第23話 臆病と気弱
これであの幻聴の正体がわかった。
太田さん達が何者かに殺られている時の悲痛な叫びだったのだ。
「お前が・・・太田さんたちを・・・・死ねぇええええ!!!!」
俺は怒りを抑えきれずにはいられなかった。拳銃を構え、引き金に手をかけた。
すると、滝ノ下は5mくらい離れたところから一瞬で・・・気がついたら俺の目の前にいた。
「お前が死ね!!!」
俺は滝ノ下に思いっきり溝打ちを喰らった。まるで滝ノ下の拳が、そのまま俺の腹を貫通したような痛みだ。痛み以外の感覚がもうない。
そのあまりの痛さにのたうち回った。
「拓也!!大丈夫か!?」
兄貴はすぐに俺のそばに駆けつけてきた。そして、腹を摩り必死に痛みを消そうとしてくれた。
その甲斐あって、ゆっくりであったが痛みが消えいった。
「兄貴・・・ありがとう。もう大丈夫だから。」
すると兄貴は立ち上がり滝ノ下を虎が獲物を見るみたいな目つきで滝ノ下を睨んだ。
「お前・・・太田さんたちを殺したのか!?」
滝ノ下の頬がつりあがり、ピエロのような笑顔になった。
「そうだよ。だから何!?」
「そうか・・・ならば・・・」
兄貴はホルスターから拳銃を取り出し、引き金に手をかけて、滝ノ下に向けた。
「お前をこの手で始末してやる。」
すると滝ノ下は急に大笑いを始めた。馬鹿みたいに笑っている。これは作戦なのか?俺たちの、兄貴の気を揺るがし、隙を見計らって俺たちを殺す。滝ノ下ならしかねない。
兄貴は動揺していたが、こいつが太田さんを殺した悪魔ということを思い出すと、怒りがこみ上げ、勢いでトリガーをひいた。
『パァーン』
銃声が部屋で轟いている。思わず塞いでしまった目をゆっくりと開けた。
「オエッ!!」
てっきり銃弾は滝ノ下に当たるものと思っていた。でも目の前には左わき腹から出血し口から血を唾液のようたらしている倉澤さんがいた。
その顔の横には滝ノ下のニヤリとした不気味な笑顔があった。
滝ノ下はすぐ近くにいた倉澤さんを盾に使ったのだ。滝ノ下の中には人間などというものは存在しない。周りにあるものすべて使い捨ての道具なのだ。
滝ノ下が倉澤さんをつかんでいる手を放すと、倉澤さんは崩れるように地面に倒れた。
「倉澤!!」
さっき自ら敵であることを自白したが、仲間だったのは事実だ。
古賀さんはすぐにわき腹を抑え、苦しむ、倉澤さんの元に駆け寄った。
倉澤さんを撃ってしまった兄貴は体を震わせ、ボソボソ何か言っている。
「殺してしまった・・・俺は・・・人を・・・・殺した・・・」
兄貴は、滝ノ下に向けていた拳銃を大きく震わせながら、ゆっくりと、自分の頭に向けた。
まるで、東宿舎での倉澤さんが乗り移ったかのように・・・。
「兄貴やめるんだ!!!お願いだから!!!!!」
俺は無我夢中に叫ぶも、時すでに遅し。兄貴の右手指し指は、拳銃のトリガーを引いた。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
俺は目を瞑り大声で叫んだ。
「カチッ!・・・カチッ!・・・」
弾切れだった。肩にのしかかっていた荷が下りたようだった。
ホッと胸を撫でおろした。
兄貴は銃口を頭につけ、何度もトリガーをひきながら崩れ落ちた。
やっとトリガーを引くのを止めると、拳銃を投げ捨て、大きな拳を思いっきり地面に叩きつけた。
「俺は・・・・なんて事をしてしまったんだ!!・・くそっ!!!」
涙がボロボロと床に落ち、溜まっていった。
「人間って雑魚だよな。こんな鉄の塊が体に入っただけで死ぬんだから。ふふふっ!!」
俺は沸き起こる怒りをグッと堪えた。攻撃してもさっきみたいに返されるだけだ。下手すればさっき以上の攻撃を返してくるかもしれない。
俺は心のどこかにある滝ノ下に立ち向かう恐怖心と勇気の無さに苛立った。
『ドン!』
突然、右の壁から音がして、壁が膨らんだ。
一斉に全員がその壁を睨んだ。何人かは反射的に拳銃を構える。
『ドン!!!』
さっきからだんだん壁をたたく音が大きくなっている。
そして、滝ノ下が言った。
「ふふふっ。マウスノウの御出座しだ。ふふふっ!!」
『ドーン!!!!!』
次の瞬間、大きな音と共に鉄製の壁は引き裂かれ、その隙間から化け物があらわれた。マウスノウだ。
さっきモニターに映されていた部屋は壁をはさんで隣にある部屋だったのだ。隙間の向こうには、SAT隊員の死体が無残に横たわっていた。
「ウォオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
化け物が、耳の鼓膜が破れそうになるくらいの雄叫びをあげた。
「さぁ・・・お手並み拝見といくか。せいぜい頑張ってくれ。」
そういって滝ノ下は急いで作戦司令室を後にした。
古賀さんは後を追うべく、二人が出て行った扉を開けようとしたが、ロックがかけられていて開かなかった。
「どうやら戦うしかないようだな。」
古賀さんはホルスターから拳銃を取り出し、両手に拳銃を構えた。
「拓也!国東さん!」
俺は急に大きな声で呼ばれたのにつられ、自分も大きな声で返事した。
「倉澤と山口さん、あと宮崎さんを頼む!!」
倉澤さんを国東さんに任せて、自分は泣き崩れている兄貴の所へ行った。
「おい!兄貴!早く逃げるぞ!ここは危険だから!」
しかし、そんな俺の言葉は耳に届かず。未だにボソボソつぶやいていた。そんないつもは見せない気弱な姿を見て、苛立った俺は一発思いっきり殴った。
兄貴はそれと同時に我に帰ったのか、俺の方を睨んできた。
「お前いつまでうじうじしてんだよ!!!古賀さん達は俺たちを守ろうと、皆で生き残ろうと必死に頑張っているのに!!お前みたいなやつを一度尊敬した俺が馬鹿らしいぜ!!そんなに死にたいならなぁ、手榴弾でも担いであの化け物の餌食になってくれ!!!」
そう吐き捨て、俺は祥平さんの所へ急いでいった。
「祥平さん。宮崎さんを俺の背中に。」
宮崎さんを背中に乗せながら祥平さんは言った。
「お前いいすぎじゃないか?」
宮崎さんをおぶり、俺は立ち上がった。
「いいんですよ!あんなやつ、見てるほうが腹たってきますよ。」
俺は急いで化け物から一番はなれた、場所へ行った。
そこで宮崎さんを下ろし、寝かせ、拳銃を構えいざという時に備えた。
12月31日 午後11時35分
ミサイル発射、実験棟爆破まであと25分
生き残り 多田三等陸佐、山口士長、宮崎三等陸士、古賀巡査、多田巡査、倉澤巡査、三井田拓也、国東晴香、国東吾郎
あと9人
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