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第16話 約束

山口さんは涙を拭うと、拓也の両肩に手を置き一方的に突き放した。


「いつまでも泣くんじゃない!早くしないとお前の本当の親父に会えなくなってしまうぞ。」


初めは突き放され戸惑いを感じたが、拓也は涙を拭い頷くと、ニコリと顔に笑みを浮かべた。

今年の夏、高校野球の地区大会で負けたとき以来に泣いた。その事を思い出し始めると同時に仲間のことが気になった。今どこでどうしているのだろうか。俺たちと同じように見えない逃げ場所に逃げようとしているのか。


「皆さんも、もう泣くのをやめてください。早くしないと自分たちまで死にますよ。天国に行った仲間のためにも、早くミサイルを止めて奴らを倒さないと・・・。」


山口さんの言葉でみんな、自分たちに与えられた使命に気づくと、泣くのを止め、武器を集めることにした。

警官一人一人のホルスターから拳銃を取り出し集めた。ほとんどの死体に大きな爪跡が残されていた。顔を背けながら、一丁ずつ集め回った。

そして集まった拳銃はおよそ50丁。弾切れ、使えない物をのけると20丁残った。


「一人2丁ずつ携帯しよう。・・・あれ・・・国東さんは?」


そういえば野上さんと、中山さんが殺されて体育館から出て行ったまま戻ってきていない!外に出て見渡すがどこにもいる気配がない。


「じゃあ俺が行きます。村岡も行こうぜ。一人じゃちょっと心細いから。・・・あっ、でもお前足が。」


「気にするな!片足でも歩ける。」


村岡さんが急に拓也の方を向いて言ってきた。


「そういえば一つ聞きたいことがあったんだ。」


「おまえ、拓也っていったよな。しかも崎野交番の近くに住んでいるとか?」


拓也は頷きながら、自分は警察沙汰になる事をしただろうか。と、頭の中を必死に探し回った。


「もしかして、崎野高校のピッチャーか!?今年県大会で準優勝だった。」


「はい・・・そうですけど。」


なんだ、そんな事か。驚かすなよ。と心の中でつぶやくと村岡さんが片足で跳ねながら急に近づいてきた。

えっ俺が思っていること読まれた!?そんなことを考え始めた。


そして村岡さんは拓也の両肩をつかむと満面の笑みで言ってきた。


「俺も崎野高校で野球やっていたんだ!俺はキャッチャーだった。テレビで応援していたぜ!」


一時はこれから自分の何があばかれるのか不安だったが、この言葉を聞いてうれしくなった。知人だけでなく、他人が応援してくれていたということを実感したからだ。


「村岡さんは何年前に夏大でたんですか?」


「うん〜と・・・・・今25だから、7,8年前?かな。」


7,8年前・・・・、崎野高校・・・・、村岡・・・・!!!!

単語を整理していると村岡さんが何者か思い出した。


「もしかして村岡さんって県大会の決勝で逆転ホームランを打った!?」


「あぁ、もしかして俺の事知っているの!?」


「当然ですよ!テレビでも見ていたし、監督から何度も聞きました。あいつのバッティングはすごいって。本当尊敬していました。」


「本当か!?なんかうれしいな・・・。」


急に顔が赤くなった。村岡さんは照れている。


「・・・・それでお願いがあるんだけど、あとでお前の球、俺に受けさせてくれねぇか?」


県大会の決勝戦のことで未だに立ち直れず、落ち込んでいた拓也はちょっぴりうれしかった。


「喜んで!」


「じゃああとでな。約束だぞ!」


二人は約束を交わし、握手をした。

古賀さんと村岡さんはさっき入ってきた、体育館の出入口に向かった。

同僚達の痛ましい死体をなるべく直視しないように慎重に向かった。


「ちょっと待て。」


二人がちょうど出入口の階段をおりかけた時、山口さんが拳銃2丁を投げ渡した。

うまくキャッチすると真顔で山口さんは言った。


「絶対に死ぬなよ。」


「俺は約束を破るやつじゃないよ。」


二人は笑顔で敬礼すると駆け足で5段くらいしかない階段を下りて、倉庫の方へ消えた。




とりあえず、今いる全員に2丁ずつ渡された。

拓也は拳銃に触れた瞬間、鳥肌が立った。予想以上に重く冷たかった。これを使うことで簡単に人が殺せると思うと、恐ろしくて、両手で受け取ったまま固まってしまった。


「あっ!!!・・・わりぃ・・・・お前高校生って事をすっかり忘れていた。」


倉澤さんは頭の後ろをかきながら言った。

それから警察官3人による集中講座が行われた。







古賀さんと村岡さんは武道場周辺をくまなく探した。でもどこにも居なかった。


「校舎の方に行くか。」


体育館の裏を通り、校舎へと向かった。


すると食堂らしき建物が見えてきた。外見は建って1年もたっていない様な感じだった。

一階建てだがかなり広い。正面の入口の前まで来るとそう思った。

正面の入口からは直線状に渡り廊下が通されていて、体育館と校舎を結ぶ渡り廊下と直結しているようだった。木がたくさん植えてあり、確認することはできなかった。


「中に行くか。」


さっきもらった銃をホルスターから取り出し、いつでも撃てるように構えた。


「行くぞ。」


数を数え、一気に突入した。銃口を自分たちの周辺に向け、敵が居ないか警戒したがどうやら居ないようだ。でも油断は禁物だ。縦長のテーブルによって遮られてできている通路を慎重に歩いた。向かう先は調理場。


冬なのにもかかわらず汗がたれてきた。でもほとんど感じなかった。周りに意識が集中していたからだ。


ちょうど中央に差し掛かった。あともう半分。古賀さんは右足を前へ出した。

すると突然、テーブルから出てきた手にその右足がつかまれた。


「わっ!!!」


驚いてつい、声を出してしまった。


「私です。国東です。」


「えっ!?国東さんですか!?」


すると、調理場の方から音がした。二人はすぐ屈んだ。


「早くテーブルの下へ。」


床から5cmくらいのところまであるテーブルクロスをめくり、中へ入った。

中には吾郎がおびえて体を震わせていた。子供好きな村岡さんは床を這いずり、すぐ近寄って、体を摩った。


「吾郎君。大丈夫だからね。おまわりさんが守ってあげるから。」


「・・・・う・・うん。」


そういいながらも、村岡さん自信おびえていた。


「なんでここに隠れているんですか?」


古賀さんが国東さんに聞いた。


「初めは倉庫の裏に居たんですけど、出刃包丁を持ったおじさんが突然襲ってきたんです。それでここに。そのおじさんもこの中に入ってきて・・・今、調理場の方にいます・・・たぶん・・・。」


「今、ここに居るんですか!?!?・・・バレなくてよかった。」


「いや、たぶんバレていますよ。どこに隠れているのかは知らないと思いますが。」


するとそれを証明するかのように足音が近づいてきた。どうやら長靴を履いているらしい。ゴムのキュッキュッという音が聞こえた。


そして5cmの隙間からは黒い長靴が足首のへんまで見えた。


ついに横にその足が来た。でも止まることなく通り過ぎて行った。どうやら気づいていないらしい。そのまま外へ出て行った。


周りにもう居ないか、顔を床に近づけ隙間から見渡した。誰もいない。

ようやく狭い場所から開放された。


「さて、国東さん体育館に戻りましょう。みんな待っていますよ。」


そして、調理場よりに立っていた村岡さんにも言おうとして振り返ったとき、村岡さんの後ろには白く首から血を流している警察官がいた。


「村岡伏せろ!」


でももう遅かった。


「うわぁああああああ!!!!」


そのゾンビは勢いよく村岡さんの首に噛み付いた。首からは赤い血液が溢れ出た。片足で全体重を支えていたためすぐに押し倒された。

咄嗟に古賀さんは銃を構えるが村岡さんに誤って当たる可能性があるため撃つことができない!


「古賀・・・後ろ・・・」


かすれた声で言った言葉を聞き、銃を構えたまま振り返ると、出刃包丁を持って長靴を履いたおっさんがいた。やつは国東さんから5mくらい離れた場所に、ニヤリと笑みを浮かべながら包丁を構えていた。


『パァーン』


銃弾は見事、眉間を貫きおっさんは床に倒れた。


『パァーン』


振り返り、銃口をゾンビの頭につけて撃った。

ゾンビは崩れた。村岡さんは体を震わせながら必死に生きようとしていた。


「村岡!!!しっかりしろ!!」


「おまわりさん・・・死なないでよ。僕を守ってよ。」


三人は泣きながら村岡さんの周りに寄った。


「ゴメンな・・・吾郎君。おまわりさん、約束果たせなくて・・・。」


吾郎は首を横に振った。


村岡さんは震える手で内ポケットから何か出した。

ルーズリーフを四つ折にした物と野球ボールだった。国東さんは手をのばし受け取った。ボールは古賀さんが受け取った。


「古賀・・・拓也にこれを・・・俺の代わりに・・・謝ってくれ・・・・。」


「・・・・・」


古賀さんが大粒の涙を流しながら頷くと、村岡さんは吐血しだした。

最後の力を振り絞り、口を動かした。


「古賀・・・・今までありがと・・・な・・・・。」


村岡巡査(25)午後7時59分 死亡


「むらおかぁあああ〜〜!!!!!!」







『パァーン』


拓也だいぶうまくなってきたな。山口さんはそう言って腕時計を見た。7時59分。

もう二人が体育館を出て20分経ったがまだ戻ってこない。外はすっかり暗くなりほとんど周りは見えない状況だった。唯一の光は、山口さんが持っていた懐中電灯だけだった。


「山口さん、心配しなくてもみんなきっと無事ですよ。」


「そ、そうだな・・・・。」


すると拓也の言った通り、国東さんと吾郎が手をつないでやって来た。


「国東さん!!どこに居たんですか!?あと二人は・・・?」


暗闇から制帽と黒の手帳を慰霊の様に抱きしめ俯きながら、古賀さんが力が抜けたように足を引きずり現れた。

両目からは涙が溢れ、一粒一粒落ちていく涙が持っている制帽にしみこんでいた。


「ごめんなさい。私のせいで・・・村岡さんが・・・。」


体育館にいた者はすぐに察知した。村岡巡査は・・・・殺されたと・・・。

拓也の頭にはあの時交わした握手が映し出された。


「嘘だ・・・そんなの嘘だ!!!」


「嘘じゃない!!!」


泣いていた古賀さんができる限り大きな声で言った。


『じゃああとでな。約束だぞ!』


拓也の頭の中で何度もこの言葉がめぐる。


「二人で野球するって・・・約束したじゃないか!!それなのに・・・・・・。」


古賀さんは、涙流す拓也めがけて血のついた硬球を転がした。血が床に軌跡を残しながら拓也の足元で止まった。

涙を拭い右手でキャッチした。何か黒字で書いてある。


『20XX年第90回夏の高校野球若山県大会 逆転ホームラン!!』


と、硬球に書いてあった。

古賀さんはいつの間に拓也の隣にいて、抱きしめていた帽子を拓也の頭に被せた。


「そのボールな・・・お前にやるってさ。あいつ・・・・いつも言っていたんだ。」

「俺のこの大切なボールを、いつか結婚して子供ができたらそいつに託すってずっと言っていた。・・・・・でも・・・・・・・結局最後までできなかった・・・・・・。だから・・・約束破ったお詫びとして・・・・・やるって・・・。お前は俺にとって息子のようだった・・・って。絶対無くすなよ。」


一旦は止まった涙がまた流れた。


「お詫びって何だよ!!こんなんじゃお詫びになんねぇよ!!」


「村岡さん・・・戻ってきてくれよ!!!」


悔し涙を流した。もしあの時、一緒に行こうとする村岡さんを止めておけば、死んでいなかったのかもしれない。俺が代わりに行っていれば・・・。過去のことを何度穿り返しても何も変わらない。村岡さんの命は戻ってこない。拓也はただその壁にぶつかっていた。全員同じだった。

血のついた硬球は拓也の涙で流され輝いた。


『拓也、天国でお前とキャッチボールするのを楽しみにしているからな。それまでの命大事にして練習しておけよ。じゃあ、向こうで待っているからな。』


拓也にはそう心の中で聞こえた。


12月31日午後8時19分

      ミサイル発射まであと3時間41分

         生き残り 多田三等陸佐、山口士長、倉澤巡査、後藤巡査、古賀巡査、多田巡査、三井田拓也、松尾泰造、国東晴香、国東吾郎

                          あと10人



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