第18話 ST研究所 東宿舎
前回から拓也を俺、山口さんを兄貴、と表現を変えています。
一行はLV.2エレベーター前廊下の十字路に立っていた。案内板は一切無い。『右』は、50mくらい行った所で右に曲がっていて、『直進』は、一直線に廊下があった。両脇には扉が一定の間隔で並んでいて、先は行き止まりのようだ。『左』は、『右』と同じように50mくらい行った所で右に直角にカーブしていた。
「こうなったら、手分けして下に通じる通路を探そう。その方が時間を短縮できる。」
冗談じゃない!俺は心の中でそう叫んだ。倉澤さんは知らないが、俺達は警察学校で二手に分かれたら捕まってしまった。もし、あの時、分かれていなかったら捕まっていなかったかもしれないのだ。
「私は嫌よ!」
国東さんはかたくなに拒んだ。俺も心の中で応援する。
「手分けして捜索って事はそれだけ殺されるリスクが大きくなるじゃない!私はこんなところで死にたくない!」
俺は『よく言ってやった!』と、心の中でガッツポーズしていた。
これに対して倉澤さんがどういう反応を見せるか、俺は倉澤さんの顔を見た。なんか怒っている!?目が怖かった。
「じゃあどうするんですか!!?全員でチンタラ捜索していたら俺たちは・・・、この日本は滅亡して、やがて世界も滅亡するかもしれないんだよ!!!」
倉澤さんだって怒鳴りたくて怒鳴ったわけじゃない。その証拠に目からは一筋の涙が流れていた。
俺は兄貴の腕時計を覘いた。9時12分。あと3時間をきった。その兄貴は、俺が時間を確認し終えると国東さんに寄って言った。
「倉澤の言う通りだ。」
国東さんは意地を張っているのか、兄貴と顔を合わそうとしない。
「別に国東さん一人になるわけじゃないですよ。」
国東さんは『そうなの!?』というような顔で兄貴を見た。
国東さんのその表情を見て、俺もどこか一人になるんじゃないか、という恐怖に襲われていたような気がした。
「ここにいるのは、警察官や自衛官や暴力団です。」
暴力団とは松尾のことだろう。松尾自身もその事に気いていた。
「おい!暴力団って誰のことだ!?」
兄貴は無視し話を続けた。
「確かにここにいる警察官は、まだ警察学校で学んでいる新米ですけど、この約8ヶ月間、厳しい訓練をやり抜いてきたやつらです。絶対に国東さんを守ってみせますよ。」
国東さんは納得したのか、ゆっくりと頷いた。
兄貴は笑って見せた。やっぱり兄貴はすげぇ〜!!
「・・・・皆さんどう分かれましょうか?」
俺は国東さんを説得した兄貴が輝いて見えた。本当に尊敬できる。そして本当に頼れる兄貴だと誇りに思えた。
数分話し合った結果、
多田さんと祥平さん、古賀さんを組に。
倉澤さんと山口さん、俺を組に。
後藤さんと松尾さん、国東家二人を組に
して分かれるように決まった。
「じゃあ連絡はこの無線で。通路が見つかったらすぐに連絡を。」
そしてグループごとに別々の道を行った。
俺たちは右の通路を進んだ。
銃を構え慎重にまずは50m先の突き当りを目指す。倉澤さん先頭に、俺、兄貴と並んだ。緊張で手汗をかいて銃が滑って落ちそうだ。銃を握っただけでこんなことになるなんて、警察官になれないなと思った。
もう三歩くらいで角のところで壁に沿い音を立てず素早く動いた。
「いいか拓也。ゾンビがいたら、迷わずさっき練習したようにやるんだぞ。」
俺は素早く頷いた。
「山口さんもいいですか?」
兄貴は親指をたて合図をした。
「3、2、1・・GO!!」
倉澤さんが先に勢いよく角を曲がり、俺と兄貴は後に続いた。
曲がると、そこは扉が左右対称に、一定の間隔で並べられた廊下になっていた。今までより少し廊下の幅が広くなった。『直進』の廊下とよく似ている。
ゾンビがいなかったため、三人は肩を落とし、ため息をついた。
「なんか疲れますね。ただ角を曲がるだけで。」
倉澤さんがひざに手をつきながらそう呟いた。
「それは、自分の命がかかっているからな。その分、力んでしまうだろ。」
「それはさておき、山口さん。どうします?手分けして一部屋ずつ捜索しますか?」
「そうだな。」
今度は絶対に嫌だった。この三人で手分けするっていうことは、一人になるってことを意味している。俺はまともに銃を撃てないのに・・・。倉澤さんに反対しようと口を開けた瞬間、兄貴が横で喋ってきた。
「・・・・・俺ちょっと目を負傷しているから、拓也と組んでいいか?」
「あ、そうですね。その方がいいかもしれません。じゃあ僕は奥から捜索するので、山口さんと拓也はここからお願いします。」
「了解!!」
そう言って倉澤さんは奥へ進んでいった。
それを確認すると兄貴は俺の顔を見て笑ってきた。
「お前、心の中で反対していただろ。」
俺はドキッとした。兄貴は俺のことをお見通しだった。
「顔に出ていたぞ。お前、昔とぜんぜん変わらないなぁ。」
そんな感じで俺達はまず右の部屋を捜索することにした。よく見ると上には部屋名が書かれていた。
『作業員宿舎1』
1と名づけられているという事は。そう思い反対側の扉の上を見ると、
『作業員宿舎2』
と書かれてあった。やはり思った通りだ。
「じゃあ拓也。銃を扉の方に向けて構えて。今から俺がこの扉開けるから、中からゾンビが出てきたら撃てよ。わかったか?」
俺は汗で濡れた手を震わせながら頷いた。今にも落としそうだった。
見かねた兄貴は一旦作戦を中断した。
「お前、深呼吸しろ!いいか、吸って〜〜。吐いて〜〜。・・・・・」
五回くらいすると、自分で心拍数が下がっていくのが分かった。よっぽど緊張していたのだろう。
「もう大丈夫。行こう!」
「じゃあいくぞ。3、2、1・・・GO!」
「わぁあああああああああああああ!!!!!?」
俺は思わず叫んでしまった。倉澤さんが心配して駆けつけてきた。
「大丈夫か!?!?・・・どうした!?!?!?」
事情を兄貴が説明すると、笑いながら俺の肩をたたき、倉澤さんは持ち場に帰った。
「お前、大丈夫か?次からお前が扉を開けろ。」
初めからそうして欲しかった。
20畳くらいの『作業員宿舎1』の中は二段ベッドが左右に二つずつ並べられ、奥には机が人数分あった。8人で暮らすにはちょっと狭いように感じる。人はいなかった。
ベッド、机とも異変は無く普通の状態だった。
結局何も手がかりになりそうな物は無くその場を去った。
廊下に出て倉澤さんの状況を確認しようと、奥の方を見るともう三つ目の部屋に入ろうとしていた。
「俺ら遅くない?」
「なら早く次、行くぞ!」
その調子で『作業員宿舎』を捜索した。
結局10まであって、終わったのが9時半を回っていた。
そして次の部屋からは『特殊部隊宿舎』だ。倉澤さんはもうこのゾーンに入っている。
俺達も負けじと扉の前にたった。
「じゃあいくよ。3,2,1・・・GO!!!」
開けた瞬間、鉄の臭いが俺の鼻をつついた。
今までとは違う。
「拓也、お前は来るな。絶対に中を見るんじゃないぞ!」
そう言われると見たくなるのが人間だ。俺は恐る恐る扉から顔を出した。
「うっ!!」
俺は見た瞬間、吐きそうになり顔を下に向けると、ノブをしっかりと握る手が!腕だけがぶらさがっていた。その直下には血の池ができていた。未だに傷口からは血が不気味にポタポタ滴り落ちていた。襲われてまだ時間がそれほど経っていないのか?もし、そうだとしたら俺たちがここにいる事は危険じゃないか?
「見るなと言っただろ!!!」
俺の咄嗟に出た声に反応して兄貴がこちらを睨みつけていた。
中のレイアウトは『作業員宿舎』とあまり変わらなかったが、状態がやばかった。
まずドアノブには右腕、肩から下のみがぶら下がっていた。そしてその近くには、その手の持ち主と思われる死体が。右腕は無く、胴体の部分は装備している防弾チョッキごと引っ掻かれていた。深い傷が三本残っている。左手には家族と思われる三人の写真が握られていた。写真には女の人と、警察官の格好をしたおまわりさん、あとその二人の子供と思われる人物が、笑顔でこっちを見ていた。どうやらこの人は警察官らしい。顔はガスマスクによって隠れているため、写真の人物と本当に同じかは分からないが・・・・。
他にも7人の死体があった。おそらくこの部屋の人達だろう。
布団をかぶったまま血だらけで死んでいる人、防弾チョッキを装着しようとして死んだのか、防弾チョッキを持って死んでいる人、体が完全に分裂している人など、見ていられない死体で埋められていた。
着替える途中で殺された人が多いこと事から、どうやら夜から朝にかけて襲われたらしい。
兄貴は床に落ちていた、血に染まった本みたいなのを取り上げた。表には何も書いてなく、裏に『千草祥平』と名前が書かれていた。
俺も覗き込み、兄貴は中身を広げた。
12月31日 午後10時00分
ミサイル発射まであと2時間00分
生き残り 多田三等陸佐、山口士長、倉澤巡査、後藤巡査、古賀巡査、多田巡査、三井田拓也、松尾泰造、国東晴香、国東吾郎
あと10人
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