第24話 マウスノウ
情景描写が下手ですいません。
俺たちは化け物に向け拳銃を構え、化け物は俺たちの様子を伺っている。完全にらみ合いの臨戦状態だ。
顔面にある大きな口、といっても顔面には口しかないのだが・・・。その太い牙がそろった大きな口からは、大量の唾液を垂らしていた。でもただの唾液じゃないらしい。一滴垂れるたびに床から煙が発生し、唾液が溜まった部分だけ床が陥没していった。溶けているのだ。
きっと、こいつの唾液は何か強い酸が含まれているのだろう。もし皮膚に付いたら危険だ。
「みんな・・・こいつの唾液を浴びるんじゃないぞ・・・皮膚が溶けるかもしれないからな・・・」
古賀さんが化け物を刺激しないくらいの小さな声で言った。
俺たちの前にある縦3列に並べられたコンピューター群の果てには、古賀さん達が化け物と未だにお互い様子を伺っている。
俺たちと古賀さんたちとの距離は50mくらいだろうか?その中間地点、25mプールの縦の長さくらいのところには、兄貴が俺たちにその弱々しい背中を見せながら、跪いて床を見つめたまま、まだ動かないでいる。
山口の頭の中では何度も拓也の声が響いていた。
『そんなに死にたいならなぁ、手榴弾でも担いであの化け物の餌食になってくれ!!』
『手榴弾担いで化け物の餌食に、なれか・・・まさに拓也の言ったとおりだ。俺・・・何おかしくなってんだ!?
倉澤は生きている!死んでなんかいない。ならば後で謝ればいいじゃないか!!でも謝って許されることじゃない・・・。しかし今、俺がやるべきことは、拓也、倉澤、宮崎、国東、吾郎君に化け物を近づかせないように、俺たちここにいる全員でここから生きて脱出するために、この化け物を、親父を倒すことじゃないか!!!』
山口は拳を強く握り決意をあらわにした。
『立ち上がれ、俺!』
地面に手のひらを思いっきりつけ、力強く立ち上がった。
そして、後ろを振り返った。
『拓也・・・ありがとな!!!』
向きを変え今度は銃弾を浴びる化け物を見た。
『親父・・・すまないがここで死んでもらうよ。』
兄貴が化け物と目を合わすと、化け物は急に暴れ出した。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
すると、マウスノウは四足歩行でまず拳銃を構える古賀さんに向って突進してきた。
古賀さんはそんなことにも動じず素早くトリガーを引いた。
『パァーン!!』
銃声と共に銃弾はマウスノウの顔面を直撃し、赤黒い血と、肉片が飛び散った。
しかし、マウスノウは何も無かったかのようにそのまま突進してくる!
古賀さんは何も出来ないまま、拳銃を構えた姿勢で天井へと弾き飛ばされた。
体は宙を何度も前転しながら舞い、地面へ叩きつけられた。
「古賀!!」
祥平さんが古賀さんを呼ぶ声は聞こえるが、古賀さんの姿は、兄貴に向ってくるマウスノウの巨体のせいで見えない。
「親父、すまんな。」
「うぉおおおおおおおお!!!!!」
兄貴は吠えながら拳銃を連射する。
すると、次々に銃弾はマウスノウの顔面を貫通した。
ドロドロとした血液、肉片が、周りにあるコンピューターに次々と飛び散り、コンピューターの放つ光が赤に変わり、不気味に壁へ映し出される。
2人の攻撃によって、化け物の顔の半分は欠如し、巨大な口の歯茎が剥き出しになった。
しかし、以前、静止しようとしないことはおろか、ダメージを喰らっている様子を何一つ見せない!
このままでは古賀さんみたいに兄貴は弾き飛ばされてしまう!
俺は無我夢中で叫んだ。
「兄貴!!にげろぉおおおおお!!」
しかし、兄貴は逃げることなく攻撃し続ける。
マウスノウも止まることなく突っ込む。
「兄貴ぃいいいいいい!!!」
大きな口がついた顔面で兄貴は力強く押し飛ばされ、物凄いスピードで俺たちの方へ兄貴の体が飛んでくる。
このままだと兄貴の体が吾郎君に当たってしまう!
素早く隣にいた吾郎君をつかんで引っ張った。
『ドーン!』
吾郎君は危機一髪で助けることが出来たが、兄貴の体はそのまま壁叩きつけられた。
「兄貴!」
反射的に叫んだ。兄貴は気持ち悪そうに、口を膨らませ押さえている。
「ヴヴぇっ・・・」
兄貴の口から出てきたものは、大量の血だった。
吐いたあとも口からは唾液が垂らしているかのように、血が垂れていた。
その血は床に溜まり小さな池を作っている。
兄貴はその池に、疲れ尽きたかのように顔を突っ込んだ。
「ウオォオオオオオオオオオオ!!!!ウォオオオオオオオオオオ!!!!!」
なぜか突然マウスノウが叫び始めた。振り返るとそこには、足が泡を吹きながら溶けていくマウスノウがいた。一体何が起きたのか!?
マウスノウは叫びもがき苦しんでいる様子を見て、途中かわいそうな気持ちになったが、兄貴を殺そうとした化け物ということを何度も呼び起こし、その気持ちを抑えた。
ついに前足は完全に溶けて、白に少量のピンクを混ぜたような色の液体が、ドロドロ溜まっていた。
顔は床につき、尻尾だけが風を切る音を立てながら何度も振ったり、叩きつけたりしている。
その後も進行は収まらず、足から胴体へ、ついには顔まで溶け出した。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
顔は見る見るうちに溶けていき、口も解け、最終的に巨大な歯が残った。でもよく見ると歯だけではない、ドロドロした液体に埋もれた何かがある。ちょうど俺の身長と同じくらいの大きさだ。
「な、何かあるぞ!?」
多田さんはゆっくりと化け物の残骸に近づいていった。
その間、俺も立ち上がり、動かない兄貴のもとへ駆け寄った。
血溜りに顔を突っ込んだまま微動だもしない。もう兄貴には会えないのだと確信した。
「な・・・なんで?・・・これは・・・夢だよな・・・そうだ・・・夢だ!」
夢なんかではないということはわかっていたけれど、信じたくなかった。
兄貴はただ意識を失っただけ・・・生きているんだ!
ただそれを自分のどこかで、ひそかに祈っていた。
俺は兄貴の体を前に床にひざをついて座った。まず俺は、うつ伏せに倒れる兄貴を、ゆっくりと仰向けにした。
すると、兄貴の真っ赤顔が現れた。左目に刺さっていた矢は、前よりも奥深く入り、後頭部の下、首辺りから矢の先端が突き出ていた。
「兄貴・・・死ぬなよ・・・なぁ・・・・兄貴・・・目を覚ませよ!!」
拓也の思考回路はぶっ壊れ、おかしくなったよう何度も兄貴の体を強く揺さぶった。
「おい!しっかりしろ、拓也!!」
それでも拓也はやめようとしない。
すると、見かねた祥平さんは、握り拳を拓也の頬に一発かました。
「しっかりしろ!拓也・・・!お前の兄貴はしっかりと呼吸しているぞ!!」
何か冷たい液体に後頭部が浸っている。気がつくと視界には天井と祥平さんの顔があった。
一度目が合うと、怒っていた顔が笑顔に変った。
「目、覚ましたか?」
「は・・はい。俺・・・なんか・・・しました?」
「覚えてないならいいよ。お前の横見ろ。お前の兄貴だ。」
そんなこと分かっていると思って首を回すと、案の定、兄貴の死体があった。目を瞑り天井を向いたまま動かない、何も喋らない。
兄貴をマウスノウに殺された怒りを込めて、祥平さんにぶつけた。
「兄貴がどうかしたんですか!?」
「よく見ろ!」
祥平さんは真剣な眼差しで俺を見てきた。もう一度振り返ったが、やはり兄貴は動かない。
いや・・・動いている!一定の間隔で胸が膨らんだり、萎んだりしている。呼吸をしているのだ。
意識は無いが、生きていたということだけでも嬉しくて、眠ったままの兄貴の胸に飛び込んだ。
今度ははっきりと肺の中に空気が入り、また空気が出て行くのが実感できた。
心臓の鼓動も力強く打っている。
「神様・・・ありがとう・・・」
俺は胸に顔を突っ込んだまま、天に礼を言った。
そんな中、突然慌てたように多田さんが俺の名を呼んだ。
「拓也!!!お前の親父さんが・・・!!!」
12月31日 午後11時40分
ミサイル発射、実験棟爆破まであと20分
生き残り 多田三等陸佐、山口士長、宮崎三等陸士、古賀巡査、多田巡査、倉澤巡査、三井田拓也、国東晴香、国東吾郎、
あと9人
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