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第20話 仲間を思って・・・

12月31日午後10時40分 LV.2 東宿舎


隆一のことが、野球部の仲間の安否が気になってしょうがなかった。きっと多くの仲間は、今ごろ路頭で人肉を食い漁っているだろう。その姿を想像すると身震いした。

どうか無事でいてくれ!

ただ、そう願った。叶わないだろうが・・・。


倉澤さんが何かを思い出したように急に立ち上がり、上着の内ポケットから紙切れを出した。所々、血に染まっていた。これを見るだけでもこの事件の悲惨さを感じ取ることができる。


「これ・・・地図です。さっき他の部屋で死んだ隊員が持っていました。」


なんかいい気はしなかった。死体が持っていたというだけで、紙の重さが変わってくる。


倉澤さんはわかりやすく自分達の現在地。これから行くべき場所を示した。


「私達は今ここに居ます。どうやら、この廊下の奥の扉が階段に通じるものらしいです。」


これで一安心だ。後は他のところを捜索中の人に無線で連絡しなければいけない。無線は兄貴の肩に掛けてある。

俺はその無線を取ろうとしたところで、倉澤さんが止めた。


「待ってくれ、拓也。・・・・実は、階段へ通じるこの扉には鍵がかかっているんです。さっき力ずくで開けようと試みましたがとても無理でした。私が捜索したところにはありませんでした。・・・そっちに鍵は?」


俺たちは首を横へ振った。これは大きな壁だ。すぐに鍵を探さなければ、やがて、ここに眠っている死体がやがて目を覚まし、無差別に俺たちを襲ってくる。そうなった時点でもう終わりだ。日本という国は1億2000万の人間と共に滅亡する。その先の未来はとんでもないことになっているだろう。そんな恐ろしい想像を膨らませていると、千草さんが言った。


「鍵なら俺が持っている。」


千草さんは意識を失っていたものと思っていた三人は、声をそろえて驚いた。と同時に、問題が解決し、肩をおろした。千草さんは俺たちの反応を見て初めて声を出して笑った。


早速連絡しなければ。


俺が無線に手を差し伸べたその時、突然、悲鳴が聞こえた。男の人の声だ。そして誰かがこっちに向ってくる足音が。銃声も聞こえる。

俺たちは銃を構えて待機した。兄貴は片手で千草さんを支え、もう片方の手で銃を構えた。千草さんも自分が持っていた銃を構えた。俺も慣れない手つきで構えた。


こちらに向ってくる音が大きくなるにつれて銃を構える手が震えてきた。そのような中、倉澤さんは冷静に突き当たりの方向を見つめている。兄貴も同じだ。やはり、常日頃から鍛えている、訓練している人は違う。当たり前のことだが。


すると、角から吾郎を抱えた古賀さんと国東さんがあらわれた。二人とも服が所々、赤黒く染まっていた。


「どうしたんだ!?古賀!!」


倉澤さんが怒鳴るように聞くと、古賀さんは息を切らせながら言った。


「ハァ・・・ハァ・・・・巨大な化け物が・・・・後ろに。」


「うわぁあああああああああああ!!!!!」


「後藤〜〜〜〜!!!!」


後藤さんの叫び声の後に、後藤さんの名を呼ぶ叫び声。後藤さんの身に何かあったに違いない。


『ドン!!!』


「うっ・・・・。」


突然、廊下の角を右から左へ後藤さんの体が飛んできて、壁にたたきつけられて、床に落ちた。それと同時に、赤い血液が周りに飛び散った。後藤さんは床に倒れたまま動かない。


「後藤!!!」


そう言って、すぐに倉澤さんは後藤さんのところへ全力疾走で向おうとした。


「うっ・・・・」


倉澤さんは歯を食いしばって、固まった右足を動かした。どうやら、後藤を、一刻も早く助けなければならないという思いが強くて、自分が右足に銃弾を受けたということを忘れていたらしい。

そんな足じゃ無理だ。俺は倉澤さんを止め、自分が代わりに行くことを決めた。


「倉澤さん!その足じゃ無理だ!先に階段に言っていてください!俺が代わりに行きますから!!!」


「・・・・頼む!!」


悔しながらにそう言われ、俺は全力で後藤さんのもとへ向った。


俺が向っている間に今度は、多田さんと祥平さんが角から現れた。多田さんは祥平さんの肩から手をどけると、ぎこちなく走ってきた。祥平さんは後藤さんを背中におぶり、こっちに走って向ってきた。


「拓也!!!親父を頼む!!!!」


俺は頷き、多田さんの手を自分の肩にかけ、階段へと向った。すばらしいコンビネーションだと自分で感心した。


「皆さん!!階段は向こうです。」


倉澤さんは必死に逃げてきた人を階段に案内した。千草さんから鍵を受け取ると、鍵口に差込み、回した。すると扉は開いた。


「化け物が来た〜!!!」


俺は一目見たくて振り返った。


するとちょうど角を曲がっている巨体があった。

化け物の高さは3mくらいあり、天井に頭がついていた。右腕は太くムキムキで、先には三本の鋭くとがった巨大な爪が。一方、左腕は普通の人間と同じようだった。バランスを保つように、体を右に傾けながらこっちに近づいてくる。あの爪にやられたらおしまいだ。


しかし、意外と足は遅く、俺たちは無事、階段にたどり着き中へ入り扉を硬く閉めた。


中は、大型ショッピングセンターのような大きな階段で、外とミスマッチだった。何十段か行ったところで踊り場になっており、また下に向う階段が両側にあった。

この階はこの階段の一番頂上で、手すりと手すりの隙間から下が見渡せた。ここの隙間は1メートルくらいある。


俺は一瞬脚が竦んだ。空気が汚いのか一番下の階が見えなかった。それほど高いところにいて、これからその果てしない階段を下りていかなければならない。


「早く行くぞ!この扉もそれほど頑丈そうじゃないから、化け物が突破してくるかもしれない。ここは危険だ。」


「あれ・・・・?松尾さんは?」


俺は一人ここに存在しないことに気づき、古賀さんに尋ねた。

すると顔を俯かせ、ボリュームは小さいが、力を込めて言った。


「・・・・死んだ。さっき、あの化け物に・・・・・頭を薙ぎ払われたんだ!」


突然の宣告に頭の中が混乱した。


『松尾は・・死んだ・・・。』


その言葉が何度も頭を駆け巡る。

信じられない!俺はその光景を見ていないし、死亡を確認していない。古賀さんは冗談を・・・・・そんな顔はしていなかった。


松尾泰造(3?)12月31日午後10時45分 死亡


「後藤!!!」


後藤さんが目を覚ました。まだ完全に意識を取り戻したわけではないが、大事な一歩だ。これで出発できる。

後藤さんは意識を取り戻してすぐに言った。


「皆さん・・・・・・俺を置いて・・・・行ってください。」


全員固まった。集団行動をしていれば、いつかその言葉を聞くだろうと思ってはいたけれど、本当に聞くことになるとは思わなかった。


「そんなの駄目だ!・・・確かにお前は重症だが、生きている。最後まで俺たちと一緒に戦ってくれよ!!」


倉澤さんは泣きながらに必死に頼んだ。しかし後藤さんは表情を一切変えない。


「残念だが・・・できない・・・・お前らに・・・迷惑かけたくない・・・・。」


その時、扉を物凄い力で叩く音と共に扉が膨らんだ。やつだ。

俺たちを抹殺し終えるまで追ってくるのだろう。


「俺も残る。」


そう言って、兄貴の背中が軽くなった。


「さぁ・・・・みんな行け。この化け物は俺たちが止めを刺す。だから早く下へ逃げてくれ・・・頼む。」


倉澤さんはここから離れようとしない。


「みんな・・・行くぞ!・・・早く!」


多田さんはそういって階段に足を踏み入れたが、みんな行こうとはしなかった。当然だ。生きている人間を見殺しにはできない。ひょっとしたら、下の階で傷を治せるかもしれない。

すると多田さんはありえないことを言い始めた。


「お前ら死にたいのか!?・・・これから生き抜くには、犠牲者は必ず出る。今までだってもう何人も仲間が死んだじゃないか!?」


「でも・・・・仲間をおいていくなんてこと・・・できないわ。」


「こいつら自分からみんなのために死ぬことを志願したんだ。止めてやる必要がどこにある!?死にたいやつは死ねばいいんだよ!この中で他に、こいつらと同じ道をたどりたいなら残れ!!俺は行く!!」


「親父!それは言いすぎだ!!」


祥平さんが言うことなど聞く耳をもたず、おぼつかない足で一人、階段を下りていった。多田さんがそんなことを言うとは思ってもいなかった。俺は幻滅した。


「待てよ!」


倉澤さんは目をカッと開き、多田さんに背中を向けて言った。


「お前・・・今言ったこと・・・・本心か?」


多田さんは踊り場で立ち止まり、一瞬黙った。


「どうなんだよ!」


倉澤さんの罵声が階段を響き渡り、こだました。


「あぁ本心さ!だからなんだ!?俺は先を急ぐ。」


すると倉澤さんはホルスターから拳銃を取り出し、多田さんに銃口を向けた。

多田さんも初めは驚いていた。


「お前みたいな人間は死ぬべきだ!人の心をわかってやれないやつなんて。」


「やめろ!」


兄貴は銃を奪おうとしたが、あっさり避けられ、今度は兄貴に銃口が向けられた。


「あいつの味方をするなら、お前も撃つ!」


それを見た多田さんが拳銃を倉澤さんに向けて構えた。


「銃をおろせ!・・・山口は関係ないだろ!」


「警察官が死ぬ時は止めようとはしないのに、自衛官が死ぬ時はとめるのか?」


「それとこれとは違う!」


「違わない!」


鉄の扉はどんどん膨らんでくる。いつ破れてもおかしくない。それなのにこいつらは争いをやめない。すると後藤さんがホルスターから拳銃を取り出し自分の頭に構えた。


「やめろ・・・・倉澤・・・・そこまでするなら・・・俺は・・・自分で死ぬ・・・・・」


「何言ってんだ!?何でお前が死ぬ必要・・・」


「山口さんは死ぬ必要あるのか!?」


倉澤さんは黙ってしまった。


「行け・・・・行かないなら・・・・俺が・・・お前らを撃つ・・・・」


するとみんな階段を下り始めた。

俺はまだ下りられずにいた。絶対この二人が助かる道はあるはず、と思ってその道を頭の中で捜索していた。


「拓也・・・お前もだ。・・・・行かないなら・・・撃つ・・・・」


銃口を向けられると反射的に体が動かなくなってしまった。


「拓也・・・・・・・・行こう・・・・」


泣きながらそう言って、倉澤さんは俺の手を引っ張った。

一行は駆け足で下へと下りていく。俺がもう一度、二人の方を振り返ると、後藤さんが笑顔で親指を立てていた。


「みんな早く下へ!」


俺はあの二人が何をしようとしているのか、なぜそのために俺たちは下へと急いでいるのかわからなかった。


何度も踊り場で折り返して、目が回りそうだ。二人がいる頂上はすでに確認できなくなっていた。

その時、扉が突破される大きな音が聞こえた。その後に化け物の叫び声が。

一行は足を止め、上を見上げた。どんな様子かはまったく見えない。


「倉澤!!!ありがとう〜〜〜!!!!」


後藤さんの最後のメッセージと共に爆発音がし、階段が揺れた。上からがれきが落ちてくる。

俺たちは手すりから出していた顔を引っ込めた。上から落ちてくるものは瓦礫だけじゃなかった。肉片も落ちていた。

すると青い物体が手すりに引っかかり、俺たちの前に落ちた。


警察官の制帽だった。きっと後藤さんのものだ。他の警察官はこの緊急時、邪魔な帽子をどこかに捨てたが、後藤さんだけはずっと被っていた。

爆発によるものだろうか、ところどころ溶けていた。

俺はそっと倉澤さんに渡した。


「・・・・後藤・・・・ありがとう。」


そういって制帽を抱きしめ泣いた。

 

後藤巡査(24)午後10時49分 死亡

千草巡査(20)午後10時49分 死亡



「倉澤さん・・・・・・・・・行こう。」



俺は言った。本当はこのままで居させてあげたい。でも時間がない。


すると倉澤さんは、その原型が崩れた後藤さんの帽子を被った。


「すいません。時間とらせました。もう大丈夫です!俺の頭には後藤がついてくれていますから!」


そういって倉澤さんは笑って見せた。無理している笑顔ではない。本物だ。

俺たちにとってはただの帽子だが、倉澤さんにとっては大切な仲間の形見になった。


一行は再び下を目指し、階段を下りていった。



12月31日 午後10時57分 

        ミサイル発射、実験棟爆破まであと1時間03分

        生き残り 多田三等陸佐、山口士長、倉澤巡査、古賀巡査、多田巡査、三井田拓也、国東晴香、国東吾郎                      

    あと8人


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