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第14話 ST2の効果

「滝ノ下次郎・・・!?!?」


拓也はあいた口がふさがらなかった。顔は初めに交番であった滝ノ下さんとどこが違うのか分からないほど似ていた。


「動揺を隠せないようだね、拓也。お前が交番で寝ているとき、何が起こっていたか知らないだろう?」


ふと、拓也は本物の滝ノ下さんはどこへ行ったのか、なぜ入れ替わったのか疑問に思った。


「滝ノ下さんは今どこに!?!?」


「あいつは今実験室にいる。ちょうど今ST2体内に投与しているところだ。もうあの滝ノ下は戻ってこないよ。ふふふふっ。」


その話をしていると、後ろから一人の警官が、二人の警官に腕を抱えられ登場した。

二人の警官の胸の名札にはそれぞれ『村岡』、『古賀』と、そして腕を抱えられ連れて来られた警官の胸の名札にはしっかりと『多田』と刻まれていた。


祥平さんは、ぐったりと疲れた様子で、自力で歩くことのないまま二人まかせに足を引きずられてやってきた。濡れていたのだろうか、引きずっている黒の革靴に乾いた土が表面を覆うように付着していた。

古賀さんと村岡さんは、滝ノ下の横に辿り着くとゆっくりと祥平を地面に降ろすと、姿勢を正し滝ノ下にそろって敬礼した。


「お、ご苦労。下がってよし。

・・・どうだ?多田。これで信じただろう。これがお前のバカ息子だよ!」


滝ノ下は多田さん殺せなかったせいで腹の虫が治まっていないのか、思いっきり右足で祥平さんを蹴り飛ばした。

ST2の効果はすごかった。体重60kg以上はある体を10m近く飛ばしたのだ。体は地面から1mくらい上がり、地面に叩きつけられ、何mか転がった。そして、痛みこらえるかのように体を縮めて丸まった。思わず多田さんは立ち上がった。矢が刺さっていたこと忘れていた多田さんは、激痛に耐えながら苦しい表情で叫んだ。


「大丈夫か祥平!!!」


すると左手を支えによろよろと立ち上がった。その左手はつき方が悪かったせいだろうか、人差し指が90度親指の方に折れていた。その指を右手全体で握って深呼吸をすると、無理やり指を正した。一瞬だがその痛みはすごいらしく、ライオンのように叫んだ。祥平さんはゆっくりと多田さんの方向に体を向けて顔を上げ、黒く澄んでいて、力がある目で父親を見つめた。

多田さんは確信した。こいつは最愛の息子、祥平であると。

ゆっくりと一歩ずつ息子に近づいて行った。その度に土埃が軽く舞う。あともうちょっと。その時、多田さんに再び痛みが体を走り抜けた。矢が刺さっている足でない方の足に矢が刺さっていた。ゆっくりと矢の見えない軌跡を辿っていくとそこには、ニヤリと不気味に微笑みながら弓を持っている滝ノ下がいた。すると急に痛みが襲い、地面に倒れこんだ。


「父さん!!」


警察官らしい凛々しい声。最初に聞いた祥平さんの声だった。急いで多田さんのもとに駆け込んだ。祥平さんの視線の先には矢が刺さったところから血が噴出していた。その部分を祥平さんは手で押さえた。どうか血が止まるようにと。


「痛そう。血、止まらないね。いっその事このまま逝ってしまえば。」


滝ノ下のその言葉を殺すかのように、ものすごい目で睨みつけた。さすがの滝ノ下も初めは後ずさりしたが、悪の強い黒い心でかき消した。


「おい。何ぼやっとしているんだ。この裏切り者の頭を飛ばせ。」


「し、しかし・・仲間を撃つというのは」


『ドォーン!!』


村岡巡査が言った瞬間、重そうな音と共に右足の膝から下が、銃弾にもっていかれた。

「うわぁあああ!!!足がぁあああ!!足がぁあああ!!」


ST2を打ったはずの村岡は、なぜか普通の人と同じように痛がっている。

足からは多田さんの数十倍もの血液がドクドクと地面に流れ、村岡巡査の顔はどんどん青ざめていった。


「村岡!!今待っておけ、血を止めてやる。だから目を閉じるなよ!!」


警察学校に入って習った手足が切断されたときの応急処置。まさか使うことになるとは思ってもみなかった。それも入校中に・・・。


古賀は上着を脱ぎ捨て、白のワイシャツを思いっきり引っ張って裂いた。それを太ももに思いっきりくくり、血液の流れを止る。そして腕時計を出し時間を確認する。


冷静で素早い行動に、皆、応急処置に見入った。


「今6時27分だから・・・7時か。」


そういうと腕時計のタイマーをセットした。


「どいつもこいつも足引っ張りやがって・・・。こいつの変わりに古賀!お前殺れ。」


「滝ノ下教官。もうやめましょうよ。この人たちを殺して何になるんですか?」


「古賀。お前いい度胸だな。俺に逆らうとは。俺はお前に命令しているんだ。上司の命令は絶対だと習わなかったのか?」


「習いました。でも、俺にはできません。仲間を殺すなんて事・・・。」


「もう仲間を食い殺したじゃねぇか。」


それを言われ、もう反発することができなくしてしまった。そして悔しい表情を浮かべ、銃を地面に叩きつけた。


「本当はそんなつもりなかったんだ!自分でも何がなんだかわからなかった。気がついたら、目の前に血だらけの卜部がいて、卜部の肉を食べていた。すぐやめようとしたが、体が止まらなかった。そこからまた記憶が消えて、気がついたらここにいた・・・。」


「都合のいい事言うな!どうせ演じているんだろ!本当は、今、俺たちが食べたくてしょうがないんだろ!おい!何とか言ったらどうなんだよ。」


倉澤巡査は古賀巡査の襟をつかみ、怒鳴った。


「古賀の言っているのは本当だよ、倉澤。」


またしても不気味な笑みを浮かべていた。


「ST2は脳に作用して記憶を奪い、ロボットのように動かせる。原因は分かっていないが・・・。しかし今回、学生たちにはST2を薄めたもの打った。ちょうど今だけ俺たちに服従させておきたかったからな。残念ながら、古賀と村岡、多田は、もう消滅してしまったようだな。」


滝ノ下は再びショットガンを古賀巡査に向け、構えた。


「不服従者となったお前らにもう用は無い。消えな、古賀。」


ちょうど引き金を引こうとした時、放送のスイッチが入った。

滝ノ下の手は止まり、スピーカーの方に視線を移動させた。


そこからは、拓也たちが体育館で聞いたのと同じ、人間を食う音が響いていた。

そして微かに聞こえてくる。


「にげろぉ・・・・はやく」


『グサッ』


「ヨケイナコトヲイウナ!」


テレビでよくある、男性の声にモザイクをかけたような声で言ってきた。

誰なのかは一切わからない。


「タキノシタ!ハヤクコイ!ハジメルゾ!」


そういい終わるとスイッチが切れた。

滝ノ下は舌打ちをした後、急に悪魔のように笑い始めた。


「始まったか・・・。ようやく仕上げに取り掛かれる。君たちは精々がんばってくれ。俺はここでさらばだ。ふふふっ。」


そういい残すと、体育館の方へと急ぎ足で行った。しかし途中で立ち止まる。


「いい事を教えてやろう。5時間12分後ミサイルが本州、九州、四国、北海道に向けて発射される。ST2の事を知らせていない国に知られたくないからな。止めたければLV.4の作戦司令室の機械をシャットダウンさせるんだな。ま、君たちには無理だと思うが。ふふふっ。

あともう一つ。拓也、三郎のことをオヤジのように思っていたといったが、お前の母親と離婚したお前の父親は・・・・・三郎だ。・・・じゃあな。」


拓也は固まった。小学校入学した時、なぜ自分に父親がいないのか尋ねると、交通事故で死んだと言われた。しかし本当は家から5分もかからない交番に、父親は市民を守る警察官としてしっかりと生きていた。

そしてその父親は今、あの化け物の仲間になろうとしている。もしかしたら、もうなっていて町に出され、市民を襲っているかもしれない。想像していると気分が悪くなって嘔吐した。


そこに山口さんが、矢が刺さった右目に右手を当てながら近づいてきて、拓也の背中を左手で摩った。その手はとても温かだった。


「拓也。全部吐いてしまえ。そしたらちょっとは楽になるかもしれない。・・・心配しなくてもきっと大丈夫さ。お前の今の親は俺だ。ちょっと若いけど。何があってもお前を守ってやるから。絶対に父親に会わせてやるから。」


拓也は嬉しくて涙が止まらなかった。


「LV.4の作戦司令室ってどこにあるんだ、倉澤。」


松尾が聞いたが、倉澤巡査はそのような場所を見たことも、聞いたことも無かった。


「きっと作戦指令室があるところに、拓也の本当の父親がいるはずだ。まずは体育館に行ってみよう。ひょっとしたら古賀と村岡と同じように、人間に戻ったやつがいるかもしれない。」



拓也はゆっくりと頷き立ち上がった。


山口さんも目に矢が刺さったまま自力で立ち上がった。


「多田さん・・・いきましょう・・・。」


拓也、松尾、多田さん、山口さん、国東さん、とその息子、吾郎、倉澤巡査、後藤巡査、野上巡査、中山巡査、多田巡査、古賀巡査、村岡巡査、この13人は、死んだ大口巡査に別れを告げ、体育館へと向かった。


12月31日午後6時50分

     ミサイル発射まで後5時間10分。


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