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第15話 ST3-T実験体

歩くたびに舞い上がる乾いた土埃が、最後尾にいた拓也と山口さん、多田さんにしつこく攻撃した。目をできるだけ細めて歩くがそれでも入ってくる。

しばらく歩くと武道場と体育館を結ぶ100mくらいの渡り廊下のちょうど中間に差し掛かった。やっと三人は土埃から解放される。ホッと安心して廊下に向かおうとすると、拓也は前を歩いていた人にぶつかった。

ゆっくりと顔を上げると、そこは目を大きく開け、驚いた顔をしている倉澤さんだった。何を見ているのか、三人もみんなが見つめる体育館の方へと目をやった。


そこには地獄の景色があった。

体育館の重い引き戸は片方が全開で、一人の警察官が閉まっている方の扉にすがり、何度も派手に吐血していた。その血が階段をゆっくりと伝わり地面にしみこむ。

その人だけではない。中にも見る限り、5,6人が血だらけの床に倒れていた。

銃声が何度も鳴り響いては、人の悲鳴が響いていた。


「嘘だろ・・・・。」


急いで皆中へ突入した。後ろについていた拓也は、扉のところにすがっている警察官に話しかけた。山口さんと多田さんも寄ってくる。


「大丈夫ですか!?!?ここで何があったんですか!?!?」


吐血が一旦止まると血が喉に詰まっているせいか、苦しそうに返してきた。


「もう終わりだ・・・・」


赤黒い血が再び、口から流れ出した。多田さんは足を引きずりながら階段を上り、その人の背中を摩っている。

そしてまた止まった。


「笹見が・・・」


「おまえら逃げろ!!!」


突然倉澤さんが叫んだ!山口さんはずば抜けた反射神経で何が襲ってくるのか自分でも分からないまま、無我夢中で拓也に飛びかかった。

地面に二人が倒れこみ土埃が高く舞う。急いで扉の方を振り返った。


土埃が次第に薄くなってくるとそこには、さっきまでかろうじて生きていた警察官の胸に巨大なトゲらしきものが刺さっていた。死んでいた。

そして拓也の隣には、うつ伏せになって倒れている多田さんがいた。どうやら逃げ遅れたらしい。

それを見た祥平さんは直ぐに駆け寄った。


「オヤジ!!しっかりしろよ!!」


体を摩っても起きない。息をしていなかった。


中からは、止んでいた罵声と銃声が再び聞こえ出した。発砲されるごとに、人間の悲鳴と化け物のような悲鳴が体育館に響き渡っていた。


「オヤジ!今助けてやるからな!」


祥平さんは多田さんの体を仰向けにし、胸に手を当て、心臓マッサージを始めた。


その時、トゲが中に引っ込み、扉と警察官の遺体は中へと飛ばされ、体育館の全貌が明らかになった。そのトゲの持ち主は3m近くある化け物で真ん中にいた。

右手はさっきのトゲが三本。手のようになっていて、左手は普通の人間の手が白くなった感じだった。体も白いが全身ムキムキで力の強さを見せつけられた。顔は・・・・なんと高橋だった!!!

一人の逃げた警察官を殺し、俺たちを体育館に連行したあの高橋だった。顔と体の比率があっていない。そいつはしばらくこっちをじっと睨むと、ニヤリと、滝ノ下のような不気味な笑みを浮かべた。


「お前ら・・・に止める事はできない。作戦司令室までたどり着けないまま、俺に殺されるんだからなぁ、ふふふっ。」


倉澤さんは同じ教場だった高橋の姿を見てうろたえたが、気を取り直し、なぜか、土下座した。


「一つ教えてもらいたいことがあるんだ!」


「何だ、急に態度を変えて。お前がよくいじめていた俺に土下座か!変わったなぁ、ふふふっ。それで、なんだ!?」


「作戦司令室はどこにあるのか教え・・・てください。」


「ふふふっ。いいだろう、教えてやろう。作戦司令室は第三校舎のLV.4にある。そこに行くには笹見教官の部屋に行くんだな。そうすれば分かる。」


「ありがとう。助かった。」


「助かった?俺をタオシテカライイナ!」


すると倉澤さんの隣にいた野上さんと中山さんの体をさっきの太いトゲが貫いた。


「キャアアア!!!!」


国東さんは吾郎の目を咄嗟に隠し外へと出た。

高橋は直径30cmくらいの巨大なトゲに、もがき苦しむ中山さんと力が抜けたようでまったく動かない野上さんを刺したまま、2階の高さまで上げた。


「ジャマダ!!!!」


そう言うと右手を振り払い二人とも二階の手すりにぶつかり、そこから地面に叩きつけられた。

何人か周りにいた同僚が駆けつけたが二人とも死んでいた。


野上巡査(20)午後7時05分 死亡

中山巡査(24)午後7時06分 死亡


高橋を睨みつけると、同僚の一人が拳銃を構え・・・


『パァーン!!』


銃弾は頭に当たった。が、まだ生きている!滝ノ下の話を聞いた者は知っていたが、体育館で操られていた者は一切、脅威の薬について知らない。

なぜ死なないのか!?そう自分に問いかけ、銃を構えたまま固まっている。


「ムダダト、イッタダロ!!!」


『グシャッ!』


その警察官は高橋の50cmくらいの巨大な足で蹴り飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。勢いよく血が飛び散り、20mくらい離れていた拓也たちにまで飛んできた。


「よくも、高橋!!!」


警察官たちは必死に応戦するが、高橋には銃弾は蚊のようにしか思えていない。

何も分からないまま、ただ必死に自分を守るため、仲間を守るために戦ったが・・・


「・・・・ぎゃぁあああ!!!!」


「・・・・助けてぇええ!!!!」


50人近くいた警察官は、あっという間に全員殺られた。

最後の一人の頭を踏み潰し、高橋は雄叫びをあげた。


倉澤さんが何もできず立っていると、近くにいた一人の警察官が瀕死状態で足をつかんできた。


「人間の・・・血を・・・・あいつに・・・・心臓に・・・・撃て・」


その言葉だけを告げ、その警察官は死んだ。

すぐさま祥平のところに行き矢を奪ってきた。

そして自分の手のひらを矢の先で切り、にじみ出てきた血液に浸した。


ちょうどその頃、雄叫びをやめ、『次はお前らだ』という目でこっちを見てきた。

倉澤さんは弓を構え、力強く弦を引っ張った。


「死ぬのはお前だ!!!!」


放たれた矢は勢いよく、高橋の心臓に突き刺さった。


「ソンナモノ・・・・うっ・・・胸が!!体が!!!!痛い!!!!」


突き刺さった矢を抜き出し、のたうちまわっていた。何が起こっているのか、矢を放った倉澤さんも分からない。ただこの同僚の言うことを信じ、やった。


しばらくすると高橋の体が動かなくなった。


仰向けに倒れた巨体に、恐る恐る、倉澤さんと後藤さんは近づく。床にできた血の海を渡っている音だけが体育館に響く。


そして巨体の心臓に手をやった。・・・・動いていない。


「大丈夫・・・死んでいる。」


みんなホッとし、床に倒れこんだ。


「みんな・・・やった・・・か?」


扉から、息子の肩に手をかけ多田さんがゆっくりと出てきた。


「多田さん・・・!もう終わった・・・。」


しかし、多田さんは素直に喜べなかった。多くの警察官が床に倒れたまま死んでいたからだ。


「こんなにも・・・。」


すると急に祥平を離れ一人で歩き出した。しかし、痛みからか途中で倒れた。


「オヤ・・ジ・・・・何をするんだ!まだ直ったわけじゃないんだぞ!!!」


その言葉は多田さんの耳には届かなかった。床を這いつくばり、必死に向かった先は高橋のところだった。

多田さんはそばに落ちていた矢を手に、巨体にのしかかりそれを高橋に刺し始めた。


「くそ!!!返せ!こいつらの人生を返せ!!」


次第に多田さんの目から涙が溢れ出てきた。


「俺たちの人生を・・・!!!!」


途中で泣き崩れた。倉澤さんと後藤さん、祥平さん、古賀さん、村岡さんも同僚の前で泣き崩れた。

拓也も涙が出てきて、思わず近くにいた山口さんに抱きついた。その瞬間今まで溜まっていた感情の貯まったダムが決壊し、涙が止まらなくなった。山口さんも泣きながらそっと、拓也の坊主頭を撫でた。


「拓也、さっき泣いたのにまた泣くのか。」


「・・・だって・・・なんかさっきから誰かが消えていって、俺も消えるのかって思ったら・・・怖い・・・。」


「おい、さっき言っただろ。今のお前の親父は俺だって。だから俺が絶対守るって。だから心配するな。それにお前、男だろ。」


「・・・父さん・・・・。」


拓也は山口さんの事が本当の父親のように見えてきていた。

山口さんはその言葉を聞き、まだ会っていない、こないだ生まれたばかりの自分の子供のことを思い、涙が止まらなくなった。




午後7時31分 

     ミサイル発射まで、あと4時間29分

          生き残り 多田三等陸佐 山口士長、倉澤巡査、後藤巡査、村岡巡査、古賀巡査、多田巡査、三井田拓也、松尾泰造、国東晴香、国東吾郎

                          あと11人


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