第21話 幻聴
階段は果てしなく続き、行けども行けども、LV.3は見えてこなかった。もう過ぎてしまったのではないかと不安に感じ始めるくらい長い。
そろそろ足の感覚がおかしくなってきた。これだけ長く階段を下り続けたのだから当然だ。しかし、前を歩く古賀さんは相変わらず、疲れた表情を見せず下りている。体重20キログラムはありそうな吾郎君を抱えているのにもかかわらず。二人は仲良く談笑しながら下りている。
他の人も疲れた表情は見せていなかった。倉澤さんと多田さんは、それぞれ片足、両足に負った傷が痛むのか、常に眉間にしわを寄せながら下りていた。
そんな時、急にサイレンが鳴って放送が流れた。女性のロボットのような声だ。
「警告!警告!第二計画実行まであと1時間!各隊員、研究員は所定の位置に直ちに急行せよ!」
突然の警告にみんな息が止まりそうになるくらい驚いていた。俺も驚いた。
だぶん、第二計画とは証拠隠滅のために、ここを、九州、本州、四国、北海道を滅亡させる計画のことだろう。あと1時間しかない!急がなければ。
「皆さん、急ぎましょう!」
多田さんも俺と同意見のようだ。皆さっきよりペースを上げる。
そんな多田さんはちょっとペースを落とし、後ろにいた倉澤さんに寄っていった。
「倉澤・・・」
多田さんは倉澤さんと目を合わさずに言った。
「・・・・何ですか?」
「さっきはすまなかった・・・。本当は本音じゃないんだ。・・・信じてくれなくてもいい。本音じゃないからといって、言っていい言葉じゃなかった。本当にすまん!」
やはり多田さんは本音じゃなかった。俺はずっと多田さんを信じてきた。
倉澤さんは苦い顔をしている。やはり許さないのか。
「・・・許さねぇ!絶対に許さねぇ!・・・あんな言葉を聞いた後藤の気持ちがわかるか!?生きたくても生きられないあいつの気持ちがわかるか!?俺にもわからないほど辛く重い決断を、あいつは意識取り戻してすぐにしたんだ!・・・だから・・・・・」
倉澤さんは一瞬足を止めた。早くしなければいけないというこの大事な時に一体何をしているのだろうか。倉澤さんは顔を上げ大きな声で言った。
「あいつの分まで生きてくれ!!!それだけだ!!!死んだら承知しないからな!」
「すいません、待たせてしまって。早く行きましょう」
一行は再び下へと下り始めた。これで二人の仲は戻った。
本当によかった。
「おっ!平面が見えるぞ!LV.3じゃないか?」
古賀さんが興奮しながら言った。やっとゴールだ。ただし、そこはゴールであって、スタートでもある。休憩はできない。
「なんだこれ!?」
先に平面に降り立った、先頭の祥平さんの声が階段を響いた。
俺たちも階段を下りると、少しスペースの広い部屋になっていた。ここで終わりだろうか?
トイレもある。
俺たち最後尾のやつは、そのまま祥平さんのところへ向った。一体どうしたのだろうか?
ようやく着いて俺たちも、祥平さんが見た光景に絶句した。
さっきまでは何十段か下りたところで折り返し、また何十段か下りたところで折り返し、の繰り返しだったが、今度は一直線に階段が下へと伸びていた。
しかし今度は、ゴールが見える。ここからは、点のようにしか確認できないが。
「俺、今までのほうがよかった。ハァ〜・・・。」
無意識にその言葉が出た。無意識でも弱音を吐けば、俺だけじゃなく全員のテンションが下がってしまう。この場面で言ってはならなかった。
読みは当たり、俺のため息は他の人へと伝染していった。
『マ、マズイ・・・兄貴に・・・』
俺はなぜか兄貴に叱られることをおびえ、隙間からのぞくような視線で兄貴を見た。
すると兄貴は怒るかと思えば、鼻で笑って見せ、多田さんに何か耳打ちし始めた。
まさか二人係で俺を・・・!?
耳打ちが終わると兄貴はこっちを見た。その時の兄貴の顔は普通だったが、兄貴は元々がたいが大きく、顔は言葉でうまく表せないが、端的に言うと怖い顔だ。俺には鬼のように見えた。
これから何を言われるのか、俺の心臓は鼓動を高鳴らせ始めた。
「・・・一旦休憩しましょう。出発は5分後の11時10分です。時間になったら知らせるのですぐに集まってください!」
俺は、芸人のように思わず転んでしまった。
俺のさっきまでの心境を知らない人たちは俺を見て笑った。
「拓也、何しているんだ!?・・・お前もゆっくり休め!なっ!」
そういって兄貴に肩を叩かれた。
俺はとりあえずトイレに行くことにした。
「おっ!拓也もトイレに行くのか?」
後ろを振り向くと、古賀さんとその手を握っている吾郎君がいた。
「そうですけど・・・・何か?」
「いや別に・・・俺と吾郎も行くから聞いてみただけだ。」
ここのトイレは珍しく扉があった。しかも自動ドアだ。俺が扉の前に立つと、厚さ5cmくらいの扉が上へとしまわれ、トイレがあらわれた。
どこにでもあるような普通のトイレだったが、以外だと思ったのが、このトイレの清潔さだ。ここが悲劇の舞台とは思えないくらいきれいだった。
そんなトイレに俺は足を踏み出した。続いて吾郎君と古賀さんが入る。
吾郎君は一体何歳なのだろう?身長、容貌からして5,6歳だと思う。それなのにトイレが一人で行けないのだろうか。
と思っていたら、古賀さんも便器の前に立った。どうやら俺の早とちりだったらしい。
すっかり古賀さんは、吾郎君のお父さんのようになっていた。逃げてきた時も吾郎君をおぶってきたし、階段を下りる時もおぶったまま下りていた。今だって・・・。
なんか、父さんのいる吾郎君がうらやましかった。俺がこのぐらいの時もこうやってしてもらっていたのだろうか?・・・早く父さんに会いたい。
「皆さん!1分前です!!集合してください!」
いろんなこと考えていると、すぐに休憩の終わりを告げる兄貴の声が聞こえた。手を洗い、外に出た。なんか、トイレの空気の方がきれいだったように感じた。普段の生活なら考えられないことだ。
「拓也・・・トイレに戻れ!!!」
「えっ!?」
俺はその咄嗟の命令に体が追いつかなかった。
『グシャッ!!』
目の前30cmくらいのところに紺色の物体が落ちてきて、中から得体の知れないものが飛び出た。
そこで映像を切られた。古賀さんに目を塞がれ、周りが真っ暗になったのだ。
国東さんの悲鳴が階段の上の方でこだましているのがわかる。
そして倉澤さんの悲しそうな声が聞こえた。
「・・・後藤・・・」
「皆さん!先を急ぎましょう!ほらっ!倉澤も!!」
俺は手を引かれるままついていった。目隠しされて誘拐されている感じだ。
一体これからどこへ連れて行かれるのか、という恐怖が襲ってきた。
本当は連れて行かれる場所を知っているはずなのだが。
「後ろを見ないで、前だけ見ろよ。」
そういって映像が再開された。暗闇から一転して明るいところを見たため、目が慣れるのに時間がかかった。
普通の感じになると現在の様子がわかった。
俺たちはどうやら列の一番後ろで、前には、目を手で押さえた倉澤さんと、その隣で背中をやさしく摩る兄貴がいた。
一体何が目の前で起きたのか!?突然、目の前に広がったグロい物体。そして倉澤さんが言った、「後藤・・・」という言葉。
・・・まさか、上から後藤さんの体が降ってきたというのか!?俺が見たグロい物体というのは、後藤さんの・・・内臓?
そんなことを考えていると吐き気を催してきた。口を押さえ、逆流してくるかもしれないものに備えた。
すると背中がだんだん温かくなってきた。
「大丈夫か?」
古賀さんだ。俺の背中をさすってくれている。おかげで、体外に戻りかけたものは元に戻っていった。
「ありがとうございます。」
「いいよ、別にお礼言われても・・・照れる・・・」
古賀さんが片手を放したため、落ちまいと、吾郎君が今まで以上に古賀さんの首を絞めているのがわかった。
「もう良いですよ。大丈夫です。」
「そうか・・・・・」
それから二人はしばらく黙り、足が階段を踏む音が響いた。
一行は、だんだん大きくなっていくゴールに向って、階段を下りていった。
「やっと着いたぁ・・・。」
目の前にはLV.3と白く書かれた黒い大きな扉があった。
山口さんの時計を覗き込むと、時刻は11時27分になっていた。階段を下りるだけで20分以上も使ってしまった。これからもっと急がなければ!
「皆さん。ここからはさっきより危険な場所です!地図によると、この階には人体実験室があります。さっきのような化け物が出る可能性があります!国東さんと吾郎君、拓也は列の真ん中へ、祥平と俺が先頭、山口さんと多田さん、古賀は後ろで。みんな迷子にならないようにしてくださいね!良いですか。」
みんな一斉に頷いた。倉澤さんはまだ警察官の卵というのに、指揮力は一人前だ。
先頭の祥平さんと倉澤さんが銃を構え配置についた。
「3、2、1・・・GO!」
扉を開け一斉に中へ突入した!
しかし、前の二人が突然止まり、大きな背中に追突した。
「・・・これは・・・・!?」
まるで体育館に戻ったような光景が幅2mくらいの廊下に広がっていた。
全身を迷彩服に包んだ自衛隊員がここから見える限り、8人横たわっていた。皆死んでいるようだ。首が切られた人、胴体が真っ二つになった人、仲間の上にかばうようにしてのしかかったまま、鉄パイプに串刺しになった人・・・俺の頭に一瞬電気が走った。
「太田三等陸佐・・・原・・・多田さん!!」
兄貴は死体一人ずつの顔を覗き込み、名前をあげていった。
「あぁ、そのようだな、山口。」
どうやら二人の知り合いらしい。同じ自衛官なのだから当然だが。
「濱田一曹と間口2等陸士がいないぞ。」
それを聞いて兄貴はすぐに45度くらい右に曲がった廊下を奥に進んでいった。
「・・・皆さん!こちらも大丈夫です!」
その言葉を信じ、俺たちも先へ進んだ。すると二つの廊下が繋がった小さなホールにたどり着いた。正面には大きな鉄の扉があった。上には細長い電光掲示板があり、LV.4の文字が赤く光っていた。エレベーターのようだ。
「こっちにも二名はいません。一体どこに!?」
「わからない。とりあえずここを捜索してみよう。」
そういって俺と国東さん、吾郎君、兄貴を残して、他の三人は右と左の通路の捜索を始めた。
二人の後姿を見届け、もう一度死体を見ると、また頭に電気が流れた。
『助けてくれぇええええええ!!!!』
どこからともなく声が聞こえてきたように感じた。
『このパイプを〜〜』
この声は頭で響いていることに気づいた。昔の記憶だろうか。声だけ聞こえる。
『このパイプを抜いてくれ〜〜』
俺の目にはちょうど鉄パイプが貫いた、二人の自衛官の死体が映っていた。
ひょっとしてこの声は、この人たちの・・・声?
『邪魔するな!!』
俺は頭部を何か鋭い物で突きぬかれたような衝撃的な痛みで気絶した。
「しっかりしろ!!!拓也。」
この声は・・・兄貴だ・・・。暗闇の中で声だけ聞こえる。
「おい!!目を覚ませ!!」
だんだん光が見えてきた。その光をさえぎる物体がある。何だろう?
「拓也!!・・・起きろぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
「はっ!!!!」
俺は意識を取り戻すと俺以外のみんなの心配そうな顔が見えた。小さな振動が冷たい床から伝わってくる。
「大丈夫か拓也!?」
兄貴が声をかけてきた。
「うん・・・・・」
俺は嘘をついた。本当は頭が押しつぶされるように痛い。
これ以上、みんなに心配をかけさせたくなかった。
あたりを見渡すと、すでにホールにはいなかった。鉄に囲まれた小さな部屋にいる。
「ここは・・・?」
「エレベーターの中だよ。お前急に倒れやがって。死んだのかと思ったじゃないか。」
上半身だけ起こした俺は兄貴に抱きしめられた。兄貴が身に着けている防弾チョッキが硬く痛い。でもやっぱり兄貴の胸の中は温かかった。
「ごめん・・・。」
俺はその胸から離れ、謝った。
「でも、生きていてよかった。きっと疲れているんだ。もうちょっと休め。」
そういわれて横になると、隣に一人の若い自衛官がいた。一体誰なのだろう?
「兄貴。」
「なんだ?」
「こっちの人は?」
「あぁ。宮崎だ。去年入隊した新米自衛官。おれらが呼び寄せたこのエレベーターの中で倒れていたんだ。」
『LV.4に到着しました。』
アナウンスが流れ、大きな扉があくと、広い廊下が目の前に広がった。
「倉澤!作戦司令室はどこだ?」
「え〜と・・・・・あっここです。まずはこの廊下の突き当たりを右です。」
まず、と言ったということはまだ続きがあるということだ。
「祥平!宮崎を運んでくれ。」
「わかった。」
そういって祥平さんは宮崎さんの両腕を自分の肩にかけておぶった。
「拓也、立てるか?」
祥平さんが俺に声をかけてきた。
「はい!」
俺は立ち上がった。まだ頭がズキズキしているが、歩くのは問題ないだろう。
「よし!行きましょう。」
俺たちはまず突き当たりを右に曲がった。続いて途中の分岐点を左、また次の分岐点を左へ。怖いくらい順調に進んでいった。
俺たちはLV.2の宿舎以来、一切敵に会っていない。何か、まるで俺たち全員をここに呼び寄せているようだ。
奥へ進むと突き当たりに両面扉があった。上には作戦指令室と書いてある。
いったいどんな部屋なのか?だんだん心臓の鼓動の速さが早くなっていくのを感じた。
多田さん、倉澤さんは突入の準備が整ったみたいだ。
「3,2,1・・・GO!」
扉を開けた瞬間、目の前に滝ノ下が現れた。初めに入った二人はすぐに銃口を滝ノ下に向けた。滝ノ下は地上と同じく不気味な笑みを浮かべていた。
「手を上げろ!」
「はいはい。」
滝ノ下は以外にも素直に従った。きっと何か企んでいるに違いない。俺の視線は滝ノ下から離れることは無かった。
「ミサイルをとめるにはどうしたらいい!!言えっ!」
多田さんは滝ノ下の顔面すれすれに銃口を突きつけた。それに動じることも無く滝ノ下は相変わらず微笑んでいる。
「あそこのメインパワーシステム室にある大きな緑色のボタンを押せば止まるよ。ふふふっ。」
早速、多田さんと倉澤さんは中へ入っていった。その間は兄貴が滝ノ下を見張っている。
「おぉ、お前が山口啓二か。お前の親父にそっくりだな。そのムカつく顔は・・・殴りたくなるよ。ふふふっ。」
兄貴は沸き起こってくる怒りを必死に抑えている様子だった。銃を握っている手、腕、肩に力が入っているのが見てわかる。
「心配するな。お前の馬鹿な親父は無事だよ。しっかり任務を果たしてくれている。」
「任務!?」
「あぁ任務さ。見てみな。」
そういって、滝ノ下は真ん中にある大きなモニターを指差した。
いたって普通の食堂だった。学校にありそうな。でもいったいどこのだろう?
映像には誰も・・・誰か入ってきた!全身黒く、ヘルメット、ゴーグル、マスク。防弾チョッキなど完全武装だ、手には自動小銃が握られている。背中には『POLICE』の文字が。
それを見た古賀さんが言った。
「SATだ。」
「おっ!!正解!!」
滝ノ下のテンションは未だに下がらない。STを投与するとテンションにまで影響が出るのだろうか?
「SAT、特殊急襲部隊。高い身体能力と強靭な精神力を兼ね備えたエリート集団だ。俺から見れば蟻の行列みたいなものだけど、ふふふっ。」
兄貴は今すぐにでも爆発しそうだ。このままだと絶対に爆発する。
「なぜ、そんな人たちがここに?」
古賀さんは言った。
「俺の実験体との戦闘実験さ。」
この一言で兄貴は爆発した。銃で滝ノ下を殴りかかろうとしたが古賀さんが後ろから抑えた。
「離せ!!!離せよ!!!許せねぇ!!お前みたいなやつは絶対許さねぇ!!殺してやる!!!この手でその頭をひねり潰してやる!!!」
「あぁ怖い、怖い!!」
するとついに兄貴は古賀さんの手を振り切り、銃を滝ノ下の頭に向け、引き金に手をかけた。それでも滝ノ下は笑っている。
「死ねぇえええええええええええ!!!!」
「銃をおろせ、山口!!!」
倉澤さんの声だ。俺はその声のした方を見て愕然とした。倉澤さんが多田さんの頭に銃口を突きつけている。
「さもないと、こいつの頭がぶっ飛ぶぞ!!!」
兄貴はしぶしぶ銃を放し、後ろへ下がった。
「嘘だろ・・・倉澤!!!・・・・・何で。」
古賀さんの目からは悔し涙がこぼれた。
「金さ!俺は金のためならなんだってする。裏切ったり、人間を殺したりな。」
『パァーン!!!』
『ババババババ・・・!!!』
銃声、悲鳴が交互にモニターから響いた。そして最後の悲鳴と共に静けさが漂った。
そして次の瞬間、隊員一人を加えた化け物が姿を現した。
今まで遭遇した化け物の中で一番化け物という感じだった。顔は目、鼻は無く、大きな口のみで、歯は鮫のような歯をしている。四速歩行で、尻尾があり地面についている。動く時は、おおきなピンク色の体を左右に揺らしながら進んでいる。
銜えられている隊員はまだ生きていて、口から出た足が激しく動いていたが、その化け物は無残にも噛みちぎり、下半身の部分が床に落ちた。
「見た?これは人間がベースになっているんだ。わかる?ST2やST3、動物の遺伝子などを組み合わせて作った実験体、『マウスノウ』。よくないかこの名前、ふふふっ。」
「そんなものいいはずがない!!人を殺す動物なんて!!!」
俺は我慢できず滝ノ下に言った。
「おう、拓也。でしゃばり拓也。俺がさっき言ったこと忘れたか?」
「何だよ。」
「この化け物はお前の親父、滝ノ下三郎だよ!!ふふふっ。」
俺はその場で崩れた。信じられない。あれが・・・俺の親父!?俺の会いたかった親父!?元が人間だった様子はどこにも見えない。
「嘘だ・・・嘘だぁああああああああああああ!!!!!」
俺は叫ばずにはいられなかった。俺の親父が・・・人を喰っている。絶えられない。
「叫んだってあいつは戻ってこないよ。ふふふっ」
俺にその声は聞こえなかった。
「どうしてなんだ・・・どうして親父をこんな目に・・・。」
兄貴は視線を誰とも合わせず、ボーっとした感じでつぶやいた。
「別に誰でもよかったんだよね。ただ近くにいて、簡単なやつがよかったから。滝上が死んだあの夜、計画を実行した。」
あの夜・・・それは12月31日の午前0時過ぎだ。俺はそこからの記憶が残っていない。ただ目を覚ましたら交番内にいたことから、その場で寝たのだと思っていた。
しかし、実際は違った。
12月31日 午後11時30分
ミサイル発射、実験棟爆破まであと30分
生き残り 多田三等陸佐、山口士長、倉澤巡査、古賀巡査、多田巡査、三井田拓也、国東晴香、国東吾郎
あと8人
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