第13話 生物兵器
「嘘だろ・・・。そんな・・・あいつは人に弓を向けて放つなんてことができるやつじゃ・・・。」
多田さんは動揺を隠せなかった。一年前、満面の笑みで合格を報告してきた息子が。先月の自分の誕生日、帰れない息子はわざわざ手紙とプレゼントまでよこしてくれた。そんな優しい息子が今、父親である自分の命を狙っている。堪らない・・・。
そんな悲愴な面持ちの多田さんに滝ノ下は、なめた口調で言い放った。
「あいつはもう昔とは違うんだよ、お父さん。」
多田さんの顔がだんだん険しくなり、拳を強く握りしめた。
「なんで変わったのか教えてやるよ。ふふふっ」
それを聞きみんなが耳を傾けた。
「後ろにいる裏切り者達は知っていると思うけれど、あいつはある薬を体内に投与したんだ。あいつだけじゃない。体育館にいたやつら全員だ。俺もな。ふふふっ」
「それでその薬は」
「よく聞いてくれた拓也!」
途中で話を切るように言ってきた。
「その薬の名は・・・ST2だ。」
なんの薬なのか誰もわからなかった。
「なんだよ、そのST2っていうのは?」
松尾が聞いた。
「危険な薬さ。ふふっ。一歩間違えればこの世を滅ぼすことだってできる。名前はこれを作った、俺と笹見のイニシャルをとってつけた。」
滝ノ下と笹見がこの薬作ったという事に、皆驚いた。警察官であるのにもかかわらず、なぜ薬を作って、町を壊滅状態にさせたのか、皆疑問に思った。そして、それは滝ノ下の鋭い洞察力に見破られた。
「なんで、警察官である俺たちが作ったかって?金儲けだよ。この薬を軍事国に売れば、大金が入ってくる。生物兵器としてな。そして俺と笹見と研究員20人くらいで開発に取り掛かった。」
「まず初めできたのがSTだ。そしてすぐに人体実験をした。
投与された人間は次第に皮膚が腐敗し、全身の筋肉は成人の何倍も衰えた、ある部分を除いては・・・。」
みんな息を呑んだ。冷汗が大量に出る。
「噛む力さ!それと同時に人肉食動物になる。」
「人肉食動物!?!?」
「名前そのままさ。人の肉だけ食べる動物。そしてその戦闘能力を測るために警官をその実験室に呼んだ。」
野上が急に立ち上がって言った。
「保坂と山根だろ!」
「そうさ、他の学生や親族には、訓練中に山で遭難して動物に食いちぎられたと話した。そしたらみんな疑いもせずに信じやがった!ははははっ!!!」
「みんなじゃない!少なくとも俺と大口は疑った。」
野上さんは悪を恨む強い目をしていた。
「そうなのか。でもそんなことはどうでもいい!あいつらにはこの実験室の中にいる一匹の鼠を捕まえて欲しいと言った。外見は本物にみえるロボット鼠だけどな。
二人は始め、俺たちを怪しい目で見ていたが・・・・・・
・・・・・・
「1000万円でどうだ?」
保坂と山根は顔を見合わせた。
「やります。」
「だが!・・・このことは他の学生には秘密だ。あと念のため拳銃を渡す。殺してでもいいから俺の所にもってこい。」
二人は少し戸惑ったが実験室の中に入った。
実験室は二部屋が通路で結ばれている。まず実験体がいない部屋から捜索を始めた。
「お、いた鼠!」
「どこだ、保坂!?」
「棚のところ!」
足で踏みつけ様としたが、すばしっこく逃げた。
ついには5mほどの小さな廊下を渡り隣の部屋へ行ってしまった。
「くそ!銃で殺っちまうか?」
そういうと保坂が先に廊下を渡った。
「おっ、いたいた。」
鼠は静かに静止していた。
「おとなしくしていろよ・・・くそ!逃げられた。」
つい本気になって床に倒れてしまった。すると目の前の自分の陰がだんだん大きくなった。
よく見ると別人のものだ。
「山根だろ?脅かすな・・・・・滝ノ下教官?どこに言っていたんですか?みんな」
「おい保坂〜。捕まえ」
「ぎゃああああ!」
廊下にいた山根は急いで駆けつけた。すると異常な光景が目に入った。
倒れている保坂は右肩を噛み付かれている、警官に!
「おい何をしているんだ!!!!」
噛み付いている警官を無理やり手で押しのけた。その人物の顔を見て唖然とした。
「・・・滝ノ下教官じゃないですか?なんでこんなことを・・・!!!」
口から保坂の血をたらしながら、ほふく全身でのろのろと近づいてくる。
「保坂!大丈夫か!?すぐに手当てしてもらおう。」
「立てるか?せーの!・・・いくぞ。」
二人は廊下を渡り隣部屋まで戻った。なおも滝ノ下教官は追ってくる。
そしてようやく二人は扉へとたどり着いた。が、扉が開かない!
「教官開けてください!!早く!滝ノ下教官が保坂の肩に噛み付いたんです!」
だが応答は無い。振り返ると滝ノ下教官がこっちの部屋まで来ていた。
仕方なく山根は保坂を壁にすがらせ、銃を構えた。
「すいません。」
『パァーン!!』
見事肩に命中!しかしまだ動いている!
「なぜだ!?命中したのに・・・。くそ!もう一発!!」
『パァーン!!!』
今度は頭に命中!頭は砕け、脳が飛び散った。
「気持ち悪!!!・・・・保坂だい」
実験結果に頭を抱える滝ノ下。
「くそやはり頭を撃てば死ぬか。改良が必要だな。」
「うわぁあああああああ!!!!!!!!!やめろぉおおおおおおお!!!!!!!!!
保坂ぁああああああああ!!!!うわぁああああああああああああああ!!!!!!」
「どうしたんだ?一郎はもう死んだはずじゃあ。」
壁の向こうがわで何が起こっているのかは、こちらからは見えない。
滝ノ下は助役に聞いた。
「どうやら山根に感染したようです。」
「感染!?」
「たぶん噛んだときに、肩から侵入してのだと思われます。」
「感染するのかぁ・・・・・・・・感染するまでに何秒かかった!?!?」
「72秒です。」・・・・・・・
・・・・・・・
「これは使えると思い、すぐに改良した。できるだけ急所をなくし死なないように、感染が早くなるように・・・。そうして誕生したのが生物兵器ST2だ。皮膚は腐敗しない、筋肉は衰えるどころか、何倍も増強。こんないい薬はどこさがしてもねぇよ。ふふふふっ。」
「そんなのいい薬じゃねぇよ!」
拓也は叫んだ。
「人を犠牲にしてまで作るなんて・・・。どうしてなんだよ?あの交番の時の滝ノ下さんはどこに行ったんだよ!?・・・自分のオヤジのように思えていたのに・・・。」
「お前も鈍感だな。いいよ、教えてやる。」
意外だった。絶対に断るか、切れて殺されるか。拓也は覚悟していたのだが・・・。
そして、滝ノ下は一息つき、にやりとした表情で自分の正体をばらした。
「俺は滝ノ下三郎じゃない!その兄、滝ノ下次郎だ!」
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