の死体にまぎれて死んだふりするものだとは思ってもみなかった。
電灯が消え、真っ暗なこの部屋では例え少し動いたとしても音を立てなければバレない。
だが男は亀裂からこっちの部屋に入ってきた。
死体を一体ずつさっきと同じように突いてまわっている。もうすぐで高杉さんだ。
周りの死体と様相は同じなため、一番分かりにくいのだが、やはり心配だ。何しろ相手は自衛隊員だ。それなりに訓練されている。
だが結局、高杉さんはバレなかった。だが油断は出来ない。次は明らかに周りから浮いた古賀さんだ。
初め男は古賀さんを見たまま立ち止まった。
「こいつ・・・」
すると男はあろうことか古賀さんの股間を蹴り上げた。古賀さんは我慢できず動いてしまった。
「敵だぁあああああ!!!」
しまった。増員がここへ来る。
「どうすれば・・・どうすれば良いんだ!?」
焦っている間に男は古賀さんに銃を突きつけていた。その顔には滝ノ下とほぼ変わらない、不気味な笑みが浮んでいた。
「残念だな。お前はここで終わりだ。」
「やめろぉおおおおお!!!」
高杉さんが男に後から飛び掛った。男は押しつぶされるように床に倒れ、銃を手から離した。それを俺はすかさず取り、奴に向けた。
高杉さんは上に乗って顎を持ち上げた。
「古賀さん大丈夫ですか?」
「あぁ・・・ありがとう、拓也。」
手を貸し、古賀さんを起こした。
「お前たちは何を企んでいるんだ!?言え!!」
男は高杉さんの言葉を全く無視。奴は俺を睨みつけたまま口を瞑っている。
「何だ・・・頭が・・・」
突然、高杉さんは頭を抑え床に倒れてしまった。
「高杉さん!!」
俺は無我夢中で駆け寄った。高杉さんは痛みを殺すように、頭をまるで押しつぶそうとしているのかというくらい、強く抑えている。
「高杉さん!!」
俺は無意識のうちに高杉さんの手を握っていた。絶対に生きろと願いながら。
だが、願いは叶わなかった。一瞬にして高杉さんは魂が抜けたように動かなくなった。
「高杉さん・・・死ぬなよ高杉さん!!!」
大きな体を揺らしても、もう起きることはなかった。
12月31日 午後11時54分
高杉康平巡査長(23) 死亡
ミサイル発射、実験棟爆破まであと6分
生き残り 宮崎三等陸士、古賀巡査、三井田拓也、(倉澤巡査)
(山口士長、多田三等陸佐、多田巡査、国東晴香、国東吾郎)
あと9人(生死不明5人)
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